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【うちの職場はバカばかり?】地下室の住人/ドストエフスキー②

 前回の記事に引き続き、ドストエフスキー『地下室の手記』について書きます。

 なぜ彼は「周りの人間がバカに見えるという病」をここまでこじらせてしまったのでしょうか?
 結論としては、受け身な態度が原因かと思われます。
 第二部で語られるエピソードを見て見ましょう。

・道をすれ違う時に向かいの人が道を譲るか譲らないかにこだわる
→向かいの人が道を譲ってくれるはずだ、という受け身

・同窓会に呼ばれていなかったことに粘着
→同級生なのだから誘ってもらえるはずだ、という受け身

・自分に気のある素振りを見せた風俗嬢に対してメンヘラムーブ
→きっとありのままの自分を受け止めてくれるはずだ、という受け身

 しかし、相手任せのスタンスを貫いていると、世の中が嫌になってしまうと思うのです。というのも、以下のような悪循環に陥ってしまうからです。

①他人に勝手に期待をする → ②期待通りにならない → ③他人に失望 → ④自分の世界に閉じこもる → ⑤他人への期待がさらに独り善がりになる

 自分の期待をわかってほしいのにわかってもらえない、と感じたときに、自分の伝え方が悪かったんだ、ではなく相手の方がバカだと認識することで失望感を解消しようとするのです。
 心理学で言うところの「合理化」のメカニズムですね。

 しかし根本の原因は適切に自分の期待を伝えていないことであり、黙っていても自分の願望を周囲の人間が叶えてくれるはずだという受け身のスタンスにあるのです。
 他人がどう思うかを変えることは容易ではありません。やがて絶望に至り、世の中を呪うようになります。
 一方で、自分の行動や思考には改善の余地があります。変えられるものを変えようとする方が生産的だし、結果も出るから楽しいと思うのです。

 主人公が架空の人物であることを良いことに言いたい放題しましたが笑、フィクションに仮託して自分を省みることができるのが文学作品の良いところだと思います。
 他人に一方的に期待する受け身な姿勢は改めよう、と我が身のことのように感じられる作品でした。
 転職して環境を一新するのも良いですが、まず自分の行動を変えられないか振り返ってみるのもまた良いでしょう。

 ぜひ、実際に手にとって読んでみてください。

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