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■酩酊と幻惑ロック 番外編 第1回「私のドゥーム入門 その1 【杉本】」

こちらの東京キララ社noteでは、はじめまして。
昨年11月に刊行されたディスクガイド『酩酊と幻惑ロック』で編著者を務めた、杉本憲史です。

この度、東京キララ社から「同書に絡めた10曲のプレイリストを作成せよ」とのお達しを受け、4カ月間の短期連載をすることになりました。監修・著者の加藤君とリレー形式で、2週に1回ペースで更新していく予定です。
酩酊と幻惑ロック』で紹介した盤からの選曲もあれば、そうでないものもあります。
どうぞよろしくお願いします。

打ち合わせで第1回のテーマは「ドゥーム入門編」的なものに、という話になりました。そこで、まさにドゥームの王道といえる作品で、自分が入門した作品から選曲してみました。ただ、一般的な紹介や説明は『酩酊と幻惑ロック』、あるいは巷の雑誌やウェブの記事で読めるでしょうから、ここではひとつ『酩酊と幻惑ロック』には書き切れなかった個人的な思い入れについて書いていきたいと思います。
私のドゥーム原体験となった作品群について、いつ、どのような経緯で出会い、どのような衝撃を受けたか、その曲にまつわるどんなエピソードがあるか、そんなことを思い出しながら記していきます。

当初は10曲選ぶつもりでしたが、テキストが長くなりすぎてしまったので、5曲ずつの前後編に分けてお送りします。

■Black Sabbath "War Pigs"(『Reunion』1998年より)

初めてBlack Sabbathを聴いたのは中学生の頃、このライブアルバムでした。当時の私はDeep PurpleやJudas Priestにハマっていた王道のハードロックギター少年で、家でDeep Purpleの"Highway Star"や"Smoke On The Water"などをかけていたら母親もハードロックにハマって自分でアルバムを買ったりするようになったので、その母親を「このBlack Sabbathってバンドは凄いらしいから聴かなくてはならない」とそそのかして買わせたと記憶しています。「母親にBlack Sabbathを買ってもらう」ということ自体がまったく〝ロック〟じゃないんですけど。場所は新宿か池袋の「レコファン」だったような。

冒頭を飾るこの曲の重さ、遅さもさることながら、「Aメロ⇒Bメロ⇒サビ」といったポピュラーミュージックの定型にはまらないドラマティックな曲展開に衝撃を受けた覚えがあります。あと、Ozzy Osbourneのヴォーカルも本作が初体験で、「何だこれ!」と。「音外してるじゃないか……」とも思いましたが、そこにかえって凄みを感じたり。

このライブアルバムは国内盤のライナーノーツが良くて、The Yellow Monkeyの廣瀬洋一氏、はたけ氏、海外のヘヴィロック界隈のアーティストなどがBlack Sabbathについて語ったコメントが掲載されています。当時、音楽が格好良いか格好悪いかを判断する尺度として、中学生のメタルヘッズの脳内では「メタルかメタルでないか」、メタル系の音楽シーンのなかでは「ニュースクールかオールドスクールか」みたいな対立軸が割とあったと思うのですが、そこの垣根が取っ払われた人選に、音楽を俯瞰的にみる視点を教えてもらった気がしています。その精神は、『酩酊と幻惑ロック』にも活きていると思います。


■Cathedral "Hopkins (The Witchfinder General)"(『The Carnival Bizarre』1995年より)

このアルバムを買ったのは、地元・所沢にかつてあった中古CD屋「HAPPY」でした。多分、私は中学生だったと思います。「J-POP / 洋楽 / ジャズ / クラシック」くらいのざっくりした棚割の小さい店でしたが、近所にメタル者がいたのか、洋楽コーナーのメタル系の回転率が割と良い感じの店で、よく通っていました。初めてIron MaidenやDeep Purpleを買ったのもこの店です。

