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P77. 作品紹介『わたしが雨を好きな理由』

こんばんは!
この頃ずっと雨が続いてますね。

今日はそんな雨にまつわるお話

以前シンガーソングライターの花野さんという方とツイキャスでコラボさせていただいたことがあるのですが、その時に花野さんの曲を元に僕が台詞を書いた短編のドラマをご紹介します:)

わたしが雨を好きな理由


ポ、ポ、ポツ、ポツリ・・・

ポツ、ポツ、ポツリ・・・サーーーーー・・・・・・・

「今日はラッキーだなぁ・・・」

雨が流してくれるから。
心に絡みつく他人の言葉も、冷たい夢の背中も。
まして、雨上がりの虹、なんて見えなくて良い。
アスファルトに当たって弾ける、雨のしずくだけを見つめてたい。

「夢かぁ。わたしの夢って、なんだったんだろう?」

雲に覆われていなくても、そもそもこの町には空なんて無い。
コンクリートジャングルのど真ん中、ロボットみたいな人波の中、
ただ、さ迷ってる。
あの人も、この人も…。私も。
どうして、ここにいるんだろう・・・なにやってんだろ。

男『あの、すみません…余計なお世話かもしれないけど、これ。』

ハンカチ。別に、濡れるのが嫌なら、雨に打たれたりしないのに。

「結構です、すみません。」

男「いや、そうじゃなくて、その・・・涙」

涙…いつの間にか、あふれてた。
この雨の中で、わたしの涙に気づいてくれた人。
ハンカチから視線を上げると、茶色いネクタイ。
濡れた眼鏡の奥の瞳が、少し困ったようにこちらを見ていた。

男「あ、別に、返さなくて良いんで…」

それだけ言うと、彼はくるりと背を向けて駅の方へ歩いていった。

きっと、もう会うこともない

久しぶりにロボットじゃない、人の顔を見た気がした。
流したかったのは、黒く染まってしまう自分の心だったのかもしれない。

ポツリ、ポツリ・・・

もう少し、見ていたい

夢のしずくが弾けるこの町を。

「わたし、やっぱり、雨が好き。」



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