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■酩酊と幻惑ロック 番外編 第6回「Queens of the Stone Age 『Songs for the Deaf』の衝撃【加藤】」

第1回「私のドゥーム入門 その1 【杉本】」
第2回「ドゥーム/ストーナー/スラッジ入門 : あえての変化球 【加藤】」
第3回「メタルな俺とパンクス友人の感性の違い【杉本】」
第4回「ドゥームと映画 【加藤】」
第5回「Panteraの元ネタはCandlemassなのか?―アングラメタルの血脈【杉本】」

今回は自分のルーツ的な作品について。『酩酊と幻惑ロック』に掲載したレビューの拡大版みたいな感じで、初めて聴いた当時の感覚を思い出しながら書いていきたいと思います。

■Queens of the Stone Age 『Songs for the Deaf』(2002年)

Screaming TreesのMark Lanegan(Vo.)※、Dave Grohl(Dr.)が加入したQueens of the Stone Ageの3rdアルバム。アルバムのコンセプトは「ロサンゼルスからジョシュア・ツリーまでラジオを聴きながらドライブする」というもの。ちなみに距離は約250km、バスでの所要時間は約3時間だそうです(Google調べ)。

※『酩酊と幻惑ロック』の本作の項には「Mark Lanegan(Gt.&Vo.)」と表記されていますが、正しくは「Mark Lanegan(Vo.)」です。この場を借りてお詫びして訂正させていただきます。

 リリースは2002年ですが私が聴いたのは多分2003年で14、5歳の時です。ローカル局で放送していた『ベストヒットUSA』で”No One Knows”のMV(当時はPVか)を観たのがきっかけでした。バンド名が「石器時代のおかま」を意味すること、元Nirvana、Foo FightersのDave Grohlが加入したことを小林克也氏の口から知った。

車で轢いた鹿に逆襲されるドラマ(?)パート、抽象的な歌詞、Elvis Presleyを彷彿とさせるJosh Homme(Vo.、Gt.)と、隣のNick Oliveri(Vo.、Ba.)のいかにも危ないヤツな見た目とのコントラストが面白かった。Dave Grohlのコーラスでのタム回しには素直にカッコいい!と思ったし、Troy Van Leeuwen(Gt.、本作の制作には不参加)はどのバンドにも1人はいる目立たない人、Mark Laneganは演奏シーンにいないからメンバーだと思わなかった。総じて受けた印象は「クールでニヒル」。

 当時の私はニューメタル/ラップメタルを中心に聴いていて、アンダーグラウンドなメタルやハードコアには疎い(特にメタル好きというわけでもない兄が何故か持っていたCradle of Filth、Cannibal Corpseなんかを無断拝借して聴いてたぐらい)、「流行りの音楽」を聴いているつもりのリスナーでした。

そんな自分には”No One Knows”は、「ヘヴィ」だけどニューメタルやメタルのそれとは違う、「古臭さ」を感じるけど軽くない……当時の私は、古いロック=音が軽いと認識していたんですね。グランジの暗さ、Toolの異形とも違うし。 流行っていた他の「ロック」と照らし合わせると、ポップパンクの悪ガキ感やポストグランジの若いのに老成している様とも違う。“UKロック”やガレージロックほど線が細くない(これらのジャンルに精通していたわけではなく、断片的な情報と少ない音源から得た印象の話です)と、カテゴリーのわからない1曲でした。

……ダラダラと書いてみたのですが、当時は単純に「ザ・ロックって感じだな!しかもヘヴィだ!」→買うCDリストに追加、だけだったような気もする。ノスタルジアってのは恐ろしいものですね。CDを買ったのは池袋のHMVかWAVEで。今はどちらもない。

 CDを買って家に帰りプレイヤーにセットするまで、私の頭の中にあったのは”No One Knows”だけ。あの曲が聴ける!2曲目かあ~と呑気に再生したら、飛び出したのが“You Think I Ain't Worth A Dollar, But I Feel Like a Millionaire”。Nickのブチギレたシャウトと甘ったるい歌声が交錯する荒々しくヘヴィなガレージロック・サウンド。終わったと思わせて終わってない展開にもまんまと引っかかった。イントロのDJ(DwarvesのBlag Dahlia)の「I need a saga, what’s the saga?」という日本人の耳にも馴染みやすい口上も忘れられない。ちくしょう、やられた。アイスだと思ったらホットだった。そこから間髪入れずに”No One Knows”が始まり、もう降参です。

