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ウナーゴン
2016年10月22日 15:01
【承前】何かが決定的にまずい……。本能がそう告げていた。これまで自分より強大な存在と相対することは数多くあったが、そんなことであったならば、さしたる問題ではなかった。これは全く別種の脅威だ。フロア前方、自分が昇ってきた階段とは反対側の階段を降りて現れた、襤褸布の様なマントに身を包んだ男。目深に被ったフードが深く影を落とし、顔立ちはよく分からない。細かいウェーブのかかった長髪が零れ落ちてい
2016年12月15日 23:58
【承前】時間も物質も超越した宇宙の特異点にて、禁断の知識にこの手で直接触れた瞬間のことは、今でも鮮明に憶えている。そのとき私が人間であったかどうかは疑わしい。肉体の概念はとうに無く、あらゆる知覚はかつての名残で擬似的な五感として感じ取っていたに過ぎない。 果てしなく眩い光の中、手を伸ばし、神秘に指先が触れたと感じた。その瞬間、私という存在は消し飛んだ。 …………否。 未だ
2016年11月28日 21:50
何億年の時が過ぎただろう。或いは、ほんの数分間?僕は機械的に足を運び続ける。無限に続くこの螺旋階段を、休むことなく登り続ける。 この場所に足を踏み入れたときのことは朧げに記憶している。天高く聳える石の塔。頂上は暗雲に消えて見えない。朽ちかけたその姿は、もう何百年も人が訪れていないかのような佇まいで、廃墟の様相を呈していた。積石の中には亀裂が入っているものもあり、指で触れると表面がパラパ
2016年10月21日 02:01
もはや何日彷徨ったのかも分からない。昼も夜も、飢えも乾きも訪れぬ、時間が停止した静寂の世界。薄明かりの中、深い霧の立ち籠める薊野原が、どこまでも続いた。 やがて僕は歩くのをやめ、その場に身を横たえる。永劫にも思える静止は死に近い。思考も。感情も。少し何かを思い出しそうな気がしたが、その感覚さえも消えてゆく。僕は深呼吸をし、瞼を閉じた。 そうしてすべてが終わった。