真紅

 一瞬だった。
僕の心の林檎を齧る、
夕焼けの麓で
無造作に置かれた麦を
押し退けて駆けるように。

後ろでこっそり森林が爆ぜ
黒く濡れた髪の揺蕩う様の
僅かに残る少年の夏。
いじらしく、粛々と
赤い風船が笑うように。

三日月の隠れた欠片を
脳と空気で補うように
DNAの相補性のように
君の心の林檎を齧る、
僕らは互いに片翼なんだろう

半分齧られた林檎には
無数の穴が空いていて
不純であったのを知った。
僕の心の林檎を齧る、
まるで飢えた飛蝗のように。

本物の、真紅の林檎を、
君に食べさせたくて
君の林檎が目に入る、
すきま風が僕の髪を撫でる
無数の瞳が僕を見ている。

大きな一口、
君の心の林檎を齧る。
林檎、林檎、君は林檎。
林檎、林檎、僕も林檎。
僕の心の林檎を齧る。

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