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令和版粋なゲーマー養成講座:ライトサイド6:シナリオってどう書くの?

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。今回は、TRPGシナリオを書いてみたい、という話。

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ

ようこそ、私の研究室へ。


 仕事柄、担当のTRPGシナリオはよく書くし、GM本も何冊も書いている。そのため、よく、「シナリオはどうやって書くのですか?」と聞かれるが、私にもよくわからない。実のところ(というか、「深淵」ファンはご存知の通り)、私はかなりのアドリブマスターであり、半ば即興で遊んだネタを後で起こす方が多いので、「どうしてそうなった?」的なシナリオも多い。
 特に、ここ10年で、TRPGのシナリオを巡る環境が激変した。
 「動画からCoCに入った層」にとっては、オンラインセッションこそがネイティブで、セッションとは、ユドナリウムやココフォリアでの画像付きの部屋の準備から始まるのが標準のように語られてしまうと、絵を描けない私には引くものもある。
 サイド5あたりで語ってきたコミュニケーション言語としてのCoCが普及し、CoC言語での共通体験娯楽としてのCoCを遊ぶ「シナリオ」とは何なのか? どのようなハンドアウトが適切なのか? 情報量、提案の段取り、演出などの範囲でどこか見えないものを感じる。
 参考にしようにも、BOOTHやpixivで公開されているシナリオだけで数千、数百のオーダーになる。

 おそらく、好きにやればよいのだろう。
 棲み分けとか考えるのではなく、アニメの新番組を選ぶように遊んでみて、自分の嗜好を確認し、カスタマイズし、調整すればいい。

 だが、やっぱり思うよね、面白いシナリオを書けないかと。
 それが修羅の道の始まりであることも分かっている。

令和5年2月

【主な登場人物】


難解好夫(なんかい・すきお。59歳、フリーランス、TRPG歴40年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。52歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)

やっぱり、シナリオを書きたい!


 今日も今日とて、とある邪神系コンベンション(*1)。
 会場の隅っこで、もはや髪の毛が白い難解好夫(なんかい・すきお。59歳、)と妻のひろこ、色々知照(いろいろ・しってる。52歳)が、雑談をしているところへ、今回の主催者、少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)とその娘の梶理(かじり、14歳)がやってくる。

少々「本日はGM、KP(*2)を引き受けていただき、ありがとうございます。演目は予定通りで?」(*3)
難解「『暗黒電脳アーカイヴ 呂布20XX』(*4)」
少々「えっと、サイバーパンク三国志でしたっけ?」

https://tokitayusuke.booth.pm/items/4531923

【内容】世界最後の電脳都市・洛陽シティは暴虐のサイバー魔王、呂布に支配されていた。お前は武侠パンクとなり、呂布への復讐を果たせ!

色々「朱鷺田さんがゲーム学校の生徒さんと作って、BOOTHで無料公開した奴? この前、あれだけ文句言っていたのに(*5)、やるんですか?」
難解「あの野郎、ついに、CY_BORG(*6)までハックしやがった(*7) 世界の最後に残った電脳都市で三国志をやるといったら、だいたいラスボスは曹操孟徳やろ?(*8) ところが、敵は呂布奉先(*9)!」
梶理「呂布って?」
少々「まあ、三国志演義で最強の武将かな(*10)」
色々「『終末のワルキューレ』(*11)で雷神トールとガチバトルする人」
梶理「強そうなのは分かった」
少々「赤兎馬(*12)に乗っていると最強」
難解「それでな、このゲームの呂布には、サイバーバイクと化した赤兎馬が変形合体するんや!」

赤兎馬偉駆、雷土苑(セキトバイク、Ride On!)(*13)


少々「何、それ、カッコいい!」
色々「昭和世代の難解さんが盛り上がる意味が分かりました」
難解「あ、うん、ほらな、CY_BORGファンとしては、和製ハックも確認しておかないとほら。無料だし、今後のBOOTH展開の参考になるかなと」
梶理「難解さん、ツンデレ(*14)」
難解「ぐううううう」
少々「色々さんは?」
色々「いや、この流れでこれはアレですが、ひろこさん(難解妻)の希望で、朱鷺田さんの幕末CoCをやることになりましてね」

