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赤 い 花 を た ず ね て

まぶしい赤と
ハートを5つ、円に繋げたような花びらが
とびきり可愛い
花の苗を見つけました。

背丈はまだ十数センチほどで
ふっくらした蕾もいくつか付いています。

そこは、園芸店の店先です。


どこか見覚えのあるお花、と思い返して
浮かんだのは
学生のころ、通学路の途中にあった
一軒のクリーニング屋さんでした。




家の一階に店を構えている
クリーニング屋さん。

くすんだ青のオーニングに
「クリーニング」の白い文字。
おじいさんとおばあさんのふたりで
切り盛りされているお店で
店先には、花の鉢やプランターが
幾つも並べられていました。

その中にこの花が咲いていたのです。

きっと、
丹念にお世話されていたのだと思います。
朝顔、あじさい、ペニチュア、百日草、、
季節に合わせて息をするように
店先には色んな種類の花が咲きました。
花は、いつもふわっと、楽しそうに
まるで、訪れる人を
お出迎えしているような表情です。

高校生だった私は
店前を通って学校へ向かうのが
小さな愉しみでした。


園芸店からの帰り道。
バスに乗りました。
そろそろ夕日が傾き始める時間です。


派手な看板が並び、
所狭しと店舗がひしめきあっている
人工的な風景のなかを
バスは、スイスイと通り過ぎてゆきます。

コストも手間もかかるお花はやはり
合理的でないのでしょう。
30分間の乗車時間、
気にかけて町を見てみると
店先にお花が咲くお店は
ほとんど、見受けられません。


時間や数字に追われるようにして
過ごす人が増える今、
花を育てようと思う人も
咲く花に目を落とす人も
もっと減ってしまうのでしょうか。


コトン、コトン、と
ちいさく揺れる車窓から
流れていくモノクロの風景を眺めながら
ふと、そんなことを
考えてしまいました。


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