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網走2日目②: 朝ドラ、ほぼ観ないくせに主題歌は全部好き
能取岬を出たあとは、またしばらく通行人や自転車はおろか車も滅多と通らない道を走る。
久石譲シャッフル再生の仕切り直しだ。
久石譲といえば、数多くの映画音楽やクラシック音楽等を世に送り出してきた日本を代表する作曲家だ。そして多くの日本人にとって恐らくそうであるように、私にとっても宮崎駿監督作品のイメージが強い。
好きな宮崎駿監督作品は何かと問われると、2001年発売のベストアルバム通称「肉と骨」と出会って以来心酔し続けているロックバンドMr.Childrenの中でどの曲が好きかと問われるのと同じように迷うし、「選べるわけないだろ」「野暮な質問をするな」と情緒不安定になったり、「よく考えた上で回答したいので最低一週間は待ってください」とごねたりするたりするくらい好きだ。
壮大なテーマに圧倒される、風の谷のナウシカ
世界観・脚本・映像美の総てが揃った、もののけ姫
少女の頃に戻ったような気持ちになりたい時の、魔女の宅急便
観るたび目を離せないほど熱中してしまうのは、天空の城ラピュタ
現実から距離を取って夢見てたい時に浸る、ハウルの動く城
どうしようもなく邦画に溺れたい気分の時は、風立ちぬ
美術館に行って絵画と向き合いたいような心が静かで哲学的な時にはきっと、君たちはどう生きるか
を繰り返し観たくなる。
一方で、観はじめるのに勇気がいるというか、少し怖いと感じる作品もある。
となりのトトロ、崖の上のポニョ、千と千尋の神隠し。
それぞれ言わずもがなの名作には違いない。となりのトトロに関しては、幼稚園の時のお弁当箱を始めとした身の回り品を彩るキャラクターとして常に自分の近くにいた、思い入れの強い作品てもある。
この3作品に共通しているのは、①舞台が日本 ②主人公が子供 ③比較的現代に近い ということ。多分だから全部こちらが大人になってから少し怖くなった。
怖いと言っても、映画作品のスパイスとして怖い。必要不可欠な要素だ。
となりのトトロ。
まずもって幼い妹のメイが迷子になるところが怖い。姉のまだ小学生のサツキが必死になって1人で探し回るのも怖い。昔付いて回った不穏な都市伝説は信じてないし大嫌いだ。私は視聴者だし結末を知っているから安心して観られるわけなのに、沼に浮かんだ片方のサンダルのシーンで絶望しそうになり、はらはらとする。ついでに物語序盤ですっかり日が落ちて夜になっているのにバス停で父親を姉妹で待つところも「危ないから待ってないで帰りなよ!」という気持ちになる。トトロが善人(?)でよかった。いつも助けてくれてありがとう……
崖の上のポニョ。
おもちゃみたいな小さな船に子供だけで乗ったりして沈んだらどうするのか。大人、もっと頑張って。とんでもない大洪水の日にあんなにも幼い2人をちゃんと見てて。いざとなったらポニョが何とかしてくれそうだけども。「宗介とポニョは種族を超えた愛とポニョが何者だったのかという秘密を隠したり忘れたりしながら一生一緒に暮らしていくのかなァ!!」なんていう鼻息荒い不純な視線を送ってしまうくらいには好きだけども。やはり幼い2人が綱渡りのように危険な道を歩いているのを見る様で怖い。あの底抜けに明るい主題歌がコントラストを作って余計にちょっと怖い。
千と千尋の神隠し。
神隠し自体が怖い。親が豚になっちゃうところも怖い。そっちのルールで勝手にペナルティを与えられ子供が労働せざるを得なくなる無秩序な状況も怖い。ひとけのないトンネルなんか不用意にくぐるもんじゃないなと思う。映画作品としての完成度、主人公が成長する様子を描いた脚本、登場人物のすみずみまでに溢れる魅力。最高傑作と呼ぶにふさわしい。だからこそちょっと怖いと思わせる力も兼ね備えている。大人になってから感じ取るようになった怖さも、恐らく作品の魅力を構成するエッセンスのひとつだ。作中で何度もリプライズするメインテーマだけで、作中に吸い込まれ迷い込ませるような力がある。
いのちの名前、あの夏へ、あの日の川。
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遠くに見えたトンネルが見えたタイミングで「あの夏へ」。ピアノのイントロが流れて鳥肌が立った。
決して怖かったのではなく「ポジティブな意味で鳥肌」という誤用の方の意味である。こんな良い偶然があるんだなと嬉しくなったことを説明するのに前置きが長くなり、あわよくばのミスチルまで挟んでしまった(PADDLEとI’LL BEシングルバージョンを私のお葬式で適宜流して欲しい)。
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美岬トンネル。1030mで、能取岬方面からだととんど下り坂だった。
