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【読書ノート】『私とは何か 「個人」から「分人」へ』

読んだ本の気になる部分を書き留めていきます。
今回採り上げる本は、『私とは何か 「個人」から「分人」へ』著.平野啓一郎です。


本を手に取ったきっかけ

この本は、「観察力の鍛え方」の中で、『人は分人の集合体であり、中心や本当の自分はない』(p.178)の部分を読んで、気になり、手に取りました。

興味を持った箇所を書き留めておきます。

書き留めたところ

たった一つの「本当の自分」など存在しない。裏返して言うならば、対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて「本当の自分」である。

同書 p.4

分人のネットワークには、中心が存在しない。なぜか?分人は、自分で勝手に生み出す人格ではなく、常に、環境や対人関係の中で形成されるからだ。私たちの生きている世界に、唯一絶対の場所がないように、分人も、一人一人の人間が独自の構成比率で抱えている。そして、そのスイッチングは、中心の司令塔が意識的に行っているのではなく、相手次第でオートマチックになされている。街中で、友達にバッタリ出会して、「おお!」と声を上げる時、私たちは、無意識にその人との分人になる。「本当の自分」が、慌てて意識的に、仮面をかぶったり、キャラを演じたりするわけではない。感情を隅々までコントロールすることなど不可能である。

同書 p.50

人は、なかなか、自分の全部が好きだとは言えない。しかし、誰それといる時の自分(分人)は好きだとは、意外と言えるのではにだろうか?逆に、別の誰それといる時に自分は嫌いだとも。そうして、もし、好きな分人が一つでも二つでもあれば、そこを足場に生きていけばいい。
それは、生きた人間でなくてもかまわない。私はボードレールの詩を読んだり、森鴎外の小説を読んだりしている時の自分は嫌いじゃなかった。人生について深く考えられたし、美しい言葉に導かれて、自分がより広い世界と繋がっているように感じられた。そこが、自分を肯定するための入口だった。

同書 p.93

分人は、他者との相互作用で生じる。ナルシシズムが気持ち悪いのは、他者を一切必要とせずに、自分に酔っているところである。そうなると、周囲は、まあ、じゃあ、好きにすれば、という気持ちになる。しかし、誰かといる時の分人が好き、という考え方は、必ず一度、他者を経由している。自分を愛するためには、他者の存在が不可欠だという、その逆説こそ、分人主義の自己肯定の最も重要な点である。

同書 p.93

「分人」という観点は、自分と他者の関係性を、自分がどのように感じているかをメタ的に捉えていく視点を与えてくれることが興味深いです。

また、それは「生きた人間でなくてもかまわない」という点も興味深く、個人的に納得できます。
「読書が好き」「仕事が好き」というのは、読書や仕事という対象が好きというよりも、「読書をしている自分」「仕事をしている自分」が好きと考える方が、しっくりくるように感じます。

「チワワちゃん」を思う

この本を読んでいて岡崎京子さんの「チワワちゃん」を思い出しました。

『友だちと別れたことのある人に』

という言葉からスタートする短編マンガで、
バラバラ殺人事件の被害者である「チワワちゃん」のことを関係者が振り返っていく話しです。

チワワちゃんは あたし達と
あそんだり
おしゃべりしたり
なやみをうちあけたり
バカ話しをしたりした

キスしたり
セックスしたり
恋をしたり
憎んだりした人もいた

でも・・本当は みんな
誰もチワワちゃんのことを何も
知らなかった

でもチワワちゃんも
自分がなんなのか
きっとよく分かんなかったと思う
(あたしもそうだもんなんて安易か)

「チワワちゃん」p.145-146

読後メモ

昔は、今よりも人を取り巻くコミュニティが固定化していたのかもしれません。

生まれた地元で育ち、地元の学校に通い、地元の人と結婚して、地元の会社に入って定年まで勤め上げ、地元の家族に看取られ、先祖代々の墓に入る。

今の時代、核家族化が進み、家族の形や、住む場所、所属する会社、性別、その他自分が所属するコミュニティは、自らの意志で選択すべきである、という空気感があります。

「チワワちゃん」の登場人物も、栃木県、茨城県、NY生まれ札幌育ち、岩手県、愛知、広島、島根、熊本と、様々な地域から東京に出てきた設定になっています。

「分人」とは、「関係性における役割、もしくは役回り」という言葉で自分は理解しました。

コミュニティの中で、役割や役回りが固定化された時代から、流動性が高まっている時代の中で、私たちは、自身の「分人」を俯瞰で認識し、意識して構成比率をコントロールしていかないと生きづらい状態になっている。

本当は、統一された自己は存在しない。

あるのは、様々な関係性における役割を意識的に選択する中で、自分にとって好きな自己(分人)の構成比率を高めていくこと。


こんなメッセージを書き留めておきます。

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