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山形 赤倉温泉いづみ荘①【安くて良い、素朴な宿】

 【剛毅木訥仁に近し】

 良い言葉ですね。硬骨で、素朴で口数が少なく、道徳の最高峰「仁」に近し人物。自分には及ぶことのできない領域であり、理想の生き方でもあります。

 私が再び三度と訪れる宿の館主には、こんな方が多いように思います。
あまりカッチリしていても、過度な厚遇をされても、拝金主義が見えて余りあるのも、、出過ぎた主人もちょっと。。注文が多く恐縮です。

 鷹揚としたお人柄に油断した刹那、温泉の話となると一瞬眉間に縦線がピッと走り、熱く語り始めます。時には山の宿で厳寒の候、立ち話ですっかり身体は冷え切ってしまいますが、そんなことも暫時忘れ聞き入ります。

 源泉そのものはもちろん、そしてその湯使いにも自信があるからこそ熱弁を振るうのでしょう。一つの温泉好きとしてこんな時間が尊く感じられ、館主に敬慕を抱きます。

 山形県と宮城県の県境「赤倉温泉 いづみ荘(山形)」にも、素敵な経営者がいましいた。少し訥弁で飾り気がなく、それでいて源泉に拘りを持つ好漢。食事も湯も秀逸で、2食付き6千円台(※湯治プラン・入湯税込で7千台に)の良き御宿でした。

小国川から望む 赤倉温泉街

 この宿を薦めてくれたはフォロワーのYさん。
彼女とは過去に2度、鳴子の高東旅館(宮城)で同宿したことがありました。湯治の先達でもあり、全身の痺れのために温泉療法をされています。私のブログを初期の頃から気にかけてくれる方でした。

 温泉のキャリアは長く、娯楽や慰安を求めず湯と向き合い、その具眼にはいつも頭が下がる思いです。同病相憐れむ、私の嗜好も嗜癖もすっかり見透かされているのです。

Y 「ヨシタカさん、赤倉のいづみ荘は気に入ると思いますよ」
私 「赤倉は三之亟に昔行ったきりです。夏だったか、激熱だった印象で」
Y 「お湯も食事も、あとご主人とお母様の雰囲気が堪らないのです」
私 「Yさんがそこまで言うなら、一度行ってみようかな」

Y 「旅館の食事苦手でしたよね?料理少なめの湯治プランがあるから、それで十分だと思います。豪華ではないですが、凄く美味しいです」
私 「基本自炊が良いのですが、冬は手の痺れと痛みで作れなかったりします」「あと一斉に料理が並ぶと、何から食っていいか分からなくなるんです。口に運ぶ時には冷めてしまうし」
Y 「わかります。湯は典型的な芒硝臭であたりは優しいですが、内側から主張してくる感じです。日帰りもやっていますよ」
私 「そうですか。一度立ち寄ってから泊りですかね」

 その後日帰りで訪れたいづみ荘。接客してくれた御主人は割烹着で私を迎え、言葉少なに館内を案内して下さりました。男女別の内湯しかないこちらの宿。筒形の湯口には石膏が硬化した析出物がびっしりと。

 湯は透徹ですが、芒硝臭のミストが浴室に舞い全身を包みます。肌ざわりは優しいですが内側からジワジワと蓄熱し、汗が額を伝います。確実に湯を捉えた感触が残りました。

 横溢する宿泊欲を抑えられず、とある冬の日に投宿を果たしました。

いづみ荘の全貌

 数年前に師走の山形でホワイトアウトにあった経験があり、冬の鳴子温泉から赤倉へかけての勾配は畏怖倦厭でもありました。最寄りの赤倉温泉駅から3キロ離れる温泉街、その中でもいづみ荘は狭隘の路地にあります。
 
 心配を他所に綺麗に除雪が行き届いており、スタッドレスであれば走行は特段問題はありませんでした。宿の外観は一見社員寮のようで、高雅な門扉もなければ庭園もありません。

 前面道路の境界に摺りついている箱型のコンクリート造、一見旅館とは思えないほどです。無駄を一切省いた造りは却って矜持を感じさせます。静かに湯に浸かり、安閑を求める旅に余計なものはいりません。

 向かいの駐車場に車を停め館内に入ると衝撃の光景が目に飛び込んできました。館主のお母様が帳場横のスペースにて、なんと客を相手にUFO型のプロセッサーでパーマをあてていたのです。

帳場の待合

 しばらくして、あの時と同じく割烹着を来た御主人がお見えになりました。理由を聞いて納得です。

館主 「うちはもともと床屋なんです。祖父の代まで本業で、髪を洗うのに湯を近くの旅館から分湯してもらっていました」「そのうち湯を使わせてもらえなくなって自分で掘ったら源泉が出たんです」
私  「はあ(苦笑)」
館主 「この辺りは河原をスコップで掘ると温泉が出るくらい、湯量は豊富なんです」
私  「そんな簡単に…共同源泉ではないのですね」
館主 「赤倉は全ての宿が自家源泉なんです。閉めちゃってる宿も多いですが」

 この温泉街もご多分に漏れず巨大旅館の荒廃が目立ちます。この日の赤倉には私以外の客はいないのではと思われるほど深閑としていました。ひっそりと湯治をしたい自分にとっては欣快以外の何物でもありませんでした。

つづく

温泉街中央の橋梁にて
河原を掘ると源泉が出るという
田畑には残雪が

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