見出し画像

■酩酊と幻惑ロック 番外編 第5回「Panteraの元ネタはCandlemassなのか?―アングラメタルの血脈【杉本】」

第1回「私のドゥーム入門 その1 【杉本】」
第2回「ドゥーム/ストーナー/スラッジ入門 : あえての変化球 【加藤】」
第3回「メタルな俺とパンクス友人の感性の違い【杉本】」
第4回「ドゥームと映画 【加藤】」

90年代から00年代にかけて、メジャーなヘヴィロックシーンで様々なサブジャンルが隆盛を誇りました。グランジ、ミクスチャー、ラウドロック、ニューメタル、(80年代のじゃない)メタルコア――。これらサブジャンル群の定義は様々ですが、基本的には横ノリでモッシーなヘヴィロックがライブハウスのフロアを、レコードショップの店頭を、そして教室や居酒屋における仲間内の音楽談義を席巻した一方で、80年代以前のハードロックやヘヴィメタルは後方に追いやられてしまった感がありました。

実際、私が高校時代を過ごした00年代前半には、「90年代以降のヘヴィロックは格好良い、それ以前のロックはダサい」なんてことを平然と言ってのける人が私の周辺にも多数いました。こうした発言の背景には、自分たちが聴いている音楽に対するリアルタイム世代ゆえの思い入れもあったことでしょう。すなわち、「俺達の時代に流行った音楽こそが俺達の音楽だ」という、それこそあらゆる世代の人々が自分たちの世代の音楽に抱いてきたに違いないパッションが。

この「90年代以降のヘヴィロックは格好良い、それ以前のロックはダサい」というのは、他にも「ヴォーカルがデス声/スクリーム/シャウト/ラップスタイルのバンドは格好良い、歌い上げるスタイルはダサい」「弦楽器がダウンチューニングしていてエフェクターをいっぱい並べているバンドは格好良い、レギュラーチューニングであまりたくさんのエフェクターを使わないバンドはダサい」「大き目サイズのTシャツにハーフパンツでキャップを被ってるようなファッションのバンドは格好良い、メンバー全員がロン毛でピチっとした服に身を包んでるようなバンドはダサい」などなど、色んなパターンがあります。すべて私は実際に言われたことがあるのですが、その意味するところはまあ大体同じで、結局は「90年代以降のヘヴィロックは格好良い、それ以前のロックはダサい」に集約されます。

もちろん、個人の好みとして「90年代以降のヘヴィロックは格好良い、それ以前のロックはダサい」という感想を抱くのは自由ですが、「90年代以降のヘヴィロックはそれ以前のロックとは関係がない」とまで言ってしまうと明確な誤りと言えます(今となっては、そんな考えの人はもういないと思いますが)。例えばグランジやミクスチャーをとってみても、その界隈の音源を掘って血脈を辿れば80年代のハードコア・パンクや70年代のハードロックがルーツにあることは明らかです。私がそう説いてもなお「90年代以降のヘヴィロックは格好良い、それ以前のロックはダサい」という考え方に固執する友人が多かったのが、当時は不思議でした。「自分が好きな音楽のルーツを『古臭くて格好悪い』とよく切り捨てられるな。その姿勢で自分が好きな音楽を本当に理解することができるのか?」と。

しかし、私自身が歳を重ねてアラフォーとなった今では、この現象は別に不思議でもなんでもなくなりました。そうした知人たちの多くは、私と同じように年を重ねてアラフォーになった現在、青春時代のような情熱をもって現在や過去の音楽を掘ったりしていないように見えます。最も多感で音楽というものが純粋に心に入り込んでくる「青春期」というスペシャルな人生の季節において、たまたま同時代的に流行していた音楽を支持していたに過ぎないのです。だから、歌謡曲やJ-POPのヒットチャートだけを追いかけていて、「昔は山口百恵のファンだった(けど今は音楽を熱心に探究しなくなった)」とか「昔は宇多田ヒカルの1stをよく聴いた(けど今は音楽を熱心に探究しなくなった)」とか「昔は浜崎あゆみとかSpeedをよくカラオケで歌った(けど今は音楽を熱心に探究しなくなった)」というような、我々が日常生活レベルでよく出会う、いわゆる音楽マニアではないという意味での〝一般層〟とある意味では変わらないのです。主にJ-POPを聴く友人と付き合っていたから同時代のJ-POPに詳しかったのと同じように、主にロックを聴く友人と付き合っていたから同時代のロックに詳しかったってだけです。