『京都暗闇綺譚  ~ 新選組、御花園を警備するに至る事』(*15)

https://tokitayusuke.booth.pm/items/4559795

【内容】文久3年8月、壬生浪士組の隊士が殺され、新人隊士たちが探索に当たる。激動の時代、幕末京都に熱い夏がやってきた。

難解「あーそうかーすまないなー。
 あー、今日は新作宣伝回かああ」(*16)

 あ、うん、すまない。

ひろこ「まあ、歴女としては、新選組は常識。ここは美味しくいただいておかないと」(*17)
色々「設定年代上、まだ、壬生浪士(*18)ですけれどね」
ひろこ「八月十八日の政変(*19)でしょ? わかります」
難解「すると、芹沢暗殺は、政治理由説だな(*20)」

 ひろこさんと難解さんが歴史ウンチクを始める。

色々「意外に、この夫婦、趣味があっていたのかもしれない」
難解「いや、推し問題が複雑でな」(*21)
梶理「推しは共有できない派、多いですからね(*22)。
 ちなみに、私は島田魁(*23)強火担(つよびたん)(*24)ですから」

 島田魁は、探索方の巨人、怪力おじさん。

ひろこ「やるわね、梶理」(すっと手を出し、握手する)(*25)
梶理「分かる?」
ひろこ「安心して。新選組で私の推しは総司君(*26)よ。
 ねえ、色々君、総司君、出る?」
梶理「島田さんは?」
色々「シナリオのネタバレにはなりません(*27)ので、言ってもかまわないでしょう。二人とも出ますよ」
ひろこ・梶理「よし! これは、うまくからまないとねー」(*28)
色々「・・・頑張ります・・・」(*29)

少々「全然、話は変わりますが……また梶理が相談したいと」
色々「おや、どんな?」
梶理「やっぱり、シナリオが書けなくて」

実は難解さんも悩んでいた。


難解「それなー。実は、俺も得意じゃないんだ」
梶理「そうなんですか?」
難解「俺、アドリブマスター(*30)でな、フック(*31)があれば、ゲームは回せるんよ」
梶理「今日はどうするんですか?」
難解「そこはCY_BORGハックの楽なところでな、幻視というシナリオ・フックがあって、それとD66チャートを組み合わせれば、もう出来る。
 例えば、2-3と振れば、変異狩りが起こるという話になる。
 後は、ミュータント生物を選んで狩りに行くだけでシナリオになる。
 まあ、こいつは、短いハック&スラッシュ・タイプ(*32)のゲームだから出来ることでもあるんだな」
梶理「CoCのシナリオも書いてましたよね?」
難解「まあ、あるぞ」

 ・・・とPCを出して、ファイルを開く。

難解「どんなのがいい?」
梶理「エモいの!」(*33)

難解「そんな軟弱なもの、CoCといえるかああ!」(*34)

色々「落ち着いて!」
難解「はーはー。ええか、CoCというのは、クトゥルフ神話の宇宙的な恐怖(*35)と戦うんや!」

 ・・・という話を始めると、ライトサイド5に戻ってしまうので・・・

難解「まあ、エモシ(*36)という奴を書いてみたこともある」

色々「ぐあ、難解さんがエモシを!」
少々「ついに、世界が終わる日が」
ひろこ「あなただけは、あなただけは、そんなことをしないと」

難解「お前ら、俺を何だとおもっているんだ!」

色々「堅物?」(*37)
少々「老害?」(*38)
ひろこ「ちょっと言えないわ」(*39)

梶理「・・・・・・」

難解「まあ、ええ、じゃあ、1個ずつ説明するぞ?」

戦国悲恋譚 夕月姫

難解「戦国の姫君が、湖の邪神の生贄になりそうになるので、救いに行く話や。『比叡山炎上』対応の3-5人だな」
梶理「姫がポイントですね。
 ラブの要素は?(*40)」
難解「いや、姫は最後に邪神を封じるために、身を捧げるんや」

