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【読書ノート】「心理学的経営: 個をあるがままに生かす」

読んだ本の気になる部分を書き留めていきます。
今回採り上げる本は、『心理学的経営: 個をあるがままに生かす』著.大沢武志です。


本を手に取った切っ掛け

この本を手に取った切っ掛けは、私がよく視聴させて頂いている大好きなサービス『CULTIBASE Lab』が完全無料化したことに伴い、代表の安斎さんがXとvoicyで一押ししていた動画

CULTIBASE 2023.11.07「心理学的経営」のアップデートを探る:新生リクルートが掲げる新しいマネジメント論

を見て、書棚にあった本を改めて見返してみたことでした。

CULTIBASEが完全無料になったことで絶対見てほしい動画のひとつはこれ。

2021年に経営統合した株式会社リクルートが、現代環境に合わせて創業期のルーツである「心理学的経営」をどのようにアップデート・昇華させようとしているのか。

安斎勇樹さん Xより


書き留めたところ① タテマエとホンネ

官僚制組織論に代表される合理的組織の考え方は、役割分化において重複や混合を避け、熟練された専門技術を導入し、ムダを省いて、最も効率のよいシステムを志向する。
・・・
 しかし、そもそも人間の行動は、このいわばノイズとしてのムダな情緒や感情を基底にもつところにその本質がある。効率性と合理性を優先させる組織論は、人間の一方の重要な側面を無視しているのである。
・・・
人によってつくられ、人によって構成される組織を動かすのに、合理性の原則や能率の論理のみにとらわれていると、一人ひとりの個性などはどこかへ葬り去られてしまう。心理学的経営の考え方は、人間の現実をあるがままに受け入れ、とらえることを何よりも重視しているのである。

「心理学的経営」 p.9-10

タテマエに対してホンネ、合理的なシステムに対して非合理的な人間行動、表のマネジメントに対して裏のマネジメント、こうした対比のなかでありのままの人間に対する理解を中心において企業経営を考える、これが心理学的経営の基本的なスタンスである。人間を人間として扱う人間主義的な経営、企業経営の中心に人間軸をおいた経営観、これを「人材経営」と呼ぶなら人材経営を支える重要なパラダイムとなるのが心理学的経営論の役割と私は考えている。

「心理学的経営」 p.219

野中先生が書かれている書籍『経営管理』では、

・組織に対する構造的な観点をクール・アプローチ
・組織の目標達成に対する個人的で人間的な観点をウォーム・アプローチ

として、経営学の文脈を整理されていました。

「経営管理」の中でのこの2つのアプローチを接合するという意味では、

「心理学的経営」に出てくる

『タテマエとホンネ』
『表と裏のマネジメント』

という捉え方は、2つの概念が一つの組織に同居している、矛盾しているものとして両立しているということが、感覚的にとても理解しやすいものでした。

タテマエがあるからホンネがあり、
表があるから裏がある。

このような理解は、組織運営を考えるにあたり、極めて重要です。

野中先生は、書籍「知識創造企業」において、ナレッジ・マネジメントである「SECIモデル」を提唱されていますが、この本「心理学的経営」についても、異なるアプローチで、似た概念に辿り着こうとしていると読んでいて感じました。


書き留めたところ② 生涯の課題

 すなわち第一には、それぞれの個人の「自己理解」を助けるのにどの程度有用かという点である。個性を尊重するといっても、組織が、自己組織化の作用の過程で成員一人ひとりの個性を把握し、生かしてくれることなどありえない。まず生かされるべき個性について、当の本人が基本的な次元で自己理解をしえていることが必要で、そのための考え方の枠組みとなりうるものでなければ意味がない。自己理解が得られなければ他者理解は望めず、自己受容ができなければ、他者受容も望めないだろう。しかし、自己受容とは、大げさに言えば生涯の課題であって、それは葛藤と苦悩の産物と言わなければならない。そうした自己形成の過程を知らなければ、他者を理解することも、他者受容を望むべくもないだろう。
・・・
個の尊重というテーマは、心理学的には「個性化」の過程と深い関わりをもち、「本当の自分」にたどりつくという意味での自己実現の世界と企業における個性の尊重という舞台とを重ね合わせると、そこでの問題の複雑さを思い知らされるのである。
 企業における働く人びとの自己実現、そして豊かな人生の実現自体が心理学的経営のゴールなのだが、それは一筋縄では解決に到らない究極、永遠のテーマであることも認識しなければならない。