かといって自分にドンピシャの世代以外の音楽を、わざわざ遡って掘ったり、歳を重ねてまでも最新の音楽にキャッチアップし続けてその血脈を辿り、分析し続けるのが偉いと言いたいわけではありません。極論すれば多くの音楽は、「今、ここで、(できれば多感な若者に)聴かれる」以外のことをリスナーに要求していないと思います。それを、歳を重ねてから自分の世代でもない過去や現在の音楽をあれこれ聴き、特定のジャンルに限らず横断的に音楽を聴いてそこの連関や断絶をあーだこーだ議論したがるから〝マニア〟或いは〝オタク〟なのです。私ごときの音楽趣味では到底マニアやオタクを名乗ることはできませんが、それでも私みたいにゴチャゴチャうるさいのは大学や職場の飲み会、家族でテレビを見る団欒のシーンなどで煙たがられるだけです。

何が言いたいのかというと、ひとり孤独に世代やジャンル問わずに音楽を探究するのと同じくらい、同時代の仲間と同時代の音楽で盛り上がるのも、音楽以外の何か(勉強、仕事、スポーツ、恋愛、ゲーム、家庭環境の維持etc)に情熱を捧げるのも、等しく豊かな時間であるに違いないということ。人間一人がもつ時間と熱量は有限なのですから、ありとあらゆることを広く深く味わい尽くすなんてことはできない。そんな当たり前のことにアラフォーになって思い至り、こんなにも言葉を尽くして書かなくてはならなかったあたりに、私の鬱屈したルサンチマンが表れていますね。そして話がズレまくってしまいました。

今回は、90年代以降のメジャーなヘヴィロックシーンで活躍したミュージシャンが、80年代以前のカルトメタルからの影響を明らかにした(のかもしれない)話をひとつふたつしたかっただけなのです。90年代以降のメジャーなヘヴィロックが決して80年代以前のHM / HRと断絶したものではないという、今となっちゃ当たり前すぎることを、90年代当時のアーティストが体現してくれた例についてご紹介します。

■Candlemass "A Cry From The Crypt"(『Ancient Dreams』1988年より)

と言って最初にするお話が、別に裏取りができているわけではないので大変に恐縮なのですが、この曲のリフがPanteraの“Revolution Is My Name”の元ネタになっているのではないかと個人的に思っています。寡聞にして、私はこの説を唱える他の人に出会ったことがないので(すでに雑誌やネットで指摘されていたらすみません)、あえてこの場を借りて世に問うてみたいと思った次第です。

PanteraとCandlemassでは同じヘヴィなメタル(ヘヴィメタルなのは当然だけど、そのなかでもとくにヘヴィさを売りにしているメタルだからあえての「ヘヴィなメタル」ね)といえどもコアとなるリスナー層が異なると思われるので、あえてこの2バンドを結び付けて考える人があまりいないのかもしれませんが、PanteraのヴォーカルであるPhilip Anselmoがアングラメタルのディガーとしてはかなり強者として知られることにも鑑みれば、PanteraがCandlemassを参照していたとしても不思議はないと思います。

なお、『酩酊と幻惑ロック』では、Candlemassの中心人物であるLeif Edlingと、PhilipによるPantera以外のサイドプロジェクトについても色々と紹介しています。

次に、90年代以降のメジャーシーンで活躍したアーティストが、80年代以前のカルトメタルのマニアだったという傍証を以下でもうひとつご紹介します。

■Probot "Shake Your Blood"(『Probot』2004年より)

