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令和版粋なゲーマー養成講座:ライトサイド5:シナリオ文法の変化と市場環境

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。今回は、プレイ環境によって発生した世代間キャップを語っておきたい。

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ

ようこそ、私の研究室へ。


 CoCのシナリオ環境がここ数年で激変した。
 まず、ゼロ年代から増加していった「動画からCoCに入った層」にとっては、オンラインセッションこそがネイティブ環境であり、主要な入り口だった。新規加入者が動画でTRPGを学ぶため、人気動画が共通体験になり、人気配信者が使ったシナリオが定番となっていく。著作権の問題から、同人作品やオリジナル・シナリオを使うことが多く、そこから「有名シナリオ」が誕生し、そこで導入された非公式なハウス・ルールがまるで公式ルールのように広がっていく。本来のCoCにはなかった「ハンドアウト(HO)」制度はその好例で、「インセイン」「シノビガミ」などから逆輸入された「秘匿ハンドアウト」が当たり前のように使われるようになった。
 TRPGライツにより、もともと溢れていた同人シナリオがマネタイズできるようになり、配信で使われたり、Boothなどで販売されるようになったこともこれを加速し、ウェブには多数の同人シナリオがあふれるようになったが、それらの多くは、もはや、オフラインでホラーシナリオを遊んでいた古参兵には、理解できない魔境へと変貌しつつあった。

令和4年11月

【主な登場人物】


難解好夫(なんかい・すきお。59歳、フリーランス、TRPG歴40年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。52歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)

有名シナリオを遊びたい!


 今日も今日とて、とある邪神系コンベンション(*1)。
 会場の隅っこで、もはや髪の毛が白い難解好夫(なんかい・すきお。59歳、)と色々知照(いろいろ・しってる。52歳)が、雑談をしているところへ、今回の主催者、少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)とその娘の梶理(かじり、14歳)がやってくる。

少々「本日はGM、KP(*2)を引き受けていただき、ありがとうございます。演目は予定通りで?」(*3)
難解「『信長の黒い城』(*4)でいいな」
色々「え、あれだけ文句言っていたのに(*5)、やるんですか?」
難解「いや、バッカー用のリワードが届いたからな(*6) ほら、手に入れたゲームは遊ばないと!」
梶理「難解さん、ツンデレ(*7)」
難解「ぐううううう」
少々「色々さんは?」
色々「頼まれた通り、6版というか、旧クトゥルフ神話TRPG(*8)で、舞台は現代日本。『狐火、あるいは青い音』(*9)でもいいかな? とか思ったが、新宿で飲み歩いてないと、解像度が上がらなくて(*10)、面白さが出ないので、新宿御苑薪能(*11)のネタで行きますよ」
少々「そこ、なんですが……こんな希望がメールで来ていて」
色々「おや、どんな?」
少々「有名シナリオを遊びたい。改変禁止で!(*12) 2名用希望!(*13) 推奨HO(*14)があれば、それも先に聞きたい。秘匿HOでPvPを希望しますが、持ち込みPC(*15)はOKですか? ロスト率は低めで!」
色々「はあ?」
難解「注文の多いヤツだな。そもそも、有名シナリオってなんやねん? あれか『悪霊の家』か『死者のストンプ』(*16)をやればええのか?」
色々「なんか違う気がしますね。内山靖二郎さんの『もっとたべたい』(*17)とかでしょうか?」
少々「『ニャルラトホテプの仮面』(*18)とか?」
難解「あれの死亡率はえぐいやろ?」
梶理「もう、わかってないですねえー。クトゥルフ系Vtuber(*19)の「居合抜きふたぐん」さんが配信した「夕暮れ、ノフケー」(*20)とかエモサ(*21)抜群だし、生主(*22)の森の黒山羊20000匹さんがコラボした「水妖日は、珈琲を飲みにいく」(*23)とか、2人用の最高峰ですよ」
難解「いや、それ、同人やろ?」
梶理「はい、この動画」
難解「10万再生?(*23) 確かに、『悪霊の家』より有名かもしれない。
 あれか、Booth(*24)とかで売っているのか?」
梶理「TALTO(*25)で無料公開。二次使用OK!(*26)」
難解「(スマホで検索)ほぉ、イラストも頑張っている。いや、まて、これもAIやないか!(*27)」
色々「これなら十分行けますね」
難解「居合抜きふたぐんも、独立系(*28)にしては知名度がある方や。
 まあ、にじさんじ(*29)もホロライブ(*30)もクトゥルフ神話TRPGを配信でやっているからなあ」
梶理「つまり、有名シナリオというのは、そういう名前の通ったシナリオのことなんですよ!」
色々「ごめん、オレには無理だわ」

