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■酩酊と幻惑ロック 番外編 第4回「ドゥームと映画 【加藤】」

第1回「私のドゥーム入門 その1 【杉本】」
第2回「ドゥーム/ストーナー/スラッジ入門 : あえての変化球 【加藤】」
第3回「メタルな俺とパンクス友人の感性の違い【杉本】」

「酩酊と幻惑ロック 番外編」の第4回。今回のテーマは「ドゥームと映画」です。
Black Sabbathがバンド名をマリオ・バーヴァ監督のホラー映画『ブラック・サバス 恐怖! 三つの顔』(1963年)から取ったことは、『酩酊と幻惑ロック』のコラムで触れた通り。その影響かは定かではありませんが、一部のドゥームバンドは映画への愛を隠しません。特に70年代のオカルト、ゴシック・ホラーやスリラー、バイカー映画など、流血や性的描写を含んだいわゆる「B級映画」、「エクスプロイテーション映画」が、曲の題材やアートワーク、MVなどで頻繁に取り入れられています。
この手の映画を観たことがある人ならわかると思いますが、後の時代の作品と比べて話の「テンポがゆったり」しているものが多いですよね。私はこうした映画をドゥームと関係なく好んでいたのですが、ドゥームの「重さと遅さ」を理解する上で、音楽とイメージが合致したことが大きな要素だったと感じています。好きな映画と好きになりかけていた音楽が繋がったことで、さらにのめり込むきっかけにもなりましたね。
メタルのサブジャンルの中では異端扱いされることもあるドゥームですが、「あの辺の映画の、あの感じ」がわかる人なら意外と入り込みやすいかもしれません。それでは、映画と関連のあるドゥームの曲/作品をいくつか紹介します。

■Witchfinder General “Witchfinder General”(『Death Penalty』(1982年)より)

1979年に結成されたNWOBHM〜ドゥーム・メタルバンド。バンド名は実在の「魔女狩り将軍」マシュー・ホプキンスを題材にしたヴィンセント・プライス主演の映画『Witchfinder General』(1968年)に由来します。音楽だけでなく、映画からバンド名(と曲名)を拝借するところもBlack Sabbath譲りと言えるでしょう。杉本氏の連載第1回で紹介されたCathedralの”Hopkins(The Witchfinder General)”も同作を題材にした曲です。なお、映画は現在リメイクが進行中とのこと。


■Cathedral "Templar's Arise! (The Return)" (『Endtyme』(2001年)より)

ドゥームメタルの立役者的バンドであるCathedralは、映画ネタが非常に多いことで知られています。特にスペイン産ホラー『エル・ゾンビ』シリーズを題材にした曲が複数あり(全部で何曲だ?)、これはシリーズ1作目『エル・ゾンビI 死霊騎士団の覚醒』(1971年)を題材にした1曲です。
映画は、馬を駆るテンプル騎士団の亡霊(ゾンビ)の強烈なビジュアルで知られていて、特にスローモーションで撮られたシーンはバンド、というかLee Dorrian(Vo.)ご執心なのも納得なドゥームメタル的映像美に仕上がっています。


■Electric Wizard “Wizard In Black”(『Come My Fanatics…』(1997年)より)

このバンドも映画ネタが多すぎる……なので個人的に思い入れのある曲を紹介します。イントロに使用されているのはイタリア製ホラー『悪魔の墓場』(1974年)のセリフ。私が初めて「元ネタ」のわかった曲で、この曲を聴いた時がドゥームと映画が繋がった瞬間だった気がします(この後に『人喰族』(1981年)を観て前曲”Return Trip”のセリフの元ネタを知ることになる)。ちなみに『We Live』(2004年)のボーナス・トラック”The Living Dead At Manchester Morgue”も『悪魔の墓場』ネタの1曲。

雑誌「ペキンパー」Vol.5(オルタナ・パブリッシング)でJus Oborn(Vo.、Gt.)にインタビューした際、彼に好きな映画を尋ねたところ、さまざまな作品と一緒に鈴木則文監督『堕靡泥の星』(1979年)を挙げていたのが印象的でした。日本の雑誌だから気を遣ってくれたんだろうなあ。


■Uncle Acid & the Deadbeats “Il Sole Sorge Sempre”(『Nell’ Ora Blu』(2024年)より)

デビュー時からアートワークやMVなどで映画への意識が強かったバンドですが、本作でその究極に達してしまいました。70年代イタリアのジャッロ映画などからインスパイアされたという本作は、映画サウンドトラックを忠実に再現しながらドゥーム要素も巧みに溶かし込んだ意欲作です。Kevin Starrs(Vo.、Gt.ほか)いわく「フェイク映画でもなければ、伝統的なサウンドトラックでもない。どちらかといえば、音楽付きのラジオドラマに近い」とのこと。70年代当時にその手の作品に多数出演していた俳優のフランコ・ネロ、エドウィジュ・フェネシュらがセリフでゲスト参加。2人の初共演作(!)でもあります。日本盤はトゥルーパー・エンタテインメントから『血ぞめのブルーアワー』の邦題で。「あらすじ」含む本作の詳細はトゥルーパー・エンタテインメントのサイトに掲載されています。


