空席

夕焼けに向かって振り投げたサンダルは
あの日を境に帰ってこなかった
雨ばかり続く、服の重たくなる毎日
僕を傍目に、若葉の占領する空気は膨らむ。
そうなればなるほど地球は健康になるんだよと、
きっと環境を知らないバカな教師はいった
人間の都合で歪めたものを、
人間の考えた言い訳でどうにか出来るものか
自然の力すらも、人間によるものならば
世界は嘘と偽と幸せで出来ていた
それを知らない人は毎日笑う
だから君は毎日泣いた
日が暮れても、雨でも晴れでも泣いた

いつまでも、授業のプールの匂いが
声と匂いの分岐点にへばりついて
鼻を噛んでみてもそこにあった。
蜘蛛の巣を丸めて、綿あめだと言った彼に
「多くの虫の命を救った」という驕りが
ないと言えるか。
小さな犠牲の上に、新たな犠牲は積まれる
彼は蝶が好きなだけなんだ。

水溜まりと桜には
春と夏が一緒に住んでいて、
僕は花が好きなんだ、とぼやくと
「それは差別だよ。きっと僕らは、
この世の何もかもを、分け隔てなく
愛さなくてはならないだろうから。」
なんて君は言った
そんな君も、自分だけは愛せなかったのか。
僕らは神ではないことと、
差別はただの
好き嫌いということしか分からない
何も知らない大人たちも、昔は僕らと同じなんだ。
僕らも大人になったら、何も知らない、
何も見えない、鈍感な人になる。
きっとそれが成長ということで、
海の潮流のように繋がって
ここだけ止めようなんて自我は無い
存在しえないんだ。

あぁ…!例え僕が鳥になったって
どの空を飛ぼう、とかどの虫食べる、とか
悩んで悩んで楽しく生きられないんだろうな。

直射日光で熱された髪が、
それより熱い風にたなびいた。
風になった誰かがどこへ行こうか
悩み抜いた結果、僕の髪を揺らした
そう思うとまた明日に進める気がした。
燕は高い空を飛んでいる。
明日も晴れるだろう。

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