改変禁止の理由


 希望のメールの要求内容に一言目から、白旗を上げてしまった色々さん。

難解「まあ、ここは梶理ちゃんの知恵を借りよう。有名シナリオは再調査するとして、後の要求内容を説明してくれ」
梶理「改変禁止はそのままですよ?」
難解「どこまで改変禁止やねん? アドリブ禁止?(*31)」
梶理「なんて言うかあ、後で通過したプレイヤーさんとスペース(*32)とかSNSで思い出語りしたいんですよねー。だから、出来るだけ一緒がいい」
難解「まあ、思い出としてネタバレ会話(*33)できるのが条件と。マダミス界隈のネタバレありDiscord通話(*34)みたいな感じやな」
色々「どうゆこと?」
難解「あれや、ネットで広がったから、共有体験とかしたいんだな」

梶理「そう。あのシナリオ? 通過したよーーー(*35)って感じで」


 どうやら、梶理ちゃんのCoC界隈が予想以上に広いようだ。

プレイスタイルの変容

梶理「2名用はわかりますよね?」
色々「最近、少人数用(*36)が流行っているのは分かる。オンラインでやるには便利だよね」
梶理「放課後にちょっとマックで遊ぶにも便利(*37)。マンツーマン・シナリオ(*38)もたくさんありますよ?」
色々「おじさん(*39)は、プレイヤー3-6人でオフラインで遊ぶことが多いから、少人数はあまりやらないなあ。
 人数少ないとあれ、パワーバランス(*40)が大変なんだよねえ」
梶理「バトるからですよ!(*41)
 こうゆるっと謎を解決すればいいんですよ」
難解「邪教の神殿にダイナマイトを仕掛けるのが楽しいんじゃよ(*42)」
梶理「野蛮! この鎌倉武士!(*43)」
色々「あと、人数が少ないと、技能の分担が出来ないじゃん。目星と図書館と聞き耳と回避と精神分析と応急手当て……(*44)」

難解「言いくるめ(*45)だな」


HOって何?

色々「推奨HOのHOは、ハンドアウトだよね? これはFEAR的な意味で? それとも、シノビガミ的な?」
梶理「???」
難解「もともと、クトゥルフ神話TRPGには、HOルールはなくて、シナリオ中の小道具として、地図とか写真を手渡すようになっている場合、それをハンドアウトと呼ぶ。
 それに対して、日本ではFEARさんがセッションハンドアウトをルール化し、このシナリオでの立ち位置を含めた手がかりを用意した。PC1は、主人公だから、こういう立ち位置で、こういうキャラクターが求められているというのを用意した。今のCoCでハンドアウトというのは、これが逆輸入されたものだな(*36)」
梶理「HOなかったら、どうやってキャラ作るんですか?(*37)」
難解「ダイス振って」
梶理「キャラの背景設定とか必要では?」
難解「7版、新ならバックストーリーの指定だな。こういう職業で、こういう設定でというのを指定するのは、最近の考えで、旧版までのCoCにはそこまで、キャラを誘導しない設計だった」
梶理「じゃあ、HO1とHO2が対立するPvPシナリオ(*38)とか、どうするんですか? 秘匿HO(*39)もなし?」
難解「いや、CoCはそういうゲームじゃねえから」

