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番外編 「会いたい人に会いに行く、旅」

鶴乃湯の扉を引いた。
いないのはわかってる。

わかってるって思いながらも番台をそっと覗いた。
そこにはやっぱり私の知らない顔の女性が座っていた。



「小林さん、、ってご自宅にいますか?」

「小林さん? ああ、いると思いますよ」

「ありがとうございます。いってみます」


鶴乃湯には2年前に出会った。

釜石に縁あって1ヶ月住むことになった時、滞在先の内風呂が使えないことから、渋々近くの銭湯に通うことになった。銭湯なんてほとんど使ったことなかったし、ましてや地域の銭湯はよそ者にとって非常に入りづらい場所だった。しかし、そこで出会った番台さんの小林さん(以下、ミヨちゃん)のおかげで私はこの銭湯が大好きになったし、「明日からもここに通おう」そう思った。

ただ、新型コロナの影響で、東京に住む私は、自由に釜石に行けなくなってしまった。10月、東北に行こうと決心した時、どうしても鶴の湯にいきたくて、事前に連絡をしてみた。


電話に出たのは、ミヨちゃんの声じゃなかった



「鶴乃湯さんですか?小林ミヨさんいますか?」と伺うと、
「小林さんは今骨折しててね、お休みしてるのよ」と答えが来た。


自分のおばあちゃんのことがふと浮かんできた。
私の祖母は腕を骨折して入院後、すぐにすい臓がんが見つかり、亡くなってしまった。元気だった祖母は骨折をきっかけに入院生活が始まり、そのまま自宅に帰れなくなってしまった。その骨折は私のために設置したベッドの柵につまずいたためだった。誰も私を責めることはなかったけれど、祖母の入院生活のきっかけはを私が作ってしまったとずっと自分を苦しめている。


だから、自分の本当のおばあちゃんのように慕っていたミヨちゃんが骨折したと聞いて、嫌な想像が頭を巡ってしまった。


「今はもう番台さんはやられていないんですか?」

そう電話先の女性に尋ねると、

「まだ痛むみたいでね、治るまでは少しお休みしているのよ」

と返事が来た。


「それまでは、私の孫が番台しているの。私はそのおばあちゃん。いま晩御飯を作ってるのよ。」

時刻は16:00。
急に始まった世間話に、心配で緊張していた心がふっとゆるんだ。

(そうだ、伺っていいか聞かなきゃ)

今回の電話の要件はコロナ禍で東京の私が釜石に、そして鶴乃湯に伺うことはどうかを聞くことだった。



「私、東京に住んでいて。いまこんな状況なんですけど鶴乃湯に11月伺うのってどう思いますか?」

「どうって、すぐに来なさいよ。いつでもいいわよ。」

「コロナウイルスとか気になさりませんか?」

「そんなの誰も気にしてないわ!いつでも来なさい。小林さんも鶴乃湯の近くに住んでるからよろこぶわよ」

あたたかかった。やっぱり私の大好きな大好きな鶴乃湯だった。


「ありがとうございます!今度遊びに行きます!」
「はい。ありがとう」

こうして電話がおわった。




銭湯のお客さんと番台さんという関係性を踏み越えて、わたしは彼女の自宅に向かった

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銭湯のすぐそばにミヨさんは住んでいる。
そう聞いていたので、どうしても会いたかった私は、鶴の湯に彼女がいないことがわかるとそのまま彼女の自宅に向かった。
ご自宅の前につくと、そこには一人のおじいさんが玄関先で魚を干していた。


「こんにちは」

「おおこんにちは」

「…小林ミヨさんっていらっしゃいますか?」

「ああ、小林ミヨさんならうちに一人いっぺ」

(笑)

「おーい!若いべっぴんの女の子が会いに来たぞ」

そうおじいさんが中に声をかけると、部屋の奥から足音が聞こえて来た。
扉から出て来たのは、いつも番台に座っているミヨちゃんだった。

「あら~!いつ来たの」

もう私は顔見た瞬間涙が止まらなくて、(今この文章を書きながらもそのときのことを思い出して泣いてます)元気でいてくれて本当に良かったっていう安心感と、一年以上会えてなかった今までの寂しさが爆発したのと、「また会えた」ということが本当に嬉しかったのと、たくさんのたくさんの想いが入り混じってしまって。もう涙が我慢できなかった。

「元気なの?歩けるの?」
「そうよーもう全然!」
「よかったあ。本当に良かった(号泣)」

「いつ来たの」
「さっき」
「どうやって」
「車で」
「ああ、それじゃあよかった」

「どこさ泊まってるの、前と同じところ?」
「ううん、いまは平田にいる」
「それじゃああんた、どうやって帰るのよ、足じゃいけないでしょう」
「友達がおくってくれるよ」
「ああ、それはよかった。車でないとあっちの方からこちらに来るのも時間かかって大変だからねえ。」

こんなただの日常会話も愛おしくて、嬉しくて仕方がなかった。

鶴乃湯に電話したら、みよちゃんじゃない人が電話に出たこと。
骨折して今は番台さんをお休みしてると聞いたこと。
お休みしてても会いたくて、いてもたってもいられずにここに来たこと。

全部全部話した。


嬉しさと安堵で流れた涙も、ようやく収まった頃、

「今日のお風呂は私が掃除したから、お風呂はいって行きなさい!」

そう勧められ、お別れをすることになった。


せっかく泣き止んだのに、また泣いた。



「大好きな釜石、銭湯。
けど遠くに住む私には、ただ会いに行くことしかできない」


そんなことを実はこの旅である人に相談しました。

その時にもらった言葉。

“でもそれでいいと思うんだよ だってさ、さおりちゃんが会いに来ると銭湯の番台さんめっちゃ元気になるでしょ?”

たしかに、この日ミヨちゃんに会いにいった日のことを振り返ってみると、私をみて、
「せっかく来るんだったら、(番台に)座って待ってたかった。金曜日には(番台に)戻れるから。今日だってお風呂掃除して、もう元気なんだっけ」

と話しながら、おどけて体を左右に揺らす。いつもは私が釜石に1週間ほど滞在するのを知ってなのか、きっと少し無理をして最短で番台に戻れる日を指折り数えながら教えてくれた。私は明日帰るのに。

嬉しくて、少し寂しくて、そして心配だった。

ただ、私は勝手にミヨちゃんはもう銭湯をやることに疲れていて、辞めたいのかなとばかり思っていた。しかし、彼女がくれた言葉からは疲弊ではなくパワーを感じた。

「ただ会いにいく」

そこに少しでも地域の人を元気付けるもとがあるとするならば。
私はこれからも、500km離れようが、1000km離れようが、
「大好き」な想いをひとつ抱えて会いに行こうと思う。


この記事はきっかけメンバーさおりんが書きました。

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こんにちは!きっかけ食堂東京メンバー「さおりん」こと、柏木彩織です。

釜石は私を東北にのめりこませてくれた特別な場所。
ここで出会った方々は私の生涯の宝物。

この記事で出て来た、銭湯「鶴乃湯」さんは岩手県釜石市に所在します。

かまいし【岩手県釜石市】

「鉄とラグビーと魚のまち」として有名な釜石は、岩手県三陸沿岸に位置し、海、山、川と豊かな自然と豊富な資源に恵まれている街です。2019年にはラグビーワールドカップが開催され最高の盛り上がりを見せました。

少し前に釜石を楽しむためのヒントをメイン記事でも書いています。
ぜひこちらからご覧ください!

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