梶理「ぶぶーーー」

難解「何? 悲恋EDってこうじゃないのか?」
梶理「先日の地雷チェック・シート(*41)を思い出してください」

https://note.com/tokitayusuke/n/n3fe4d847cccc

梶理「『ヒロイン、救えない』は、悪評のトップ1です(*42)」
難解「がっくり。やはり封印作品(*43)ではダメだったか」
梶理「封印? どうして?」
難解「ネタがかぶったんや!(*44)
 ヒロインのモデルが諏訪の夕姫でな・・・。
 あの朱鷺田の野郎・・・」

【内容】武田家の透っ波となり、若き日の信玄と隣国諏訪の姫との縁談の下準備に諏訪へと向かう。だが、諏訪では、古代からの邪悪が目覚めかけていた!

色々「うわ、宣伝回だな」
難解「メタ発言やめろ!(*45)」

あるホラー作家の死

難解「次に行くぞ。今度は密室ものだ。
 幽霊もののホラーで名を上げた作家が孤独死したので、編集者と映画プロデューサーが遺品の整理に行くんだがな・・・」
梶理「ああ、いいですね」
難解「孤独死なんで、特殊清掃の・・・(*46)」
梶理「グロい?」
難解「ああ、全力でな。このためだけに孤独死事件と特殊清掃の本を5冊は読んだぞ?」

梶理「ぶぶーーー」

難解「また、地雷か?」
梶理「グロは禁止です。ランちゃんとか絶対泣いちゃいます。(*47)」
難解「いや、CoCはホラーなんだが」
梶理「もしかして、それも封印作品ですか?」
難解「な、なぜ分かった?
 ああ、これもネタが被ってな。
 あの朱鷺田の野郎!」

【内容】ホラー作家金木霊峰が怪死し、その遺品整理に、編集者、映画プロデューサー、引っ越し屋が訪れるが・・・

梶理「これもグロいんですか?」
難解「全然!」

KPCが好きすぎてシナリオにならない

難解「どうもうまくいかんな。」
色々「梶理ちゃん、前はがっつりシナリオを書いていたし、この前のKPもよかったよ? どうして、書けないの?」
梶理「KPC(*48)が好きすぎて・・・」
難解「KPC? ケンタッキー・北京ダック・クリスピー?」
梶理「KPが使うキャラクターです」(*49)
難解「NPCじゃないのか?」
梶理「違います!」
難解「???」
色々「ああ、解説しますよ。今のCoCだと、KPも自分のキャラを持ち込んで一緒に冒険することがあります。自分の分身も使って、一緒にCoCを遊ぶ訳です」(*50)
難解「謎解きとかは?」
色々「まあ、そこは他のPCに任せます。
 内輪でGM持ち回りのキャンペーン(*51)やってたりすると、GMのPCがNPCとして登場するなんて、よくありますよね」
難解「ああ、分かったが、それでなんでシナリオが書けなくなるんだ?」
梶理「KPCの話をしたくて、したくて、でも、それじゃあ、シナリオにならないんです。書きすぎて、小説みたいになってしまって!(*52)」

難解「書けば、いいんじゃね?」

梶理「え?」
難解「その小説を書き上げてしまえよ。書かないように、でも、書きたいというのは体によくない」
梶理「それでいいの?」
難解「その後の事件という感じでシナリオを書くんじゃよ。
 わしもな、書きたい話があった時に、先に、小説を書くことがある。
 まあ、そのままじゃ、シナリオにならんから、前日譚とかにするな」
色々「おやまあ」
難解「なんだ。その顔は・・・」
色々「実は、今日やる『京都暗闇綺譚  ~ 新選組、御花園を警備するに至る事』、芹沢鴨が主役に短編小説が二つ同梱されているのですよ(*51)」
難解「く、あの野郎!」 
梶理「難解さん、ツンデレ」

とっぴんぱらりのぷぅ。

解説っぽい何か

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