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ブランド・レシピ Part.1(下ごしらえ編)

ブランド・レシピとは、誰でも自分のブランドを持てるようになったこれからの時代のブランドづくりの手順を案内していく記事です。

本編は、前回のPart.0の記事にもとづいて『下ごしらえ編』『調理編』『継ぎ足し編』の3つのパートで構成していきます。各パートにつきコーヒー1杯分にお金を払うくらいの感覚で読んでもらいたいという思いから、スタバのコーヒー(Tall)の1杯の値段を調べて、各パート360円としました。

※本編を読む前に、まずはPart.0(無料)に目を通すことをおすすめします。

コーヒーを片手に、自分がつくりたいブランドの未来に想いを巡らせながら読んでもらえればと思います。

1−1:ブランドの『カテゴリー』を決める。

まずは、自分がつくるブランドのカテゴリーを決めます。料理で言うと、つくる『メニュー』を決めるということです。カレーなのか、パスタなのか、ラーメンなのか、それを決めるということです。これを決めるときにでてくる視点は、3つあります。『自分』『お客さん』『ライバル』です。

まず、『自分』ですが、
これは自分が、そのブランドカテゴリーが「好きか?」「得意か?」それだけです。もし好きであれば、ずっと情熱を注ぐごとができるので、苦労も楽しみながらできます。もし得意であれば、そもそも苦労が少なく続けやすいです。
何度も言いますが、ブランドは“育てて”いくことが大事なので山も谷も乗り越えながら長く付き合っていけることが必須条件になります。なので、これが実は一番大事なポイントです。

次に、『お客さん』ですが、
これは自分が決めたいカテゴリーに、お客さんがつくと信じられるかどうかです。いまついているかどうかは関係なく、将来つくと信じられれば良いです。沢山つくかどうかは重要ではなく、少数でも熱狂的ファンであれば良い場合もあります。時間をかけて調査をする必要はなく、自分が直感的に信じられればそれで良いです。
自分が、好きか?得意か?だけでなく、このカテゴリーならきっとお客さんがつくだろうと信じられるカテゴリーを選んでください。

最後に、『ライバル』ですが、
これは実はあまり重要ではないです。ライバルの多そうなカテゴリーは避けた方が良さそうな気がしてしまいますが、そんなに気にする必要はありません。逆にすでにライバルが沢山いる場合は、そのカテゴリーのお客さんも沢山いるということなので、ライバルとアプローチの仕方を変えるだけで生きる道を見つけられる可能性は十分あります。

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1−2:ブランドの『提供価値』を決める。

次にやることは、さっき決めたカテゴリーの中で、自分のブランドがお客さんに対してどんな価値を提供するかを考えることです。これまたカレーで例えるならば、「めちゃくちゃ辛いカレー」なのか「健康に良いカレー」なのかを考えるということです。単純に「世界一美味しいカレー」でも「食べた人を幸せにするカレー」みたいなざっくりした内容でもいいかもしれません。

「○○(修飾語)な△△(さっき決めたカテゴリー) 」と言い表してみたときの「○○(修飾語)」の部分が提供価値と考えてしまっていいと思います。

ここで注意したいことは、それが“お客さんにとって”の価値になっているかどうかです。自分が良いと思っても、未来のお客さんが良いと思わなければ、それはブランドにはなりません。「うんこみたいなカレー」が、おそらくダメなのと同じです。ここで“おそらく”と書いたのは、確かに実際にやってみないと、「うんこみたいなカレー」がお客さんにとっての価値なのか分からない場合もあります。少数だけどコアなファンがリピートしてくれて繁盛するブランドになる可能性もあります。

だから、そこは自分がそう信じられるかどうかで決めて良いと思います。いずれにしても、必ず自分のブランドのお客さんをイメージして決めてくださいください。

どんな人たちに、どんな価値を提供したいかです。

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1−3:ブランドの理想的な『お客さん』を決める。

次は、ここまでぼんやりと考えてた『お客さん』のイメージを鮮明にしていきます。料理をつくるときに食べてくれる人のことを想いながら調理するのと同じで、ブランドづくりにおいてもお客さんのことを深く考えることは大切です。

お客さんをイメージするときに重要なのは、ブランドにとって“理想的な”お客さん像を決めることです。ブランドが成長していく内に、だんだんといろんなお客さんがついてきます。性別も、年代も、収入も、趣味も違う人が増えてくるのでお客さん像は徐々にぼんやりしてきます。だから、ここで考えるお客さんは早いうちからこのブランドのファンになってくれて、周りの人に進んで勧めてくれそうな理想的なお客さんだけで大丈夫です。身内とか友達とかの「あなたのファン」ではなく、あなたのことを知らくても「ブランドのファン」になってくれるというところがポイントです。

