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【読書ノート】組織デザインの原理原則とは?(オススメ本「組織デザイン」の紹介)

私は、組織コンサルタントとして、様々な社長とお話させて頂く中、流行っている新しい組織コンセプトを取り入れては上手くいかないことを繰り返している場面に多々遭遇します。

上手くいかない理由、それは、組織の原理原則を理解せず、新しいコンセプトに飛びつくからです。今回は、1冊の本をご紹介しながら、組織デザインの原則をお伝えするとともに、組織運営によくある疑問に答えていきます。

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今回のオススメ本「組織デザイン」の紹介

今回オススメ本は「組織デザイン」(沼上幹著、日経文庫、2004年出版)です。

『様々な経済性を求めて分業が行われる。しかし分業を行うと、各人の活動を調整、各人の努力が最終的なアウトプットにまとまるように統合しなければならない。人々の活動を調整し、最終的なアウトプットへと統合していくために多様な工夫が施される。この分業と調整の工夫が集積されたものが組織デザインである。』(p.281)

とあるように、本書は組織の特徴を『分業』『調整』の2つと捉えて、この2つを軸に

組織デザインの原理原則をまとめた本となっています。組織に関する書籍として名著だと思います。

要約については、簡単に以下のツリーでまとめてみました。

【「組織デザイン」要約ツリー図】

今回はこの本の中の内容を踏まえて、組織デザインの原理原則をお伝え、組織運営でよくある質問に答えていきます。

「分業」と「調整」って何?

組織とは、一人の人間の努力では達成できないような目標を達成するため、その目標に至るための役割を分解して、分解したものを調整し、目標達成を実現するものです。

本書の中で、組織デザインの基本要素である「分業」と「調整」は以下のように定義されています。

分業とは・・・

役割が分けられ、それぞれの役割を分けることで、たとえば専門性を発揮させるなど、何らかのメリットを追求している。

分業のタイプは、垂直分業・水平分業・機能別分業・並行分業の4タイプ

調整とは・・・

分業の一部ずつを担っている人々の活動が、時間的・空間的に調整され、多数の人々の活動が、あたかも一つの全体であるかのように連動して動くようになっている(あるいは、そうなろうと努力している)。

調整の基本的な手段は、大きく分けると、標準化・ヒエラルキー・環境マネジメント・スラック資源活用・水平関係の設定、の5つ。

「調整」とは、簡単に言えば、『事前の取り決めをしっかりしましょう(標準化)』ということと、『事前の取り決めでは対応できない例外事象が発生したときの問題解決の仕組を作りましょう(ヒエラルキー:上司)』が主要手段となります。

すなわち分業と調整とは、各人役割を決めて、ズレないよう事前調整し、事前調整できないことがあれば、対応する仕組みを作っておきましょう、というものです。

この「分業」と「調整」という2つの観点で見ると、組織運営の疑問に的確に答えることができます。

ここからは、本書を踏まえて、以下のよくある組織の質問にこの「分業と調整」を軸に答えていきます。

1. 組織文化って必要ですか?
2. 上司って必要ですか?
3. フラットな組織ってどうやったら作れるの?
4. 組織を作るってどこから始めればいいの?

組織文化って必要ですか?

「採用するにあたってカルチャーフィットって重要ですよね?」
「ミッション・ビジョン・バリューで組織文化を作り従業員意識を自走させたい!」
「組織文化、理念、組織の目的って重要ですよね!」

このような考え、社長はお持ちではありませんか?

結論、「組織文化」だけでは、組織はよくなりません。

ミッション・ビジョン・バリューを作り、これが記載されたカードを携帯したり、毎日唱和したり、ミッション・ビジョン・バリューに基づく行動を評価する。

このような取り組み自体は、否定されるものではありませんが、働く人の活動を統合・調整する上では、これだけでは不十分です。

なぜなら、同じような価値観の人が、仮に集まったとしても、仕事のやり方が各人でバラバラであったり、個々人の目指すべき目標が定まっていなければ、組織として成果は上がらないからです。

「標準化」とは、事前の取り決めにより認識のズレをなくすことですが、

① 手順(処理プロセス=スループット)をルール(マニュアル)で揃える

② ルールに固執すると組織ゴールから遠ざかる可能性があるため、到達目標を規定する(アウトプット)

③ ①②に加えて更にズレをなくすため類似の思考法、行動様式を身に着けさせる(インプット)。

この3つが揃って成立します。

図3-1 インプット・スループット・アウトプット(p.93 一部加筆)

スループット(処理プロセス)・アウトプット(目標設定)・インプット(人材の質)、この3つが、それぞれの役割に沿った形で標準化されることで、組織の成果は最大化します。

組織文化の浸透は、インプット(人材の質)の標準化に該当します。

環境の変化が小さい場合は①が重視され、環境の変化が著しく不確実な部分への対応を促すためには、③が重視される等、調整が必要ではありますが、いずれか1つではなく、ルール、目標設定、人材の質(組織文化)を組み合わせて、組織の標準化を実現することが重要です。

上司って必要ですか?

「上司って何でいるの?」
「上司なんていなくても、各人で話し合って判断すればいいのでは?」

このような質問、社長はお持ちではありませんか?