このアルバムは長らくその洋楽棚に常駐していました。当時、私はCathedralというバンドを知らず、売られていた盤には帯も付いていないという予備知識なしの状態で、「これはEaracheでToy’s Factoryだから間違いないやつ」なんて目利きをしたわけでもなく、何回も目にするうち異様なジャケットから「これは何らかのメタルに違いない」と思って購入に至った次第です。

初めて聴いたときの感想は、グネグネとうねる太いリズム隊に上手いんだか下手なんだかわからないヴォーカルが乗るスタイルが「なんかよくわからんけど気持ち良い」というものでした。当時はスラッシュ四天王とかのソリッドなメタルを中心に聴いていたので、結局そのときは「何らかのメタル」以上でも以下でもない位置付けにとどまりましたが、その頃隆盛を誇っていたメタル系個人サイトを通じて情報交換していた人に「Cathedralはドゥームメタルの大御所。Cathedralを好きでも嫌いでも構わないけど、Cathedralを知らないと言うとナメられるよ」と教えてもらってから改めて真剣に向き合って聴き込むうちに、いつの間にかハマっていました。本作ならこの曲がフック満載で一番好きですかね。


■Witchcraft "No Angel Or Demon"(『Witchcraft』2004年より)

この曲との出会いは高3か浪人のとき、つまりほぼリアルタイムです。当時はエクストリームメタルを追いかけていた高校時代の流れでデスメタル/グラインドコアあたりを聴きながら、上記のCathedralやKyuss、Orange Goblinなどに代表されるドゥーム/ストーナーにもハマり出していた時期。通販サイト「はるまげ堂」でデス/グラインドの新着ものをチェックしていたときに本作を見つけました。

グロいジャケが並ぶ同サイトのなかで渋い色調のジャケット(絵は19世紀イギリスのイラストレーター・Aubrey Beardsley)が異彩を放っていたのと、レーベルのRise Aboveにも注目していたので注文した次第です。具体的には覚えていませんが、サイトの紹介文も興味を惹くような内容だったと思います。

後に隆盛を誇る「レトロドゥーム」とか「古典回帰」とかの走りのバンドで、いなたい70'sテイスト丸出しの楽曲はもちろん、デモテープみたいな生々しいミックスの音質もかえって新鮮でした。当時は激化したメタルばかり聴いていただけに、こういうのが現代メタルの表現としてアリなのかと衝撃を受けましたね(余談ですが、この興奮が10年くらい続いた結果、後に『Vintage and Evil』という変な本を著すに至ります)。

それでMySpaceだったかオフィシャルサイトだったか忘れましたが、どこからかバンドの連絡先を入手して「あなた方は素晴らしい!」とトチ狂ったメールを送ったところ、メンバーからレスポンスがあり、より前のバージョンが収録されたカセットテープを送ってもらいました。そのリーダートラックが見出しにある"No Angel Or Demon"だったので、この曲は強く印象に残っています。「The Metal Archives」によると2003年に「No Angel Or Demon」というシングルをリリースしているようなので、それをテープに焼いてくれたのかもしれません。このテープは実家のどこかにあるはずです。


■The Obsessed "Inside Looking Out"(『Incarnate』1999年より)

買ったのは高校か大学のとき、Disk Unionの店舗のどこかで……と記憶があやふやな1枚です。なかでもこの曲が、粘り気と色気のある至高のドゥームリフにドラマティックな展開が合わさった素晴らしい楽曲。このコンピレーションアルバムのなかでは、この曲ばかり聴いていましたね。
The Animalsの"Inside Looking Out"をGrand Funk Railroadがカバーしていて、本作のバージョンはGrand Funk Railroadバージョンのアレンジに準拠したものだと、後に知りました。個人的にこのGrand Funk Railroadバージョンは、The Animalsバージョンよりも格好良いと思っています。