理想的なお客さん像を描くときに抑えるべき最も重要なポイントは2つです。人生における「価値観」と、生活における「行動習性」です。

「価値観」とは、その人がものごとを選択するときの判断基準です。たとえば、食べ物を選ぶ場合であれば、「美味しいから」「おしゃれだから」「安いから」「健康にいいから」などいろいろな判断基準がある中で、何を重視するのか?ということです。

「行動習性」とは、その人のライフスタイルの特徴のことです。たとえば、食事の習慣でいうならば、「自炊」「外食」「テイクアウト」「デリバリー」などいろいろな選択肢がある中で、どういう特徴的な行動をしているのか?ということです。

この「行動習性」は、基本的には「価値観」に基づいて形成されているものなので因果関係になっていることがほとんどです。例えば、「食べ物選択において重視するのは健康に良いかどうかで、日々の食事は外食ではなくて自炊しながら栄養管理を徹底。万が一、外食やテイクアウトする場合もオーガニックな野菜中心のものだけを選ぶようにしている」というようにです。

このように理想的なお客さんを想像しながら、「価値観」と「行動習性」のセットをいくつか書き出していくと、徐々にお客さん像が鮮明になっていきます。カテゴリーが「食べ物」だから食事のことだけを考えるのではなく、働き方はどうなのか?ファッションはどうなのか?買い物の仕方はどうなのか?などいろんな角度でお客さんを想像してみることが大事です。価値観や行動習性はそれぞれバラバラのものではなく、それぞれ関係性があって、それによって“その人”というものが出来上がっているからです。

これらの特徴を持つ人たちが、ブランドの提供価値にも共感してくれる人たちならば、それが理想的なお客さんということです。

これらは、性別や年代、収入などのスペック的なことを考える以上に重要です。なぜなら、昔と違って今は、同じ性別、おなじ年代、おなじ収入でも全く“共感のポイント”がバラバラだからです。多様性が当たり前となったいまの時代におけるブランドづくりの成功の鍵は、ひとつひとつの“共感”を確実に集めていくことにあります。

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1−4:ブランドの『個性』をつくる。

ブランドの提供価値と、理想的なお客さんが決まったら、次はブランドの『個性』をつくっていきます。

個性をつくるというのは、そのカテゴリーの中で他と比べてみた時にユニークで魅力的な状態にするということです。ユニークなだけではダメです。先ほどから繰り返しになりますが、“お客さん視点”で魅力的でないと意味がありません。

いかに自分が考えた提供価値が良かったとしても、それと同じ価値を提供するブランドが既に他にあったとしてたら、あなたがそのカテゴリーで新たにブランドをつくる意味はあまりありません。すでにあるライバルブランドのおこぼれをもらう形で細々とやっていくことができるかもしれませんが、輝きを放つことはきっとないからです。せっかく自分のブランドをつくるからには、できる限り多くの人に、そして心から喜んでもらいたいものではないでしょうか。

ここで、個性をつくるときに重要なポイントを説明します。それは、提供価値を達成するゴールまでの“ルートをずらす”ことです。

先ほど考えた提供価値が既にユニークでライバルと全くかぶっていなければ、特にルートをずらす必要はありません。その提供価値がそのまま個性になっているからです。しかし、なかなかそうは行きません。だいたいの場合、そのカテゴリーには同じ提供価値を考えているライバルが既にいると思います。

たとえば、先ほどのようにカレーを例に提供価値を考えたとき、「めちゃくちゃ辛いカレー」「とにかく安いカレー」「世界一美味しいカレー」とかであればきっとライバルは沢山います。「辛さ軸」や「安さ軸」の同じ価値軸の上で、ライバルより少しでも辛く、少しでも安くと追い求めてもいいですが、この“競争”はかなり過酷です。消耗してしまいます。また、「おいしさ軸」については、感性によるものなのでルートが曖昧で競争に参加するこすらできないかもしれません。

だから、もしライバルとゴールが同じ場合は、ひとつの価値軸の上で競争しないでもいいように別のルートをつくってください。カレーにおいて「めちゃくちゃ辛い」がゴールならば、ただ「辛いかどうか」の軸でカレーを考えるのではなく、辛さを出すために、「普通とは違う食材や調理法にこだわる」とか「食べるときの室温や器や食器を演出する」とか、新しいルートを見つけるということです。この“自分だけの新しいルート”がブランドの個性になります

