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もちもち派?こんがり派?

今回のテーマ:ベーグル

by らうす・こんぶ

1992年の3月に私は初めてニューヨークに行った。テレビや新聞のニュースは秋に行われる大統領選であふれていた。日本の国政選挙なんかとはぜんぜん違ってなんだかおもしろそう。ワクワクしてきた私はアメリカの大統領選を生で体験してみたいと思い、11月の大統領選の投票日に合わせて再びニューヨークを訪れた。

この年大統領に選ばれたのは、アーカンソーという聞いたこともない小さい州の州知事だったビル・クリントン。私が3月にニューヨークに行ったときは、ビル・クリントンなんて名前はまったく出ていなかったのに、その僅か半年後、クリントンは彗星のごとく現れ、アル・ゴアと共に大統領選を勝ち取ってしまった。

当時あった、ロキシー(確かそういう名前だった)という名のゲイが集まる大きなディスコの大スクリーンでクリントンの勝利宣言が見られるという噂を聞いて、野次馬の血が騒いだ私は、初めて会う知人の知人に頼んで連れて行ってもらった。歴史が生まれる瞬間を目撃したかった。

大きなスクリーンに登場した若いクリントン・ゴアのふたり。それを大歓声で迎えるディスコに集ったニューヨーカー。アメリカは古いものを打ち破るうねりをつくれる国だと思った。私には、その日目にしたものすべてがキラキラと輝いて見えた。残念ながら、日本にはそういううねりは起きず、いまだに政界にもビジネス界にも老害がはびこっている。

さて、この年にニューヨークで初体験したものがもうひとつある。ベーグルだ。ドーナツ状にしたドウを1度ゆでてから焼くことで生まれる、歯にくっつくような独特のもちもちした食感が特徴で、これにたっぷりとクリームチーズを挟んで食べるのが最もオーソドックスな食べ方。

ベーグルにもクリームチーズにもいろいろな種類があるが、私が好きなベーグルは香ばしいローストタマネギのみじん切りがのったオニオンベーグル。これにクリームチーズを挟んだシンプルな食べ方がいちばん好きだ。さらにスモークサーモンをプラス(ベーグル&ロックス)するとごちそうベーグルになる。スモークサーモンで有名なデリのベーグル&ロックスはおいしさもさることながら、お値段15ドル。値段的にもごちそうベーグルだ。

ベーグルサンドイッチをお店で注文すると、トーストするかどうかと聞かれる。トーストするとこうばしいので、私はずっとトースト派だった。あるとき、ニューヨークにいくつかある有名ベーグル店のひとつが、「うちのベーグルのもちもち感はトーストすると失われるから、生のまま食べて欲しい」と言ったことから、ベーグルのトースト派とアンチトースト派の間でちょっとした論争が起こった(そうだ)。

それを聞いてなるほどと思った私は、久しぶりにトーストしないベーグル&クリームチーズを注文した。すると、確かにトーストしたときより歯ごたえのある食感を楽しむことができて、これぞベーグル!。このときから私はベーグルをトーストしないもちもち派に転向したのだった。


らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote: 

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