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塔 #00a

何億年の時が過ぎただろう。
或いは、ほんの数分間?
僕は機械的に足を運び続ける。
無限に続くこの螺旋階段を、休むことなく登り続ける。

この場所に足を踏み入れたときのことは朧げに記憶している。天高く聳える石の塔。頂上は暗雲に消えて見えない。朽ちかけたその姿は、もう何百年も人が訪れていないかのような佇まいで、廃墟の様相を呈していた。積石の中には亀裂が入っているものもあり、指で触れると表面がパラパラと零れ落ちた。それでもこの建築物が崩落することなくここに在り続けているのは、累々と積み重ねられた狂気的な量の石が、未だ信じがたい設計によってバランスを保っているからなのであろう。太古には壮麗であったかもしれない外壁のアーチを潜ると、空虚な大広間が広がっており、壁に添って螺旋階段が始まっていた。僕は恰も見えない何かに導かれるかのように石段を昇り始めた……。

…あれからどれほどの時が経ったのだろう。数億年?或いはほんの数分間?
一歩、また一歩と足を踏み出す。昇る程に時間の観念が薄れてゆく…。

最初は今にも崩れんばかりの石造りだった螺旋階段と外壁は、高度を増すにつれて徐々に透き通り、クリスタルのような材質へと変化していった。そして今や、ほとんど肉眼では見えないほどとなり、僕は遥か空中を機械的動作で歩んでいるのだった。

地上から見た暗雲の層はいつしか通過してしまったのだろうか。上下前後左右視界いっぱいに、見る者を恐怖に陥れようとせんばかりの蒼穹が果てしなく広がっている。星々は瞬きもせず、無慈悲な迄に冴え冴えとした光を遥か太古の彼方から放ち続けている。
その超然たる光線が僕の意識を射抜いた。

我々は知っている。無数のお前がこの塔を繰り返し登ったことを。この先、物質も時間も、お前が進むにつれて徐々に消え去ってゆくだろう。

言葉にできぬ情報の奔流に曝されながら辛うじて掴み取った一握のメッセージを敢えて言葉にするならば、そのような印象だった。全てを受信することができていたなら、僕の自我は瞬時に破壊されていたかもしれない。それはある種の警告のようでもあり、何の意味も持たぬ宇宙の理そのもののようでもあった。そもそも宇宙が直接我々にもたらす情報に意味などありえようか。意味を見出すのは常に我々自身だが、結局のところ今の自分には理解不能だった。僕は構わず進み続けた。物質も時間もない領域へ踏み入ることがどれほど恐るべきことなのか、知る由もなかったのだから。

【続く】

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