この新しいルートを見つけるときに重要なポイントが2つあります。

ひとつは、さっきの章で決めた「理想的なお客さん」が共感してくれるルートかどうかです。せっかく自分だけの新しいルートを見つけたと思っても、それがお客さんに魅力的に感じてもらえなければ意味がありません。お客さんをイメージしながら考えてください。正直、前章の「1−3:お客さんを決める」と「1−4:個性をつくる」は一発で決めるのはかなり難しいので、行ったり来たりしながら決めて行くのが良いと思います。

もうひとつは、他の人が後から簡単に真似できないルートにしてください。せっかく新しく見つけたルートも、他ブランドに真似された途端、競争になるか新たなルートを探さなけらばならなくなります。他の人が真似しずらい、もしくはあまり真似しようと思わないルートが良いです。とにかく同じ軸の上で“競争しない”こと、それがこれからの時代のブランドづくりの基本となります。

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ここは少し話が複雑だったかもしれないので実際のブランドを例に取り上げて詳しく説明したいと思います。

事例1)伊良コーラ
東京に「伊良コーラ」というコーラの専門ブランドがあります。このブランドは、コーラ小林さんという方が脱サラして個人で立ち上げた世界初のクラフトコーラのブランドです。コーラ小林さんは、かなりのコーラマニアで「世界で一番おいしいコーラ」をつくりたいという思いでこのブランドをつくっています。

しかし、このコーラというカテゴリーには既にライバルが沢山いて、その圧倒的王座に君臨するのがコカとペプシです。彼らも、「世界で一番美味しいコーラ」を提供することを掲げているので、伊良コーラと提供価値が被っていることになります。

そこで、伊良コーラがとった戦略は、提供価値のゴールまでの自分だけの新しいルートを見つけ出すことです。既にあるほとんどのコーラに共通するルートは、コカ・コーラの「はじけるおいしさ」のキャッチコピーにも代表されるように、スポーツ観戦などの『非日常でワクワクする体験』を通じて伝えられる価値でした。コーラは多少ジャンキーなものだけど、それでいいんだという美味しさです。

それに対して、伊良コーラが考えたルートは『毎日でも飲める、体にも美味しい体験』を通じて伝える価値です。漢方職人であった祖父の意思を引き継いで、コーラのスパイスの調合に漢方のノウハウや手法を取り入れて、いわば“漢方コーラ”を生み出したのです。つまり、口にも体にも美味しいコーラというわけです。
事例2)PostCoffee
こちらも東京に「PostCoffee」というコーヒーのブランドがあります。こちらも下村さんという兄弟2人でスタートさせた小さなブランドです。ご存知の通り、コーヒーはライバルだらけの厳しいカテゴリーなのですが、そんな中でもPostCoffeeはひときは輝きをは放った存在となっています。

スタバ以降、サードウェーブ系を中心とした今のコーヒーブランドの掲げる提供価値は『コーヒーへのこだわり』でした。それまで何気なく飲まれていたコーヒーに対して、おいしさにこだわることの良さを打ち出したのです。
そこで、ブルーボトルを始め多くのコーヒーブランドがとったルートは、コーヒー豆の選定やブレンド方法や抽出方法など『つくり方にこだわる』ことで美味しさを追求することでした。

それに対してPostCoffeeがとったルートは『届け方にこだわる』ことで美味しさを追求することでした。まず、PostCoffeeのコーヒーは15万通りの組み合わせの中から自分だけにあったコーヒーが見つけらえるようになっています。なんとオンラインのコーヒー診断で10問の質問に答えるだけでAIが導き出してくれます。また、PostCoffeeのコーヒーは、毎月家に送られてきます。カフェにわざわざ飲みにくのではなく、毎日家でこだわりの美味しいコーヒーを楽しむことができるのです。

この2つのブランドは、ライバルの多いカテゴリーの中で見事に自分だけのルートを見つけて個性をつくり出すことに成功しています。そして、もうひとつ注目したいのは、他の人がなかなか真似できないルートになっているところです。伊良コーラの漢方コーラの背景には祖父が漢方職人だったという強固なオリジンがありますし、PostCoffeeのコーヒー診断の背景には本気で作り込まれた独自のAIの技術があります。このように、なかなか真似されないルートをつくリ出して、他と競争しなくていいブランドをつくり出しているのです。