元Nirvana~Foo FightersのDave Grohlが様々なメタル系ミュージシャンとコラボするプロジェクトのフルアルバム。例えば冒頭の3曲ではVenomのCronos、SoulflyのMax Cavalera、MotörheadのLemmy Kilmisterがそれぞれ登場してヴォーカルを担当。驚嘆すべきは、Daveがコラボ相手のバンドのテイストをそっくりコピーしたソングライティングを行っている点で、本当にそれらのバンドを愛し、理解していなければなしえない所業を披露しています。

酩酊と幻惑ロック』的に注目すべきポイントは、コラボ相手にドゥーム/ストーナー系のミュージシャンも多く名を連ねている点。例えばMike Dean(Corrosion Of Conformity)、Lee Dorrian(Cathedral)、Wino(The Obsessed)、Eric Wagner(Trouble)など。こうしたメンツが、上述のCronosやLemmy、はたまたTom G. Warrior(Celtic Frost)やKing Diamond(Mercyful Fate)といったメンツと一緒くたになって一枚のアルバムに収められていることに、当時はDaveのメタル趣味の幅広さを感じたものです。

ただ、こうしたジャンルに対する解像度がもう少しだけ上がった現在の私の感想もまた少しだけ違っています。ここからは想像になりますが、Daveは「あれもこれも」という感じで右から左に怪しげなメタルミュージシャンを集めたのではなく、彼の中ではこれらの音楽が有機的に繋がっているんだろうなと。

少々極端な例ですが、現在のリスナーが後追い的にヘヴィメタルを聴くと、Black Sabbathはハードロックまたは元祖ドゥームメタル、Motörheadはロックンロール、Diamond HeadはNWOBHM、Metallicaはスラッシュメタル、ってな風に切り分けて別々のサブジャンルの音楽として把握してしまうかもしれません。しかし、広く音楽を聴きながらシーンを追いかけている人なら、MetallicaはBlack SabbathとMotörheadとDiamond Headありきの音楽であることが自然とわかるわけで、Metallicaとそれ以前のバンド群をあえてサブジャンルで切り分けて区別する必要がないわけです。

私のような後追いの(このProbotのアルバムに対してはリアルタイムだけど、メタルの歴史というものに対しては後追いという意味)メタルヘッズがこのアルバムを聴いて最初に抱いた感想は「スラッシュもドゥームもオールドスクールメタルも色々入ってて幅広いなー」みたいなものだったのですが、Daveの本意はもっとシンプルに「地下メタルの血を、過去から現在に至るまで現役でプレイし続けてるミュージシャンたちとともに伝える」ってことだったのかもしれません。(第1回に続いて再び余談ですが、こうした気付きもまた、後に『Vintage and Evil』という変な本を著す動機のひとつになったのだと、今となっては思います)

ちなみに見出しの“Shake Your Blood”はLemmyが参加した曲。正直に言うと、このアルバムではこの曲ばかり聴いていましたね。

酩酊と幻惑ロック』では、レビューした各作品に収録されているカバー曲の情報を、なるべく載せるようにしました。そうした部分から、各年代のアーティストが世代を超えて過去の音楽から影響を受けている点を感じてもらえたら嬉しいです。

■杉本憲史(すぎもと・のりひと)
1986年生まれ。NightwingsWitchslaughtでギター&ヴォーカルを担当。編著書に『酩酊と幻惑ロック』(東京キララ社)、『Vintage and Evil』(オルタナパブリッシング)。『酩酊と幻惑ロック』の監修・著者である加藤隆雅とウェブメディア「Tranquilized Magazine」を共同運営。出版業界専門紙「新文化」記者。

第1回「私のドゥーム入門 その1 【杉本】」
第2回「ドゥーム/ストーナー/スラッジ入門 : あえての変化球 【加藤】」
第3回「メタルな俺とパンクス友人の感性の違い【杉本】」
第4回「ドゥームと映画 【加藤】」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?