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網走0日目:当然カニには何の罪も落ち度もない

私はカニよりエビが好きだ。
カニクリームコロッケやズワイガニトマトクリームパスタみたいな商品が売られていたら好んで注文して食べるけれども、それでもカニかエビなら総合的にエビを選ぶ。カニは食べるのが面倒くさい。具体的にどのようにして面倒くさいかは細かく説明しなくても、自らカニを剥いて食べたことのある人なら分かってくれるはずだ。念の為茹でたカニなどを自ら剥いて食べたことの無い人がこれを読んでいる場合を想定し書いておくならば、ボイルまたはグリルされただけの調理加工されていないカニを食べる時には、口に入れて食べるまでに脚や甲羅から掻き出したり折ったり剥いたりする必要がある。足の関節のところを適度なところで折って片方からつるりとでた部分だけ食べられるならまだ良い。可食部ではない透明の筋のような骨みたいな物(調べたらあれは腱らしい)を口から抜き出し、持ち手側の方に身が残ったままになることも、この際一旦諦めてもいい。私が最もカニに対して食べるのが面倒だと思っているのは、専用の爪のついたフォークのようなものを持って掘り出して、場合によっては皿に集めておいたものを食べるために箸に持ち替え食べなければならないところだ。しかもその身は塊になっているでもなく箸で持ち上げにくい。手も、汚れているとは言わないがしっとり濡れている。カニを最初に食べ始めたのは一体誰だろう。飢えていたから食べたということであれば何ら疑問もないが、高級食材のように、それこそ土地の名物として有難く召し上がりましょうということにしたのは誰なのだろう。人一倍面倒くさがりで食い意地を張っている自覚のある自分にとっては、大きさによっては頭からしっぽまで丸ごと食べられるエビが名産です、と言われた方が数倍嬉しい。カニも丸ごと食べられる種類がいるかも知れないし、あらかじめ剥いてくれたものを食べるだけなら味も食感も好きなんだけれども、ましてや一人外食でカニに貪りついている自分を想像する事はできない。

そんなことを悶々と考えていたのは、日曜深夜に「明日からまた平日始まる仕事したくない」と駄々をこねた挙句に発作を起こして航空券チケットを取ってしまってからの事だった。
羽田〜女満別
行先は網走だ。
昔からずっと行ってみたかった網走。網走と言ったら無論のこと網走監獄である。大人気漫画ゴールデンカムイの作中に登場する重要な舞台で愛読している私にとっても念願の旅先だったし、北海道の中でも奥の方にあるオホーツク海沿岸エリアは子供の頃からいつかは行ってみたい場所だった。名作邦画である幸福の黄色いハンカチも網走から始まる。4月後半にはゴールデンウィークで連休もあるし、誕生月にのみ消化可能な特別休暇を利用する良い機会でもある。
新しい歳になるのだからずっと行ってみたかった場所へ満を持して行こう。行かなくてはならない。そういう理由をつけて深夜布団にくるまった私は「労働は本当にクソ」と言いながら航空券の予約確定ボタンをポチッとした。LCCで直前のスケジュールなのもあって予約不可のプランだった。

北海道にはこれまでに何度も行ったことがある。今年2月にもさっぽろ雪まつりへ行った。函館は特に好きで何度も行っている(函館が好きすぎる詳細と、同じくうどんが食べたすぎて香川から先の四国に行けない話は別の機会に書き残したい)。
なぜ網走に今まで行かなかったのかと言えば、ひとえに現地での交通の不便さに理由がある。運転免許を持っているものの教習車以外のハンドルを握ったことの無いペーパードライバーで(常に各社の自動運転システムの開発進捗をチェックしている話もまた別の機会に)、そんな自分でも居住地の東京から遠方の北海道をせっかく訪れたからには、観光資源が地理的に集中していて効率よく回ることの出来るエリアに行きたいが為に偏りが出ていた。同様の理由で本州でも秋田県、山形県、高知県は未踏のままになっている。
念願の網走。ただ、かねてより行きたい行きたいと旧Twitterで喚いていたくせに、網走監獄と博物館があることくらいしか知らなかった。フライトを押さえてから初めて具体的な観光地やアクセス方法を調べ始めて、じわじわと気付いた。そんなはずはないと最初は疑っていたものの情報を探せば探すほど事実であると思い知らされる。
情報は沢山出てくるもののどれも営業していないしバスも観光船も走っていなかった。旅好きの大敵であった新型コロナウイルス等の影響で廃業したわけでもなく、4月に営業していないものが多い。全国の観光業者にとって随一の書き入れ時であるはずのゴールデンウィークもオフシーズンだ。例として、観光船おーろら号、女満別空港から乗り換え無しで行ける知床半島行きのバスも冬のあいだと避暑地となる夏休み時期のみの営業だった。網走や知床エリアは流氷が名物なのである。

は????「なのである」???????なのであるではない。知らなかったはずがない。ゴールデンカムイの名場面でも流氷は出てくる。流氷の上を歩いたり、流氷を砕いて進む船が冬の北海道にはあって、皆それを観たいに決まっている。分かる。分かるよ。私もすごい観たい。流氷観たすぎて多分すぐ網走に冬また行く。しかも車なし人にとって貴重な交通手段となりうるレンタサイクルすら例年4月の後半から営業スタートだという。営業開始の日付は当時明記されていなかった。
無事借りられるのだろうか。北海道は寒いので(自分で書いていて馬鹿過ぎて面白くなってきた。北海道は寒いので。当たり前だろ)雪が溶けるのも遅い。航空券を発作で予約した東京の夜が既にポカポカでも、北海道でも特に北に位置する網走の地面には4月後半頃まで雪が残っていて、高低差もある土地柄では自転車を貸し出してくれる季節も限られてくる。何度も言うが当たり前の話だ。知っていたし少し考えればすぐ想像もいた。しかし、なにしろ労働とはクソなので私は網走にすぐ行きたかったし、私は4月下旬生まれなので致し方なかった。友人の親御さんが保育士をしていて「4月生まれは育てやすくていいよ」とよく持て囃してくれていたので、まさかこんな弊害が起きることは想定していなかっただけだ。
網走には多分流氷を見にまた来るけど、なにかひとつでもいいから、4月だからこそ楽しめる網走や知床の魅力は無いものか。なんかこう、車なしで行けたり、雪解けした直後だけど綺麗なお花が咲いてたり、美味しいお魚が旬だとか。旅のメインイベントは網走監獄と博物館巡りになるだろうから季節は正直いつでも良いし、むしろ活動しやすい春は自分にとって最適のシーズンであることを自覚しながらも、せっかく遠方まで行くのであればより多くのことを体験して帰りたい。何かあるだろう。何か。そういう期待をして検索した結果、
Google「毛ガニが春から初夏にかけて旬」

カニか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

名産地で食べる旬の毛ガニってどれだけおいしいことだろうか。あらかじめ剥いてもらっているお店あるだろうか。そもそも毛ガニってどうやって食べるのだろうか。

結論から言うと、この4月下旬の旅で私が毛ガニを食することはなかったし、最終日に海老出汁のスープカレーを食べて帰った。宿の朝食でカニ飯をかろうじて食べたくらいだ。美味しかったが、オールシーズンお刺身が美味しい北海道に脚を踏み入れた時点で自分の中で毛ガニの優先順位が上がることはなかった。本件についてカニには何の罪も落ち度もない事は繰り返し弁明したい。

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