梶理「そういうゲームです!」

 梶理ちゃんの声は、大きく響いた。

難解「んんんん。困ったな。時代は変わったということか?」

世代間ギャップ

梶理「どういうことですか?」
難解「もともと、TRPGというのは、協力型ゲームなんや(*40)。
 最初のTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』は、英雄たちが協力して、DMが用意したダンジョンを攻略する協力型ゲームとして始まった。本来、協力型ゲームだから、パーティの仲間は信頼できる仲間だ。だから、裏切りとか、PvPとかを入れると、イレギュラーで刺激的だった。
 でも、毎回、裏切られたい?」
梶理「毎回、裏切りはココロが死ぬます!
 ほのぼのうちよそCoCがいい!」

難解「CoCは、そういうゲームでもないから!」

梶理「そういうゲームです!」

 梶理ちゃんの声は、大きく響いた。

難解「刻(とき)の涙を見た(*41)」

 最近、多い難解さんの刻の涙。

難解「話を戻すわ。
 CoCも、探索者が協力して、クトゥルフ神話の宇宙的恐怖と対決するとか、名状しがたき神格の復活を防ぐとか、そういう協力型ゲームだから、PvPとか、秘匿HOで裏切りとかを想定してデザインされていないんだよ」
梶理「えー」
難解「少なくとも、俺たち昭和生まれの世代(*42)は、そういうゲームだと思っているし、動画でやっていたから!と言われても見てないから、分からない。秘匿HOで殺し合え、なんて、ルールブックのどこにも書いてないし、そういう場合もケアまで考えられてない」
梶理「面白くないですか?」
難解「裏切りがやりたいなら、そういうTRPGを遊べ。『シノビガミ』(*43)はもともとPvP前提のゲームだし、『パラノイア』(*44)なら仲間同士で足の引っ張りあいが楽しい。キャラ同士が対立する設定なら『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』(*45)のクラン設定が生きる。背景設定にこだわりたければ、『深淵』(*46)とかもある」

梶理「私はCoCでやりたいの!(*47)」


秘匿HOでPvP


難解「巨大な溝を感じるが、これは今、どうしようもない。
 先、進もう」
少々「残る話は『秘匿HOでPvPを希望しますが、持ち込みPCはOKですか? ロスト率は低めで!』 えーーっと、解説の梶理さん」
梶理「秘匿HOは、各キャラクターだけが見られる秘密のハンドアウトで、中身を明かしてはいけません。最近は、このハンドアウトに、隠された異能(*47)が設定されていたりします」
色々「異能?」
梶理「異能です。特殊能力とも言います」
難解「CoCはそんな異能バトルもの(*48)じゃねえ!」
梶理「カッコいいし、エモいじゃないですか?」
難解「エモいを万能ワードに使うんじゃねえ」
梶理「PvPはプレイヤーVSプレイヤーで、キャラ同士がバトルします。この組み合わせで、隠された秘密の目的を達成するため、プレイヤー同士がスリリングな駆け引きをします。やりすぎは厳禁です。1クリ(*49)したら、与えるダメージを自由に決められるお情け演出ルールがおすすめです」
難解「さらっと、ローカル・ルールを推奨したよ、この娘」
梶理「持ち込みPCは、あらかじめキャラを作って持ち込むことです。
 でも秘匿HOと相性悪かったら、どうするんだろう、この人?(*50)」
難解「持ち込みPCってな、やりたいことがあるんだろ?
 PvP用に、バトル・ビルド(*51)しているんだろ?」
色々「レギュレーション・チェック(*52)すると揉めるんだろうなあ」
梶理「でも、ロスト率低め(*53)を希望ですね?
 実は、ちょっと緊張感のあるうちよそ(*54)をしたいだけでは?」
難解「持ち込みPCは、それしか出来ない派か(*55)」
色々「じゃあ、もう、面倒くさいから、MSパイロット養成学校で百合でも(*56)」

難解・梶理「それはダメ!」(*57)


 とっぴんぱらりのぷぅ。

解説っぽい何か

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