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3面記事

(平成2年2月22日 第2種郵便物認可 ©NEKO SHINBUNSHA all rights reserved)


アメショーへの厚遇許さない

「餌規制の撤回・体制整備を」八百屋前で抗議
 2021年(令和3年)3月に商店街理事会で可決された「アメリカン・ショートヘアー促進法」を巡り、猫たちの間に波紋が広がっている。事の発端は1匹のアメリカン・ショートヘアー(=1歳・雄)だ。この猫が今年1月頃から商店街の八百屋で飼われ始めた。「それからは、全てがあっという間に変わった」と近所に住むキジトラさん(=16歳・不明)は語る。
「私だってね、あのアメショーが嫌いな訳じゃない。ただ、何事もやり方があるでしょうよ。突然ペットショップの匂いをプンプンさせながら『どうもこんにちは。ニャン』とか挨拶して来て。何がニャンだよ馬鹿野郎って話ですよ。そりゃあ、こっちは野良猫ですし、商店街の方々からいただく餌はあくまでご厚意ってのも理解できる。ただ、だからと言って、家に帰れば餌が待ってる飼い猫のアイツが、外をウロウロしてるだけでカルパスやらジャーキーやらを手にするのはおかしな話でしょう」――。
 キジトラさんはそんな状況を打破すべく、SNSで声を上げた。すると1日で22もの署名が集まった。「匿名で申し訳ないけれど、おかしな事態を見過ごす訳にはいかない。賛同します――」。そんなコメントもあった。
 キジトラさんは早速、署名を八百屋の店主に提出した。しかし店主は「理解出来ない」と繰り返すだけ。終いには、おちょくるように背中を撫でられた。懐柔する気か――。キジトラさんの中で何かが切れた。対話する気の無い相手に、何を言っても無駄だと気づいた。行動。その2文字が脳裏をかすめた。
 数か月の準備期間を設け、キジトラさんは仲間を集めた。近所に住む猫たちは皆参加してくれると言った。そして今日、その仲間たちと八百屋の前で座り込み(=シットイン)を始めた。暴力や盗みは解決にならない――。商店街を愛するキジトラさんが選んだのは、ただ座って抗議の意思表示をするというやり方だった。
「たぶんね、こんなことしたって、未来は変わらないんです。ほら、あの電柱見てください。『猫への餌やり禁止』とあるでしょう? あれはね、例のアメショーに不健康な餌を与えたらダメだって商店街の人たちが言い出して、数日前に貼られたんですよ。で、アイツは家に餌があるから問題ない。でも私たちはどうなります? 十分な補償もなく、ただ禁止だ禁止だって。代替案を出してから禁止案を出せってんだ。こんな猫の額みたいに狭い街で、内輪で揉めてどうするんだって話ですよ。抗議活動するにも人手が足りないですし。まったく、猫の手も借りたいよ。――すいません、つい愚痴っぽくなって」
 そう言って前脚で顔を拭うキジトラさんの表情は、悲哀に満ちていた。集った猫たちにも何だか覇気がない。皆、満足に餌にありつけていないからだろうか。野良猫たちは今後どうやって餌を手にするのだろう――。数十の丸まった背中には、現代社会の闇が投影されているように見えた。

(社会班・猫田タマ美)





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