トンネル内では音が反響して響き渡る。スピードが出過ぎないようブレーキを掛けた時の金切り音と、「あの夏へ」後半でストリングスが疾走感を持ってクレッシェンドして行くところでカオスが生まれた。我慢しきれなくなって音楽は止めた。雰囲気が出過ぎていた。
下り坂で順調に進んでいるとはいえ一直線ではなく、出口はずっと見えないまま走っていた。トンネルがあることも事前に知らないで来た。
長い下り坂を走りながら、
「もしかして湖側に曲がらず、サロマ湖方面に向かってたりしない?」
と不安になり始めた。
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サロマ湖方面に向かっているとしたら、市街地から離れていることになる。予定通り能取湖と網走湖の間の国道を通ってこないと14時のラストオーダーに戻れず完全にコンビニ飯コースなのである。
来た道を戻りたくなんか全くなかったがGoogleMapを起動した。トンネル内は圏外だった。
まあコンビニって言ってもセブンイレブン以外に北海道発祥のあのセイコーマートもあるしいざとなったらセコマのホットシェフを味わうんだァ……
諦めてしばらく下り坂に身を預けていると、ようやく出口が見えた。
トンネルの中からもオホーツク海が綺麗に覗いていて、絵画みたいだった。
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景色の美しさに感動するのもそこそこに、現在位置と予定通りのルート上にいるのかを確認した。
まだ能取湖の手前にいた。安心した。
というか、
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GoogleMap「サロマ湖方面行くなら能取湖一周」
北海道の広さ怖…
車で1時間…
徒歩1日……?
1日って何時間?
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そこ橋かけなくていいんだ…
北海道くんがそれでいいならいいんだけど……
結果的に、どうしたって間違いようがない道だった。安心したやら恐ろしいやらだった。
あとはもう、ひたすら自転車を漕ぎ続けた。
後半の道のりのほとんどが右手に海か湖、左手に山林。出発地点道の駅を出発してから2時間以上経っていた。電動アシストのおかげで疲れは大したことはないが、ただペダルを漕ぐという単純作業の連続に飽き始めていた。久石譲が素晴らしいことには違いないが、インスト曲の情報量では物足りなくなっていた。
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そういう時は朝ドラ歴代主題歌プレイリストに限る。
大衆的人気作がつい刺さってしまう凡庸な私にとっては、NHKから主題歌として起用されるほど既にきっちり成功して脂がのったアーティストがタイアップ用に作って歌う、王道で爽やかなメジャー調が心地よい。ミスチル(2016年度後期主題歌はMr.Childrenのヒカリノアトリエ!)も含まれているしサイクリングに最適と言えよう。
たまに口ずさみつつ、山道で口を開けていると虫が飛び込んでくるので鼻歌もしくは腹話術的歌唱となる。
途中、能取湖畔で車が沢山連なっているエリアがあった。
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連なっていると言っても車中に人の姿は見えず、全て路上駐車の様だ。何事かと湖に目をこらすと浅瀬で沢山の人が皆潮干狩りをしている。
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子供の頃に親に連れていってもらった潮干狩りの記憶が蘇る。砂遊びの延長で水遊びもできて、夕飯には貝料理も食べられるという楽しいイベントだった。
能取湖で潮干狩りをしている人達は、もちろん家族連れのアクティビティも多く見られるが、ツナギのような作業服や農作業服のような格好をしている「ガチ」っぽい大人が多いようだった。さぞかし沢山収穫できるのだろう。
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そういえばどうして湖で潮干狩りができるのか。
「湖 潮干狩り」で検索すると、先頭に能取湖が出てきた。サロマ湖や浜名湖も出てくる。これらの湖は海と繋がって海水と淡水が合わさっている「汽水湖」であり、特に能取湖はアサリが特産、潮干狩りのベストシーズンがまさにこの4〜6月だという。
沢山人が集まっているのも納得だった。アサリを持って飛行機に乗って帰るわけには行かないのでそれを以て観光というわけにはいかないが、流氷が解けた直後の網走にはアサリもいる。
