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書く習慣 Day14 | これまでに夢中になったモノやコト

ふと思い浮かんだのは、打楽器の演奏

中学校で入部した吹奏楽部で、パーカッション(打楽器)パートを担当したのがきっかけでした。

毎日飽きることなく音楽と楽器のことを考えていた中学校3年間。あれは生まれて初めての感覚で、「心から夢中だった」と言っても過言ではありません。青春でした。


不本意な配属から始まった出会い

ラブコメでも始まるんか?という見出しですが、これが本っ当に不本意かつ予想外だったんですよ。

私が入部した吹奏楽部では、新入部員が担当する楽器をオーディション形式で決めていました。最初の一週間ですべての楽器に触れ、担当したい楽器を第6希望まで書いて提出します。

それから約二週間かけて、顧問の先生が一人ひとりの適性を審査していくのです。それぞれの口の形と楽器の相性、体格、肺活量、リズム感の有無etc…

私の第1希望は、オーボエでした。

哀愁漂う独特な音色がとても好きだったのです(あと先輩がめちゃめちゃかわいかったというのもある)。試しに吹かせてもらったときも何とか音は出せたので、絶対やりたい!という気持ちを先生や先輩に伝えました。

そしていよいよ、担当パート発表の日。

オーボエパートは序盤に発表され、別の生徒の名前が呼ばれました。「オーボエができないんだったらどのパートになっても同じだ」と、いま思えばかなり失礼な態度で名前が呼ばれるのを待ちました。

しかし、いくら待っても呼ばれない。もしかして忘れられてる?いや、違う。これってもしかして……

「それでは最後、パーカッション。配属は2名です」。

そうして、いちばん最後に呼ばれた自分の名前。にわかに信じられず反応が遅れ、先輩から「返事!」と叱られ、しばらく放心状態でした。

オーボエ以外、かなり適当に書いてしまった希望用紙。とりあえず空欄を埋めようと入れたパーカッションは、第6希望でした。


モチベーション0からのスタート

ということで、ほとんど興味のない楽器を任されることとなり、テンション低めで始まった中学校生活。

さらに私のテンションを下げていたのは、部内一厳しいと言われているM先輩(3年生)の存在でした。彼女はパーカッションのパートリーダーでもあり、気弱で自信もなかった私は毎日おびえていました。

それに加えて、楽譜の読みかたや音楽用語の知識もなかったため、全員での音合わせでは「ちゃんと練習したのか!」と毎度注意される始末。いま思えば、楽器初心者にはかなり厳しい環境だったと思うのですが、時代のせいか、「見て覚えろ」「技を盗め」的な空気が漂っていたので、ついこの前まで小学生だった私は「教えてください」の一言すら言えなかったのです。

ある日、楽譜が読めずに演奏できないことを父に相談すると、「曲を聴きながら楽譜を追ってみるのはどう?」とのアドバイスが。父は楽器こそできませんでしたが、かなりの洋楽好きで家には大量のCDがありました。

そのとき練習中だった曲が「マンボ No.5」。
しかも、父が持っていたCD(おそらくどこかのビックバンドのアルバム)に、たまたま「マンボ No.5」が収録されていたのです。

さっそく楽譜を広げ、父と一緒にCDを聴いてみました。何度も繰り返し聴くうちに、「この形の音符はこういうリズム」「このマークは“繰り返し”の意味」というように、なんとなく譜面が読めるようになってきたのです。

それからは、新しい楽譜が配られるたびに図書館やレンタルショップへ行き、CDを借りて譜面と照らし合わせる日々が続きました(そういえば、CDを探すのに毎回付き合ってくれたのは父でした。本当にありがとう)。

半年ほど経ち、曲を聴かずとも楽譜が読めるようになると、少しずつ部活が楽しくなってきました。「最初は苦手でも、できることが増えるとモチベーションが上がる」という不思議をはじめて味わった瞬間でした。

いつの間にかM先輩とも打ち解け、わからないところがあれば「教えてください」と言えるようになり、卒業式ではお互い号泣するくらい仲良くなっていたのは良き思い出です。

“自信”というスパイス

中学1年生の冬、とある曲でトライアングルを担当しました。
曲中、トライアングルが目立つ箇所がいくつかあったのですが、「まあいうて小物楽器だし、とりあえず大きめに叩いておけばいいだろう」とあまり深く考えずに合奏に臨んだのです。