ドラッグを連想させる歌詞、Joshのか細いファルセットVo.と緊迫感のあるリフとリズムが印象的な”First It Giveth”、Mark LaneganがVo.を取る不気味で重厚な”A Song For The Dead”、”Hangin’ Tree”、一際ポップな“Gonna Leave You”、そしてノー・ブレーキで駆け抜けるアンセム”Go With The Flow”(このMVでジャケの二股フォークが何かを知った)。『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』の名副題「今にも落ちてきそうな空の下で」を思い出さずにはいられない”The Sky Is Fallin’”、陰鬱でヘヴィな”A Song for the Deaf”あたりは「古臭い」とは感じなかった。

 のちの自分の嗜好に関わっていそうなのが”God Is In The Radio”。ゆらゆらと揺れるリフとDr.のマーチングのようなリズム、後半のフェードアウトしそうでしない展開が気持ちよくて何度もリピートした1曲。

全曲好きになったわけでもなく、1分ちょっとしかない”Six Shooter”(コンセプト的には煽り運転にでもキレ散らかしている状態だろうか)、「古臭い」曲を投げやりにやっているように感じたガレージ/サーフロック調の”Another Love Song”は当時は「捨て曲」でしたね。 

ラストの西部劇風のアコースティック”Mosquito Song”は「隠しトラック」ですが、ジャケにも表記されているし、まるで隠されていない。本当の隠しトラックは”The Real Song for the Deaf”で、CDプレイヤーで1曲目の”You Think〜”を「巻き戻し」しないと聴けない仕様になっている。この曲の存在はだいぶ後になって知った。Spotifyでは収録されているのと、いないのと2バージョンある模様。この記事に貼り付けてあるのは無しバージョン。

ヘヴィ、ポップ、メロウ、ラウド、静、動、スロー、ミッド、ファスト……多様かつ約3時間の旅を1時間に圧縮したような密度の高さもあるアルバムだ。

話を2003年に戻すと、ニューメタル/ラップメタルの凋落が始まった年でもあるんですね(Linkin Park『Meteora』というモンスター・ヒットはありましたが)。私の「流行りの音楽」への意識はこれとともに薄れ、自分の嗜好に基づいた音楽を探っていった結果、ドゥーム/ストーナー/スラッジと「古いロック」含むその周縁へと辿り着くことになります。

 最後に、20年以上経った今聴くとどうか? 懐かしさこそあるけど「古くない」ですね。「古臭い」の第一印象から180度変わっている。当時のニューメタルを今聴くと小っ恥ずかしくなったりもしますが、それがない。そもそもこのアルバム聴かなかった年なんてないんじゃなかろうか? それぐらい今と地続きだと思える作品です。『ベストヒットUSA』さん、この曲のMV流してくれてありがとう。後半カットされてたけど。


おまけ:同時期に聴いた印象深い作品

■The Datsuns “Harmonic Generator”(『The Datsuns』(2002年)より)

QOTSAとほぼ同じ経緯で知った、ニュージーランドのバンド。当時はガレージロック扱いされることもあったようだが、ハイエナジーなハードロックです。中心人物のDolf de Borst(Vo.、Gt.)はのちにスウェーデンへ移住していて、この辺のバンドとヴィンテージ・リバイバルが「繋がる」気がするんですが、どうでしょう。


■Audioslave “Show Me How to Live”(『Audioslave』(2002年)より)

Soundgardenよりもこっちを先に聴いた。Rage Against The Machineは当然大好き。スーパーバンド的編成と、ラジオと砂漠の風景と車(ダッジ・チャレンジャー)が印象深い映画『バニシング・ポイント』(1971年)オマージュのMVが『Songs~』との共通点ですね。みんな心の砂漠を旅しているのだ。

■加藤隆雅(かとう・たかまさ)
1988年生まれ。元・梵天レコード主宰。現在はAmigara Vaultというディストロをやっています。本書の編著者の杉本氏と「Tranqulized Magazine」というウェブジンも運営しています。

第1回「私のドゥーム入門 その1 【杉本】」
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