使途制限のない寄付をしよう
ポール・グレアム(Paul Graham)が執筆したエッセー「Donate Unrestricted」の日本語訳になります。
2021年3月
非営利の世界の隠された呪いは、「使途制限のある寄付」である。非営利団体に関わったことがなければ、この言葉を今までに聞いたことがないかもしれない。でも、非営利団体に関わったことがあれば、おそらくこの言葉であなたはビクッとしただろう。
使途制限のある寄付とは、寄付者がそのお金でできることを制限する寄付のことである。大口の寄付では一般的で、おそらくデフォルトである。それなのに、悪い考えであることが多い。通常、寄付者が望むお金の使われ方は、非営利団体が選んだお金の使われ方ではない。そうでなければ、寄付を制限する必要はなかっただろう。でも、どこにお金が使われるべきかをよく理解しているのは誰なのか? 非営利団体? 寄付者?
ある非営利団体がどこにお金が使われるべきかを寄付者よりも理解していない場合、その非営利団体は無能であり、あなたはとにかくその非営利団体に寄付していてはいけない。
つまり、使途制限のある寄付は、本質的には準最適なのだ。使途制限のある寄付は、「悪い非営利団体への寄付か」または「間違ったことに対する寄付」のどちらかである。
この原則にはいくつか例外がある。ひとつは、非営利団体が包括的な組織である場合だ。たとえば、ある大学に使途制限のある寄付をするのは合理的である。なぜなら、大学は名目上はただ一つの非営利団体であるからだ。もうひとつの例外は、寄付者がどこにお金が使われるべきかを非営利団体と同じくらい実際に分かっている場合である。たとえば、ゲイツ財団には特定の目標があり、その目標を達成するために個々の非営利団体に使途制限のある寄付をすることがよくある。だが、あなた自身がある領域の専門家である場合や包括的な組織に寄付する場合を除いて、あなたの寄付は使途制限がなければもっと良い結果をもたらすだろう。
使途制限のある寄付が使途制限のない寄付よりもあまり良い結果をもたらさないのであれば、なぜ寄付者は頻繁に使途制限のある寄付をするのか? その理由のひとつは、「良いことをする」のが寄付者の唯一の動機ではないからだ。寄付者は、「足跡を残す」「いい評判を生む」「法令や会社の方針に従う」といった他の動機を持つこともよくある。[1]多くの寄付者は、使途制限のある寄付と使途制限のない寄付の違いを考えたことがないだけかもしれない。ある特定の目的のためにお金を寄付することが、寄付のやり方であると思っているかもしれない。公平のために言うと、非営利団体はそういった幻想を阻止しようと懸命に努力しない。そうする余裕がないのだ。非営利団体を運営している人たちは、ほとんどいつもお金のことを心配している。大口の寄附者に口答えする余裕はない。
そんな非対称な関係では、公平さを期待できない。だから、私は非営利団体があなたに伝えたいことをあなたに話してあげよう。非営利団体に寄附したければ、使途制限のない寄付をしよう。非営利団体があなたのお金を使うと信じるならば、非営利団体がどのようにお金を使うのか決めるのを信じてあげよう。
注釈
[1]残念なことに、使途制限のある寄付は使途制限のない寄付よりも多くの評判を生む。「X はアフリカに学校を建てるためにお金を寄付する」は、「Y 非営利団体が望むようにお金を使うため、X は Y にお金を寄付する」よりも関心を引くだけでなく、X に多くの関心が集まる。
このエッセーの下書きを読んでくれたチェイス・アダム、Ingrid Bassett、トレバー・ブラックウェル、Edith Ellio に感謝する。