1−5:ブランドの『ストーリー』をつくる。

いよいよ下ごしらえの最後の工程です。ここでは、これまでに考えてきたブランドの『提供価値』や『個性』を、理想的な『お客さん』に魅力的に伝えるための下準備をしていきます。

ここで先ほど考えた「自分だけの新しいルート」を使うのですが、おそらくこのルートは「性能」や「価格」など数値化できる提供価値のルートではないのでしょうか。このように数値化できない感性的な価値を伝えるときに重要になるツールが『ストーリー』というわけです。このツールを用意しておくことで、文章や動画や空間など、あとから色々なものに加工してお客さんに伝えることができるようになるのです。

では、どのようにして“新しいルート”を“ストーリー”に仕立てていくかと言うと、それは、その提供価値のゴールまでのルートの道のりの途中に、目印となる“中継地点”をいくつか儲けることです。その中継地点はいくつかあった方がよいです。なぜなら、道筋が明確になってお客さんがそのルートを通ってゴールまで向かうときに、迷子にならずに、そして飽きさせずに導くことができるからです。つまり、自分のブランドの提供価値と個性がきちんとに伝わるということです。

ここでも「伊良コーラ」をもう一度取り上げ、詳しく説明したいと思います。

伊良コーラは、『世界一美味しい』という価値を提供するために、『毎日でも飲める、体にも美味しい』というルートを作り出しました。そして、そのルートの途中にふたつの“中継地点”を設けています。“クラフト”と“漢方”です。

クラフトはビールで既に浸透しているように、職人の手づくりで素材や管理にもこだわっていて美味しい飲料というイメージをつくります。一方、漢方はスパイスなどを調合して作るもので、体に良いというイメージを作ります。また、漢方も漢方職人が調合するものなので、漢方自体がクラフトとも言えるので、クラフトと漢方の中継地点がつながっています。さらに、コーラの歴史を遡ると、実はアメリカの薬剤師が開発した栄養ドリンクが起源となっていて、これも漢方と繋がっています。

これらのルートの中継地点を整理して繋いでみると、例えば以下のように伊良コーラのブランドの『ストーリー』が出来上がります。

世界一おいしいコーラを追究するコーラ小林氏が、和漢方職人であった祖父の遺した知識や精神を受け継ぎながら、コーラの原点の提供価値に立ち返ってつくるクラフトコーラ、それが伊良コーラです。飲む人のことを考えて、ひとつひとつ手づくりでつくることで、味はもちろん体にも美味しい究極のコーラです。

このような感じで、ブランドの個性がぐっと伝わってくると思います。お客さんにブランドのファンになってもらうためには、このようにブランドの個性に共感してもらうためのストーリーが必要です。これは、これからの時代のブランドづくりに必須な要素とも言えると思っています。

ここで話を戻しますが、ストーリーをつくるための中継地点を置くときに注意したポイントが2つあります。

ひとつは、ルートの途中に置く“中継地点”は繋げられるものである必要があるということです。伊良コーラの例で見てもらった通り、クラフトと漢方が無理なく繋がっています、お客さんの気持ちが入り込むストーリーにするためには、ここの辻褄があっていることは重要です。

もうひとつは、その置いた“中継地点”を裏付ける事実がきちんとあるということです。裏付ける事実があればあるほどいいですし、印象的であれば印象的であるほど良いです。伊良コーラで言うならば、「亡き和漢方職人の祖父の知識や精神を受け継いでいる」というような事実です。逆に事実がウソなのは絶対NGです。けど、無ければつくればいいのです。中継地点を考えるときは、既にある、もしくはこれからつくれる事実をベースに考えるのがよいと思います。

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下ごしらえのまとめ

ここまでが、下ごしらえになります。かなり頭を使うというか、悩むこともあるかと思いますが、これをきちんとやることで自分のブランドが進むべき方向性が自分の頭の中で整理されます。実際の料理と同じでここが最終的な仕上がりを決めるといっても過言ではない重要な工程なので気合を入れてやるべきだと思っています。

おそらく、手順通りやって一発でしっくりくることはなかなかないと思います。「1ー3」〜「1ー5」の工程は何度も行ったり来たりしながら磨いていくことで、自分のブランドの目指すべき方向性がはっきりと見えてくると思います。

とはいえ、これもブランドが育っていく途中に変わってもいいことが前提であることは忘れないでください。なので、ここでつまずいて『調理編』に進めないなんてことにはならなくて大丈夫です。「いったんこれで行ってみる」くらいの気持ちで下ごしらえを終えて、次に進みましょう。

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