余談ですが『酩酊と幻惑ロック』発売後、東京キララ社で昨年12月に開催された刊行記念DJイベントで、私はGrand Funk Railroadの"Inside Looking Out"をかけました。3月に出演した「InterFM The Dave Fromm Show」でも同曲をリクエストしました。大勢では「格好良いね!」という反応を頂けたのですが、一部、若い方から「クラシックロックじゃなくてドゥームをかけてくれ」とか、リアルタイム世代から「グランドファンクはやっぱり素晴らしいね」という反応を頂きました。そうした反応はちょっとこちらの意図したものとは違っていて、私が伝えたかったのはこの曲自体が掛け値なしにドゥームそのものだということです。こういうのは言葉を尽くして説明しないと、なかなか伝わらないのかもしれません。


■Witchfinder General "Requiem For Youth"(『Friends Of Hell』1983年より)

このアルバムを買ったのは大学生のとき。2007年にWitchslaught(当初はSatanarkist)の結成に参加してから、メンバーで古典的な暗黒メタル/ハードロックを聴き漁っていて、どこかのDisk Unionで購入したものです。このWitchfinder General、高校時代までは雑誌やディスクガイドなどで知ってはいたけどあまり中古屋で見かけない印象のバンドでした。当時、こうしたNWOBHMモノなどが次々と再発されて、CDが中古市場に出回るようになったという時代的背景も、出合いに大きく影響していると思います。

Witchfinder Generalは80年代のヘヴィメタルのなかでは比較的珍しい「直球のサバスチルドレン」で、そこまで高くない演奏技術や音質もそのままにレコードに収めている姿勢に、かえって凄みを感じたもの。とりわけ2ndアルバムに収録されたこの曲はドラマティックで、Witchslaughtメンバーの間でも話題になってよく聴いていました。

またも余談ですが、この曲にまつわる苦い思い出をひとつ。
当時、私が通っていた大学の文化祭に、Witchslaughtが出演したことがあります。文化祭ではいくつか野外ステージが設けられるのですが、「メンバーの最低1人が在校生のバンド」なら申請して出演することができました。それで、Witchslaughtのオリジナルメンバー3人を演奏隊に、大学の同級生で後にKanönenvogelのヴォーカルとなる男(現在は脱退)を加えた4人編成のバンドとして申請し、キャンパスの外れにあって文化祭中も閑古鳥が鳴いているようなステージの出演権をゲットしたのでした。

その特別編成のバンドでは、私たちが気に入っていたNWOBHMの楽曲をカバーしようということになり、Venom、Diamond Head、そしてWitchfinder Generalの上記の曲などでセットリストを組みました。スタジオ練習での感触はマアマア。しかし、いざ本番を迎えると、まずだだっ広い客席に観客が私のサークルの後輩の4、5人しかおらず、我々は観客の少なさに比べて大きすぎる野外のステージに委縮してガチガチに。まったくひどいパフォーマンスでした。4、5人だけ来てくれた後輩には感謝しかありませんが、一方で慕ってくれていた後輩の前で集客力のなさとステージ力のなさを露呈しまくり、中学時代から続く私のバンド生活のなかでもワーストと言える醜態を晒したのでした。

まあ今となっては笑って思い返せるようになりましたし、当時のスタジオリハーサルの音源でも残っていれば結構お宝になったかもしれませんね。いや、探したらどこかにあるかな?


■杉本憲史(すぎもと・のりひと)
1986年生まれ。NightwingsWitchslaughtでギター&ヴォーカルを担当。編著書に『酩酊と幻惑ロック』(東京キララ社)、『Vintage and Evil』(オルタナパブリッシング)。『酩酊と幻惑ロック』の監修・著者である加藤隆雅とウェブメディア「Tranquilized Magazine」を共同運営。出版業界専門紙「新文化」記者。

■酩酊と幻惑ロック 番外編 第2回「ドゥーム/ストーナー/スラッジ入門 : あえての変化球 【加藤】」


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