「心理学的経営」 p.18-20

この部分、非常に興味深く読みました。

「自己理解」は、葛藤と苦悩の産物で、生涯における課題。

経営において、この課題と向き合うための組織風土の醸成がポイントだが、個人には様々な差異があるので、このポイントを実現させることは、とても難しいものになっている、

と理解しました。

昨今、世代間格差をはじめ、以前と比べて、多種多様な個人が存在しているように感じます。

企業における働く人びとの自己実現、そして豊かな人生の実現

これは人が組織で働くにあたっての永遠のテーマですね。

書き留めたところ③ カオスと自己破壊

環境の変化に適応するということは、本質的には、それ以前の環境に適応していた自己を破壊することからはじめなければならない。バランスのとれた、安定した、形式の整った状態は、環境の変化に対して強い抵抗を引き起こすことになり、そのことは結局は変化についていけず、自滅の途を転がり落ちる結果になってしまう。
・・・
こうした現状の自己否定が組織に葛藤と緊張をひき起こし、組織内の均衡状態を崩していく。これがカオスの演出という活性化のための最初の戦略として認識されなければならない。

「心理学的経営」 p.81-84

私は企業の戦略的活性化のポイントを「一に採用、二に人事異動、三に教育、四に小集団活動、五にイベントにまとめられます。これに共通しているのはカオスの演出です」と述べた。

「心理学的経営」 p.92

環境が変化する中、
今の環境に適することで成功した企業は、
今の環境に過剰適応してしまい、
未来の変化への対応の忌避を生んでしまう。
これが自滅につながる。

だからこそ、組織の中で、カオスを演出する必要がある。


この箇所、非常に興味深い観点を頂きました。

リクルート社は、この自己破壊について、組織だけではなく、ビジネスについても実行されていると

「ハイパー起業ラジオ」
#3-6 Airレジでイノベーションのジレンマを突破!?イネーブラーとは?

で尾原さんが解説されています。

事業が本当に長く続く事業を作るためには、わざと事業の中に自分を壊す事業を作っていくことによって、成長をより次の周回、さらに次のイノベーションの周回というところになっても問題なくするという風に、
リクルートの恐ろしいところは、社内にあえて自分を殺すライバルを作るというところの話で、その中でもネットワーク効果を殺していく、今まで語らなかった敵、イネーブラーの話をしたいと思います。

「ハイパー起業ラジオ」#3-6 Airレジでイノベーションのジレンマを突破!?イネーブラーとは?

その辺が大事なのが、リクルートらしさを残しながらリクルートを殺すのは何かって並行で考えることによって、こうやって自分を殺すものをあえて内側に入れることによって、むしろ自分たちを新しくしていくっていう発想が。
まあ多分これからインターネット企業がやっぱり最初に儲かったビジネスから2周目3周目に入っていくサービスが社会インフラになっていくみたいな時にヒントになるんじゃないかなって思うよね。

「ハイパー起業ラジオ」#3-6 Airレジでイノベーションのジレンマを突破!?イネーブラーとは?

事業領域と組織領域を整合させ、一貫した価値観で動いている点において、素晴らしい企業だと思います。

この価値観は、私たちがよく耳にするリクルートの旧・社訓

「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」

にも通底している考え方です。


この1枚のスライドが凄まじい

この本について、前述した動画の中で、本の解説を安齋さんがされています。

CULTIBASE 2023.11.07「心理学的経営」のアップデートを探る:新生リクルートが掲げる新しいマネジメント論

この動画の中のスライドが、この本の本質的な部分を見事に、凄まじく分かりやすく表現されています。

CULTIBASE 2023.11.07
「心理学的経営」のアップデートを探る:新生リクルートが掲げる新しいマネジメント論

このスライドを見ると、個人の自己実現と組織の活性化が、組織内の施策や組織内コミュニケーションによって、どのように連環するかが、イメージしやすくなります。

環境が常に変化する中で、個人と組織をどのように整合させ、個の自己実現を図るか、が動的に描かれています。


読後メモ:will-can-must

以前、リクルート出身の2代目経営者の方と話しをしている時、

自社の社員にwill-can-mustの「will」(やりたいこと)を聞いても、
全く出てこない、
もしくは、
こちらの意図とかなりズレた答えを言う。

という悩みを聞きました。

「やりたいこと」というのは、
誰もが初めから自分の中に持っているものではなく、
自己理解の先に、生まれるものだと思います。

そのため、
仕事における「やりたいこと」を創出するためには、

自身の職場において、
自身が主体的に仕事に参画することを経験し、
得られた経験に対して、
他者からのフィードバックを得ることで、
自己理解を深めていくこと

が求めれます。

こういった職場環境、組織風土を抜きにして、
従業員から「やりたいこと」を引き出そうとしても、
「出てこない」または「的外れな答え」となります。


この本を読んで気づいたことは、

変化する環境の中で、事業と組織と個人を整合させ続けること

これが経営そのものなのかもしれない、、、
ということでした。

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