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パラレル・ワールド

今回のテーマ:ニューヨークと映画

by らうす・こんぶ

一時帰国したとき、テレビでニューヨークの街の様子が映し出されるといつも、「あの街に住んでいるなんてうそみたいだな」と思った。ニューヨークにいるとそんなことは感じないのに、日本に戻ったとたんニューヨークがよそよそしく感じられるのを、いつも不思議に思っていた。

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ニューヨークに生活拠点を移そうと決めてからは、ニューヨークが舞台の映画なら何でも見ていた。実際に住むようになると、映画の中のニューヨークと私の生活の場であるニューヨークがどこで地続きになっているのか知りたくて見ていた。

ティファニーで朝食を、ウエスト・サイド・ストーリー、タクシードライバー、フランキー&ジョニー、アニー・ホール、フェーム、ローズマリーの赤ちゃん、サタデー・ナイト・フィーバー、追憶、ミスター・アーサー、恋に落ちて、マラソンマン、スパイダーマン、チョップショップ、ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ、レオン、危険な情事、ナイト・オン・ザ・プラネット、プラダを着た悪魔……まだまだある。

ニューヨークの街並みが出てくると、ここはどこだろうと目を凝らしてスクリーンを見つめた。「ローズマリーの赤ちゃん」の舞台が、かつてジョン・レノンとオノ・ヨーコが住んでいたダコタハウスであることはすぐにわかった。

「タクシードライバー」でロバート・デニーロが思いを寄せる女性とデートしていたカフェの窓からはコロンバス・サークルが見えていたが、今あの辺りは映画が撮影された頃とはすっかり変わってしまった。

1985年にプラザ合意が締結されたプラザホテル(現在はほとんどがコンドミニアム)と通りを挟んでセントラルパークがある。学生の頃名画座で見た「追憶」のラストでは、バーバラ・ストライザンド扮するケティがその通りでビラをまいているところへ、元彼であるロバート・レッドフォードが通りかかる。切ない場面だ。あの辺りを通るといつもそのシーンを思い出した。

ニューヨークの映画はほとんどマンハッタンが舞台だが、「チョップショップ」はクイーンズが舞台だった。貧しい移民の少年がお金を稼ぐために、キャンディーやスナックバーを箱に入れて地下鉄の車内を売り歩くシーンが出てくる。私には見慣れた光景だ。

ニューヨークが舞台の映画は数々あれど、自分の生活と地続きだと感じられたのはおそらくこの1本だけ。毎日のように乗っていた、マンハッタンとクイーンズをつなぐ路線が映画に出て来たことと、マンハッタンで撮影された映画にはない身近さを感じたからかもしれない。

もうひとつ気づいたことがある。私が意図せずリストアップしたのはすべて白人が主役の映画だった。黒人のエディ・マフィーが主演の「星の王子ニューヨークへ行く」のような映画もあるが例外的。ニューヨークは移民が多いが、私はアジア系が主演の映画は見たことがない。それが、映画で見るニューヨークと、アジア人である私にとってのニューヨークがパラレル・ワールドのように交わっていなかった理由なのかもしれない。


らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote: 

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