4月の網走には毛ガニしかないという知識不足による勝手なレッテルは剥がし、認識を改めなければならない。
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山林を抜けて民家がぽつぽつと見えてくると「サイクリングロード」と書かれた看板が見えた。
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ここまではずっと車道の端っこを軽車両として走っていただけだったけれど、最後はようやく自転車用に舗装された直線を走ることが出来た。網走湖沿いを走れて景色も良い。並行する車道は交通量が増え大型車両も多いので必要なのだろう。
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網走川を渡りサイクリングロードを抜けるとそこは市街地だった。
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時刻は午後1時過ぎ。
いつも以上に体を動かしたのでお腹はペコペコだった。なんとかランチのラストオーダーに間に合いそうだ。そう安堵していたところに、予期せぬ罠があった。
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博物館ではない現役の「網走刑務所」
刑務所前には網走川が流れ鏡橋が掛かっている。おまけに「刑務所作業製品展示場 営業中」ののぼりまで立っている。
翌日行く予定の博物館網走監獄は当時の建物が移築された場所である。ゴールデンカムイ13巻のラストに出てくる、網走監獄の地図の場所はまさにこの刑務所の位置だ。
しかしゆっくりランチ食べて道の駅で土産吟味して明るいうちに入浴するという目標にとってはリスクとなる。
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寄ってしまった。
現役の刑務所なので中を見学することは出来ない。
刑務所作業製品は、当たり前だけれどいわゆる修学旅行生が喜んで買うような、見るだけで楽しい土産品を売っている訳ではない。便箋だとか木製パズルといった質素で渋めの製品が並べられていた。
むかし地域コミュニティ活動の一環で老人ホームから頂いた手芸品のような、どこかイノセントな雰囲気をまとう施設だった。
ランチは、網走バスターミナルからほど近い市営施設「オホーツク文化交流センター」に併設された食堂manmaに立ち寄った。
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朝から刺身をたらふく食べてきたので昼は洋食にしたかったのと、地元らしい食事にありつきたかった。
ニシンや知床産鶏や鹿肉などがなかなか東京では味わえない食材を使った商品が並んでいる。店に入ってじっくり悩もうかと思っていたら、事前のカウンターオーダー。反射的にエゾシカ肉使用のジンギスカンサンドを注文していた。
しばらく待つと出来たての商品が届いた。
ジンギスカンは二月の札幌旅行で美味しくいただいてきたので苦手意識は既になかったが、よく考えてみると、羊肉以外のジンギスカンは初めてであった。ジンギスカンの定義ってなんだろう。お肉をタレに漬け込んでおいて野菜と一緒に焼いたらジンギスカンということで良かろうか。
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おいしいからなんでもよし!鹿おいし!
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付け合せの丸っこい皮付きジャガイモも甘くて美味しかった。エゾシカメンチやニシンフライも食べてみたかった。お店の雰囲気も良く、施設には図書館が併設されていて、近所に住んでいたら入り浸るに違いない。そんなことをアイスコーヒーをすすりながら妄想した。
そして無事、15時過ぎに自転車を返却!
お疲れさまでした!
売店で買った瓶牛乳で乾杯
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女満別空港や博物館網走監獄の売店でもしっかり土産は買えるけれど、この道の駅も品ぞろえが豊富だった。
冬季はこの場所から流氷観光砕氷船おーろら号が出発して、能取岬を巡るクルーズがあるとのこと。今度は海側からあの灯台を見ると心に誓った。
《反省》
中途半端に腕まくりしていたのが仇になった。「今年は売り切れる前に買っておこ!」とたまたま旅の前に調達した、無印良品の夏フェス用アームカバーの存在を思い出していた。
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