見出し画像

湯治場で、年を越す⑦【温泉仲間と焼肉へ】

<前回はこちら>

 千葉県からお越しのMさん夫妻。旦那さんはウィスキーを朝から常飲しており、寒い炊事場で換気扇を回し紙タバコをいつもプカプカやっている。如何にも豪放磊落と言った昭和の男の雰囲気だ。

 奥様は物言いがハッキリしとしているしっかり者。
毎日朝から飲み始めるご主人を助手席に乗せ、頻繁に成田方面から青森や岩手まで一息で行ってしまうほど。旅と温泉が本当にお好きなのだろう。

 SNSにも明るい方で、後に発覚するが過去に私の投稿記事をご覧になっていたという。初めて炊事場で会話をした際、長期滞在をしながら仕事をし、湯治をしているとお伝えした。
 「湯治」と「仕事」、「難病」、この3つのワードで点と点が繋がり、私と悟ったらしい。

 そう言えばこちらに来て2日目だったか、福島方面から来たという若者2人組がいた。浴場で話をすると、ネットで調べたらこの旅館を絶賛している記事を見たという。この宿は裏に田圃を持っていて、春には地元有志で田植えをし、宿泊者にも一等米が振舞われると・・・

 そう言えば、昔そんな記事を投稿したことがある。。

 「多分書いたのは私です、」とは恥ずかしかったので言わなかった。

 私が高東旅館に来て26日に現れたM夫妻。元々一週間ほどの滞在予定だったらしい。だが余程この宿が気に入った様子。こちらに来てから延泊を申し入れ10連泊にしたという。

 
 到着間もない頃から何かと私に気にかけてくれる夫妻。
夕支度をしていると「鍋食べるかい?」とご主人。奥様が作っていたのは仙台名物「せり鍋」。夕食はもやし生活になりがちなので、野菜が取れる上に身体が温まる鍋は有難い存在だ。

 奥様の運転で古川まで買い出しに行き、酒と鍋材料を揃えたという。
丼鉢に一杯、有難き日本の慣習「お裾分け」を嚙み締める。せりの根の部分の苦さが何とも言えない旨さだった。その他、豆腐に鶏肉などのたんぱく源をチャージ。

 その他朝には、「新米が炊けたから」と言って白米をいただだいたり(高東旅館で育てたひとめぼれ、宿で購入が出来る)、自宅の庭で収穫して浸けたという梅干し。缶ビールや揚げ物に至るまで、次々とお裾分けが、、

 そして遂に、鳴子ファンでこの店を知らなければ「潜り」とも疑われてしまう「氏家鯉店」。名物の鯉のうま煮をもお裾分け、、いやこれはお裾分けの領域を明らかに逸脱している。恐縮しきりだったが「いいのいいの」とごご夫妻。

 12月29日のことだった。いつものように炊事場に行くと、タバコを吸うご主人の姿が。


主人 「今日は夜どうするの??」
私  「適当に作ります」
主人 「八兆一緒に行くかい?」
私  「いや、、お二人の時間を邪魔してしまうので」

主人 「新婚夫婦じゃないんだから。一緒に行こうよ」
私  「お、、奥様がご迷惑でなければ」

 
 ご主人はその足で部屋の戸を開け、奥様に確認を取りに。

主人 「今化粧中で出てこないけど、一緒に行こうって」
私  「いいんですか。では、お言葉に甘えて」

 団体行動が苦手な私、旅するときはいつも一人。
だがこのお二人、何とも自然に私を受け入れてくれ、一緒にいて心地良かった。

 17時前にタクシーに相乗りさせてもらい、遂に東鳴子の名店「焼肉八兆」の門を潜った。開店と同時に続々押し寄せる客、あっという間に満席に。こちらに来てからはアルコールは控えていたが、折角の同卓。ビールで乾杯。

 ナムルとキムチをつまみに呑み始めると、久々にスイッチが入る。Mさんがボトルキープしていた焼酎もぐびぐびと。

 出色は上カルビ。脂身が少ないが柔らかく、噂に違わぬ超絶品。ついつい話に夢中になると、お肉に焦げ目が。ちょこちょこ痴話喧嘩始めるご夫妻。それでも尚、年に何度も旅行に出て長期滞在するのだから、仲が良い証拠だろう。


 翌日の昼、ご返杯代わりに私が先導したのは「千両食堂」。

 「美味いのはカツ丼です。でもマスターが気まぐれで、食逸する可能性高いですけどね」

 12時ちょうど、この日はのぼり旗が時間通りに出ていた。入店するとまだ誰もいない。行けるかも。

私  「カツ丼、出ますかね??」
店主 「時間お待ちいただければ」
主人 「ちびちび吞んでますので」

 3人でテーブルを囲むとあり、ここでもご主人と私はとビールを吞み始めることに。奥様はドライブキーパーとして我慢していただいた。

 また小競り合いを始めるご夫妻。

 「まあまあ、怒らないでよ」、私が仲裁に入る。親子に見られもおかしくない、実に日常的な光景になった。

 奥様は宿願叶いカツ丼を食す。女性にはかなりのボリュームだが、綺麗に平らげた。ご満悦の様子。私とご主人は炒飯をいただく、こちらも変わらず美味しかった。

 会計の瞬間。気さくなマスターが私達に声をかけた。

店主 「どこの美人が来たのかと思ったよ」
主人 「昔は国生さゆりって言われてたんだよ」
店主 「今も似てるよ」
主人 「シンディローパーにも似てるけどな」

 
 鳴子にあるいくつかの人気店。「焼肉八兆」、「千両食堂」、「みさをの店」。皆スタッフが愛想が良くて話好き。こんな人たちに会いたくなって、常連客はまた鳴子へと訪れるのだろう。

                          令和3年12月30日 

Mさん夫妻と 焼肉八兆の上カルビ
お裾分けシリーズ せり鍋 根っこの部分が苦くて美味い
氏家鯉店のうま煮 鳴子好きを自称しこれを知らなければ「潜り」と疑われてしまう

<次回はこちら>


いいなと思ったら応援しよう!

ヨシタカ
宜しければサポートお願いいたします!!