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「有機的組織の幻想」と「ビュロクラシ―・ライト」

サミュエルソンの言葉で「自然科学者は誰でも同じようなことをいうが、社会科学者はまさに千差万別のことをいう」というものがありますが、組織に関する考え方も千差万別ですし、様々な流行ワードが流行っては廃れを繰り返しているように感じます。

今回取り上げるテーマは「有機的組織の幻想」(一橋ビジネスレビュー、2014年SUM、p.6-17 沼上幹.著)です。


有機的組織の幻想

日本企業が直面する経営問題を解決すべく組織変革に取り組むとき、官僚制を廃し、ミドルやロワーのイニシアチブを促進して、ヨコ方向のインフォ―マル・コミュニケーションを活発化すればよいと素朴に考えている人は数多い。われわれは、「有機的組織=あるべき姿」とする思考を暗黙のうちに心に刻みつけているのである。その幻想にとらわれてしまったわれわれが組織変革の判断に際してバイアスを持っている可能性について警鐘を鳴らすことである。

「有機的組織の幻想」同著 p.6-7

上下のヒエラルキー構造を設けず、個々人のタスクについても明確に分けず、異なる知識を専門的に持った人たちがヨコ方向の相互作用を展開して調整する組織を構築しようという試みを行うケースがあります。このような水平的な相互作用を通じてフレキシブルに環境適応するネットワーク型の組織は有機的組織と呼ばれます。

一方で、個々人のなすべきタスクが明確に定義され、上司がヒエラルキーを通じて調整する、標準化と公式化とヒエラルキーで仕事を進める官僚制組織を機械的組織と呼んだりします。

このような機械的・有機的という言説は、バーンズ&ストーカーの言説として、確実性の高い環境には「機械的」組織が、不確実性の高い環境では「有的」組織が適していると、教科書で取り上げられるのを目にします。

「有機的組織の幻想」では、上記言説に疑問を呈しているものです。

有機的組織の幻想に対する批判

機械的組織という「働きにくい環境」が現在ではまだ存在するものの、将来にはこれが少なくなり、より主体的に参加できる組織構造である有機的組織が増えていく、というある種の楽観論が暗黙のうちにわれわれの思考に入り込んでいる可能性がある。実務家も経営学者も、有機的組織の幻想にとらわれている可能性がある。
しかし、もちろん、そのような有機的組織の幻想に対する批判もアカデミックな組織研究の領域では古くから数多く生み出されてきている。大きく分類すると、この種の議論に対する批判は2つのカテゴリーに分けることができる。

①柔軟性の源泉としてのルーティンー官僚制の中核的な特徴であるルーティン(標準化・公式化された行動の連鎖)が、必ずしも硬直化へとつながるのではないという指摘
②持続する官僚制ー長期にわたって機械的組織の特徴は消えていっている傾向が見られないという指摘

同著.p.11

①については、「標準化がなければプロセスを改善できない」ということ。
②については、「近代社会の経済システムを支える中核的な部分には機械的組織、とりわけ肥大化していない、合理的で無駄のない機械的組織がその組織の基盤として残り続けること」を述べています。

これらの知見をもとに、ヘイルズは、近年の組織変化の結果として生まれてきた有効な組織構造は有機的組織ではなく、ビュロクラシ―・ライト(bureaucracy lite)だという。ビュロクラシ―・ライトは、分業のやり方を職能別から事業別へ切り替えていたとしても、ルールを活用し、ヒエラルキーを通じたアカウンタビリティの確保を行う、という部分はこれまでの官僚制と変わらない。ただ、ルールがルールそのものとして尊重されているのではなく、結果に明確に焦点をあわせるという点で、逆機能的な官僚制とは異なっているだけである。なおヘイルズは、ルールのためのルールが多数存在する無駄の多い官僚制をビュロクラシ―・マックス(bureaucracy max)と呼んで対比している。ヘイルズによれば、バーンズ&ストーカーの研究以来多くの研究者が主張してきた有機的な内部ネットワーク型の組織あるいはポスト官僚制組織は非常に少数の例外的な組織の観察から語られたものであるか、あるいは単に未来予想として語られてきただけである。

同著 p.15-16

構造ではなく人の問題

ビュロクラシ―・ライトという考え方は、「組織デザイン」(著.沼上幹、日経文庫)でまとめられているので、参考として頂ければ幸いです。

「組織デザイン」より

この「組織デザイン」においても、『「最新の組織デザイン」という幻想』という箇所があり、似た議論が展開されています。

たとえばスピーディーな組織、あるいは新しい言い方をすれば、アジャイル(agile:敏捷)な組織を作るために、タテのヒエラルキーを破壊して、ヨコの直接折衝を促進しなければならない、という見解がしばしば組織論では登場する。有機的組織とかホロンとかフラットな組織など、言い方はその都度変わるが、組織をめぐる議論では常にこの基本テーマが流れているといっても過言ではないほど、組織をめぐる流行の言説には進歩が見られない。
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しかしながら、そのような局面でも常にヨコの直接折衝を強調し、タテのヒエラルキーを破壊すればよいというものではない。
実際、単純なヒエラルキーは、よき人材を得れば効果的である。多くの企業組織において「組織が重い」とか、「組織が遅い」という問題に直面している場合、その原因はヒエラルキーそのものにあるというよりも、むしろ、「決めるべき上司が決めてくれない」というところにあるケースが多い。

「組織デザイン」p.291-292

組織については、シンプルに設計し、重要なポジションに決断できる人材を配置する、そのために、組織の基本構造を理解することが大切ではないでしょうか。

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