■Blood Farmers “Headless Eyes“(『Headless Eyes』(2014年)より)

1989年に「ホラー映画とBlack Sabbathとの融合」をコンセプトに結成されたアメリカのバンド。デジタル・リリースをしていないのですが、ドゥームと映画を語る上では絶対に外せません。バンド名からして『血まみれ農夫の侵略』(1971年)ですからね。この曲は1971年の同名映画(筆者未見)を題材にした1曲。映画からサンプリングしたと思われるセリフが印象的な、バンドのコンセプトを体現した1曲となっています。アルバムにはウェス・クレイヴン監督『鮮血の美学』(1972年)のサウンドトラックで、出演俳優でもあるデヴィッド・ヘス作曲の”The Road Leads To Nowhere”のカバーも収録されています。


■Satan’s Satyrs “Carnival of Souls“(『Wild Beyond Belief!』(2012年)より)

Electric Wizardにも一時在籍したClayton Burgess(Vo.、Gt.ほか)率いるドゥームパンク・バンド。この曲名はカルト・ホラー『恐怖の足跡』(1962年)の原題ですね。歌詞も作品の内容に沿っています。最後の一節はネタバレなので要注意。曲調は映画のムードとは合っていないが……冒頭のチキン・レースのシーンならハマるか。『恐怖の足跡』は個人的に最も「ドゥーム」を感じる映画です。パブリック・ドメインなので、観ようと思えば無料で観られるはず。


■Salem's Pot “Nothing Hill”(『...Lurar ut dig på prärien』(2014年)より)

2011年に結成されたスウェーデンのバンド。本作はEPが話題を呼んで満を持してリリースされた1stアルバムで、ジェス・フランコ監督『ヴァンピロス・レスボス』(1970年)などで知られる夭折の女優、ソルダード・ミランダをドドンと据えたジャケットに唸った記憶があります。この曲自体は特定の映画を題材にしたものではなさそうですが、MVにはさまざまな映画のフッテージが使用されています(日本の映画も!)。

■The Death Wheelers “Ditchfinder General”(『Divine Filth』2020年より)

2015年に結成されたカナダのバンド。バンド名はバイカー/オカルト・ホラー映画『サイコマニア』(1973年)の別題から。『ロボ・コップ2』(1990年)にインスパイアされた「架空のバイカー映画のサウンドトラック」からの1曲。曲名は明らかに『Witchfinder General』のパロディですね。機械翻訳した本作の「あらすじ」を引用しておきましょう。ジャケットと合わせればどんな「映画」か、伝わる人には一発で伝わるかと。

“1982年、スパーシティは荒廃し、犯罪率は上昇し、ドラッグの使用も増加している。新種の麻薬がストリートを襲い、それは美しくない。強力で中毒性の高い幻覚剤DTAが、忠実な市民をアンデッドのゴミに変えているのだ。使用者は何とも言えない高揚感を味わうが、数日で腐り果て、人肉を切望するようになる。この強力な新薬を誰が扱っているのか誰も知らないが、噂によれば、オートバイ・カルト集団「デス・ホイーラーズ」がこの調合薬の背後にいるという。これは私たちが知っている文明の終焉なのだろうか? この狂気の集団を動かしているものは何なのか? すべてに死を…” (引用元:https://thedeathwheelers.bandcamp.com/album/divine-filth


■Sleep “Holy Mountain“(『Sleep's Holy Mountain』(1992年)より)

Sleepは「ストーナーSF/ファンタジー」とでも言うべき世界観の歌詞やアートワークで、ドゥーム/ストーナーのビジュアル面への影響が大きいバンドです。影響力が大き過ぎて時々忘れてしまうのですが(私だけ?)、この曲/アルバム名はアレハンドロ・ホドロフスキー監督『ホーリー・マウンテン』(1973年)からでしょう。歌詞は映画よりも「ザ・Sleep」といった感じの内容ですが。
ちなみにハーモニー・コリン監督『ガンモ』(1997年)、ジム・ジャームッシュ監督『ブロークン・フラワーズ』(2005年)でSleepの楽曲が使用されています。


■Bell Witch “Mirror Reaper”(『Mirror Reaper』(2017年)より)

ライブで使用されていた映像が印象的だったのが、アメリカのフューネラル・ドゥームバンド、Bell Witchによる80分超えの大曲「Mirror Reaper」です。MVには先述の『恐怖の足跡』や『スパイダー・ベイビー』(1968年)、『血のバケツ』(1959年)などのフッテージが使用されていて見応えたっぷりです。80分は曲としては長いですが、映画としては短い時間ですね。私は音源未聴のまま本作の完全再現ライブを観たのですが、同時上映されていたこのMVに釘付けでした。


■加藤隆雅(かとう・たかまさ)
1988年生まれ。元・梵天レコード主宰。現在はAmigara Vaultというディストロをやっています。本書の編著者の杉本氏と「Tranqulized Magazine」というウェブジンも運営しています。

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