結論、「上司」は、必要です。

スループット(処理プロセス)・アウトプット(目標設定)・インプット(人材の質)の3つが、それぞれの役割に沿った形で標準化されれば、組織が行う作業はスムーズになりますが、予想外の事態が発生した場合、標準化では対応できない事態に陥ります。

この標準化では対応できない事態にどのように対応すべきかは、「決めなければならない人」(上司)を作り、決めて動くことです。

組織の調整機能は、事前に調整できることについては「標準化」で調整し、事前に調整できないイレギュラーなことについては、「上司」が調整することで、組織内のズレをなくしていくのです。

予想外の事態が発生した時は、メンバー同士が話し合って決めればいいと考える方もいるかもしれませんが、組織内の人数が増えるに従って話し合いでのメンバー間のコミュニケーションルートが増大するため解決が難しくなります。

よって、上司が予想外の事態で意思決定する流れについては、非常に理に適った方法であると言えます。

標準化による従業員間の認識のズレをなくし、標準化で対応できないイレギュラーな事態には上司が決めて対応する、これが組織における「調整」の原則になります。

フラットな組織ってどうやったら作れるの?

「従業員一人一人が自走できるフラットな組織が作りたいんです。」
「フラットで風通しがよい組織の方が、ピラミッド型より良くないですか?」

このような質問、社長はお持ちではありませんか?

フラットな組織を階層構造が低い組織だと考えた場合、「標準化」を強化するか、「上司(ヒエラルキー)」を強化するか、いずれかの方法で、階層構造を低くすることができます。

具体的な方法は以下の3つです。

  1. 組織メンバーの知識・熟練水準を高める

  2.  標準化を進める

  3.  管理職の能力を開発する

1.については、メンバー層の能力や経験値を高め、予想外の事態に対応させることで、上司の負担を減らし、管理範囲を広げる方法、

2.については、マニュアル化を進めて定型的な作業を強化することでリーダーの管理範囲を広げる方法、

3.については管理者の能力を高めて、一人で多くの部下を管理できるようになることで管理範囲を広げる方法、

です。

一般的にフラットな組織を作る場合、①をイメージされる経営者の方が多いですが、これは、分業を明確にし、標準化(処理プロセス・目標設定・人材の質)したその先に発生するものなので、社長の管理領域を超える中で、分業不明確、標準化未成熟な組織が、①を選択することには無理があります。

大企業からスピンアウトして起業される社長の中には、以前所属していた階層組織における不自由さから、フラットな組織を目指す方がいます。

階層構造を低くするというフラット化は可能ですが、これは分業と標準化のその先に、段階的に変化していくものであって、当初からフラットを選択できるものではないことは念頭において組織デザインをしてください。

組織を作るってどこから始めればいいの?

「結局、組織を作る上で何が重要なのでしょうか?」
「組織作り、具体的に何から始めればいいのでしょうか?」

結局、社長が行きつく質問は、これになるのではないでしょうか?

本書の内容をあらためて要約すると、

① 組織の特徴は、「分業」と「調整」。目標達成のため役割を分割し、統合するのが組織

② 分業とは役割分担の明確化

③ 調整は「ルール」「目標設定」「人材の質」で標準化し、不測の事態については上司(ヒエラルキー)が解決することで実践される。

④ 分業と調整の多様な手段を都度状況にあわせて組み合わせていく。

という流れです。

上記が組織デザインの原理原則ですので、特に②③を組織図、役割定義表、ルール、目標管理(評価制度)等を用いて「明確に」描いていくことが求められます。

しかしながら、1点、本書であまり触れられていませんが、組織作りをする際、最も重要なポイントであり、現場での組織運営時に苦慮されるポイントがあります。

それは、

『組織が市場よりもスムーズに調整活動を成し遂げることができる理由は、上司の命令がほぼ「自動的」に受容され、遂行されるところにある。部下たちが、命令を受けるたびに、「今回の命令は自分にとって得か損か」と考えていては、組織はスムーズに動くはずがない』(p.252)

の実現です。

「分業」と「調整」のうち、「分業」(役割分担の明確化)は、役割を言葉で明確にまとめることができれば形は整います。

しかし、「調整」において、「会社のルールに従わない」「目標を設定しても目指さない」「上司の指示に従わない」となれば、そもそも「調整」することができません。

「調整」が機能するための前提条件を組織内に構築することが必要です。

本書では記載がありませんが、『上司の命令がほぼ「自動的」に受容され、遂行される』組織状態をいかに構築していくことが、組織作りの第一歩、始まり、となります。

また、本書は、組織デザインを静的なものとして描いていますが、実際の組織運営においては、組織が持つ経験値(蓄積されたルール)によって、不測の事態の領域が変わりますし、不測の事態を上司が「標準化」(ルール、目標設定、人材育成)するための動的な仕組み作りも必要不可欠です。

最後に

本書にある組織デザインの原理原則を経営層の皆さんが知識として持って頂くことは、世間の組織にまつわる流行り廃りに流されずに組織運営を行う上で極めて有益なことだと考えます。是非、「組織デザイン」(沼上幹著、日経文庫、950円(税別))ご一読下さい。


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