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”モビリティ”で世界を見てみたら

 こんにちは、コミュニケーション学部の光岡です。前回の僕のポストでは、「移動(mobility)」を大学で学ぶことのメリットについて触れたのですが、今回はもう少し「アカデミック」にモビリティについて考えてみましょう。

 現代社会においてモビリティに注目が集まるのは、グローバル化がヒトやモノの移動を促したというイメージがその前提にあるのだと思いますが、恐らく現在は「グローバル化した社会(globalized society)」である以上に、「移動する社会(mobile society)」と表現した方が適切だと言えます。

 というのも、アメリカの社会学者イマニュエル・ウォーラーステインの議論が好例ですが、国境を越えたヒトやモノの交流や、それらが引き起こした世界の一元化への動きは少なくとも15世紀の大航海時代から時間をかけて進んできたものだからです。むしろ、私たちが21世紀に入って経験しているのは、グローバル化が情報通信のネットワークという基盤と接合することで生じた、移動する頻度やそのスピードの加速化の進行です。簡単に言えば、より多くの人が、より簡単に移動することができるようになったという、移動の量的増加です。

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台湾、高雄の書店の様子(2019年光岡撮影)
メディアコンテンツの流通も加速化した。海外でもさほど遅れることなく日本の作品にアクセスできる。なお、本記事冒頭の写真(2018年光岡撮影)も台湾、高雄の街頭で出くわしたコスプレイベント。数多くの日本のアニメ、ゲームのキャラクターに扮した若者が参加していた。

 具体的に言えば、飛行機やホテルの手配がパソコン1台で済むようになったことで、いつでも私たちは旅行を計画できるようになりました。同様に、旅の手配がPCで済む以上旅行代理店は現在の店舗数を維持する必要はなくなります。すると、当然コストが低減するわけですから、(個人)旅行の値段は下がることになります。さらに、スマートフォンを持ち運ぶようになったことで、海外を旅する精神的ハードルも低下したはずです。なぜなら、いつでもどこでも日本語で情報を得ることができますし、旅行に関わる大抵のコミュニケーションは、スマートフォンが翻訳してくれるからです。このような変化が、新型コロナウイルスの流行までは起きていました。

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ニューヨーク、JFK空港の駐機場(2012年光岡撮影)
この写真自体スマートフォンで撮影されると、インターネットに接続
されSNSを回遊していく。

 ただし、この移動の簡便さはスマートフォンのようなモバイル情報端末の発達だけで可能になったわけではなく、同時にこれらの端末からアクセスする膨大な情報のデータベース、そしてそれらのデータを分かりやすいインターフェイス(画面とその操作の「型」だと考えてください)に変換していくアルゴリズムといった画面の裏で働く膨大な情報技術によって支えられています。つまり、私たちの移動を支えているのは、PCやスマートフォンといったメディア単体ではなく、それらを通じてアクセスする情報通信のグローバルなネットワークなのです。もう少し言えば、その情報通信のネットワークは、世界中から思い思いに私たちが接続することで、潮の満ち引きのようにその様相を時々刻々と変える、情報の深く広大な海のようなものかもしれません。それゆえに、現在コミュニケーションやメディアを学ぶ最も先端的な領域はしばしば、そのインターフェイスからネットワークまでを一つの場、つまりプラットフォームとして理解するプラットフォーム研究(platform studies)と呼ばれることがあります。

 上述のように現代社会では、ヒトやモノが移動することと、情報(コト)が移動することは一体化しているわけですが、このような情報技術に裏付けられた多様な移動のあり方に、メディア学、観光学、人類学、文学といった複数の観点を活用しながらアプローチできるのが国際コミュニケーション学科の特徴であり、メディア社会学科の科目を上手く組み合わせることでその理解はより深まります。この移動の学びの「実利的」な必要性は前回のポストでも紹介の通りですが、どうせ大学で勉強するのだから少し洒落た先進的な学問領域をと思う高校生のみなさんにとっても、刺激的な学びの領域だと言えるのかもしれません。

※今回のテーマに関心を持った方は、僕も寄稿した伊藤守編、『ポストメディア・セオリーズ』(ミネルヴァ書房、2021年)を手に取ってみて下さい。

(光岡寿郎)


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