一曲通した後、顧問のS先生は指揮棒をおろすと、スッとこちらを向いてこう尋ねました。

「冬至、この曲でのトライアングルの役割は何だと思う?」

予想外の問いかけに戸惑い言葉につまっていると、S先生はこう続けました。

「先生はね、打楽器は料理でいうところの“調味料”や“スパイス”だと思っている。管楽器の音が散らばらないようにリズムを刻んだり、種類豊富な楽器の音色で彩りを添えたり。つまり、君たちの音次第で曲の風味がまったく変わってしまう

私だけではなく、部員全員が先生の言葉にじっと耳を傾けていました。ふぅ、と息をつくと先生は改めて「この譜面に“要らない音”はひとつもないんだよ」と言って指揮棒をあげ、合奏は再開されました。

それから中学2度目の春を迎え、気付けば「全日本吹奏楽コンクール」の季節がやってきました。各都道府県内で予選を勝ち抜き全国1位を目指すことから、「吹奏楽の甲子園」とも呼ばれた一大イベントです。

毎年、大会側から提供される「課題曲」と各学校が選ぶ「自由曲」の2曲を演奏します。その年の課題曲はマーチ(いわゆる“行進曲”)で、私は初めて「シンバル」という楽器を担当しました。

大会直前、全体の最終調整に入った時期に、顧問のS先生がとある年配の男性を連れてきました。S先生が中高時代にお世話になった音楽の先生、いわば「先生の先生だ」と紹介されたおじいちゃん先生は、おもむろに指揮棒を取り出し「課題曲!」と一言叫びました。

慌てて楽器を準備する私たち。緊張感が漂うなか合奏が始まりました。その後、自由曲も続けて演奏し終えると、おじいちゃん先生は指揮棒をおろし、ぐるりと音楽室を見回すと、パートごとに細かくダメ出しを始めたのです。

ふだんS先生から指摘されていることもあれば、初めてもらうアドバイスもあり、最初は戸惑っていた私たちも少しずつ真剣に耳を傾けていきました。

そしてついに打楽器パートへのダメ出し。少しずつ凹んでいく先輩の顔を見ながら、「自分は何を言われるんだろう」と身構えていると、「最後にシンバル!」とおじいちゃんが私の顔を見ました。そして、

「よかった。非常によかった。控えるべき箇所と思い切り鳴らす箇所をしっかり区別している。君の音がいいスパイスになっているよ

「スパイス」という言葉を聞いて、以前S先生に言われた言葉を思い出しました。一曲における打楽器の役割、トライアングルの役割、ひいては私の役割について。

おじいちゃん先生は続けてこう言いました。

「君はそのシンバルをどう叩けば理想の音が出るかよくわかっているようだ。相当練習したんだろう。自信を持ちなさい

それまで、演奏を褒められるという経験がなかった私。一瞬何を言われているかわからず、とにかく元気よく返事をし「ありがとうございます!」と叫びました。あとからじわじわと喜びがこみあげてきて、その後トイレに駆け込みこっそり泣きました。

以前、S先生から言われた「音の役割」の意味をずっと考えていました。私が思う、今回の課題曲におけるシンバルの役割は、曲にメリハリをつけること。

一定のテンポで似たようなメロディーを繰り返すマーチは、変化の少なさからどこか単調になりがちです。シンバルの譜面も、ほぼ同じリズムの繰り返しでした。ただ、途中途中で音の大きさやアクセントの付け所が違ったのです。

「一定のリズムを刻むところは控えめに、しかし後半に向けて盛り上がっていく流れで、最後は思い切り華やかに鳴らす」

自分なりに考えたシンバルの役割は、実際言葉にしたことはありませんでしたが、突然現れたおじいちゃん先生に伝わるくらいには表現できていたのかも。初めて自分の演奏に自信をもつことができた瞬間でした。

そんなこんなで、中学1年生から高校3年生までの6年間、打楽器に夢中になったのでした。

余談ですが、ふだん音楽を聴いていると、無意識にパーカッションパートのみ聴いてしまう癖がいまだに抜けません。やっぱかっこいいぜ。LOVE!







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