旅は道連れ絵は情け
今回のテーマ:美術館
by 河野 洋
旅行先で時間ができると決まって美術館を探す。どんな都市でも一つや二つ美術館、もしくはギャラリーがある。時間を潰すためではなく心の洗濯をする為にアートと対面する。別に絵画や彫刻、そういうことに詳しいわけではない。僕にとっては高尚なものではなく、僕と変わりない人間が創造したアート作品が、時間や国境、人種といった境界線をとっぱらい、知らないうちに身に付けてしまっている偏見や観念といった鎧を脱ぐことができる気がするのだ。自分を見つめ直すためにアートはある。
若い頃に見た美術館で一番印象に残っているのがアムステルダムのゴッホ美術館。美術館といえば複数の芸術家の作品を展示する印象しかなかったが、右も左もゴッホ一色。かなりのインパクトだった。近年ではフロリダ州セントピーターズバーグのダリ美術館にも感心したが、こういうのは一人の画家が城を構えているみたいで豪快だと思う。
旅行すると美術館へ行くのに住んでいると観光しない。だからニューヨークの美術館も放ったらかしにしていたのだが、パンデミックで家に閉じこもりだった反動からか、美術館などが再開した時には一気に美術館を巡った。以前にも行ったことはあるが、近代美術館やイサム・ノグチ美術館など、久しぶりにニューヨークの美術館に足を運んで楽しんだ。そしてニューヨークにはカルチャーパスという、各美術館の入館料が無料になる便利なパスがあって、それを使って、存在すら知らなかったウクライナ美術館なども楽しませてもらった。ウクライナへの支援も含め、ウクライナのアートに敬意を表し、近くのウクライナ・レストランでボルシチを食べ、ウクライナ一色だった1日も今では懐かしい。
美術館でいつも困るのが順路決めだ。入館した後、階上まで行って降りてくるか、一階から上がっていくのか、右か左かどちらへ行くか、はたまた、まっすぐ進むのか。観たい作品やアーティストが決まっていれば、そこを目指すが、冒頭でも書いたように美術に詳しいわけでも、ファンというわけでもないから、非常に迷う。それでも足の向くままにぶらぶら歩いて絵を見ていると、どこから見ても自分を見ているかのような絵の被写体や、目が醒めるような絶景の絵画に足を止められる。それは、まるで水が入っているコップを誤って倒してしまったかのような衝撃に近い。そして、しばらく、その絵に釘付けになり、まじまじと眺めていると、その絵が今にも動き出す、という錯覚に陥る。写真でもないのに、なぜ絵画はこんなにリアルで生々しいのか。
昨年日本に帰った時に名古屋でボテロ展を、京都ではアンディ・ウォーホル展を見た。芸術作品ですら美術館から美術館へ旅をするのだから、足のある僕はもっともっと旅をしなくてはいけない。キャンバスに広がる世界地図は旅の数だけ色彩を増す。次の旅先では、一体どんなアート作品との出会いが待っているのだろう。旅は道連れ絵は情け。
2023年2月14日
文:河野洋
[プロフィール]
河野洋、名古屋市出身、'92年にNYへ移住、'03年「Mar Creation」設立、'12年「New York Japan CineFest」'21年に「Chicago Japan Film Collective」という日本映画祭をスタート。数々の音楽アーティストのライブ、日本文化イベントを手がけ、米国日系新聞などでエッセー、コラム、音楽、映画記事を執筆。現在はアートコラボで詩も手がける。
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