矢吹 透

雑文家。幻冬舎plus「美しい暮らし」。 「Bistro TOH」主宰。

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レシピ小説「デスペラード」第1話【枝豆のペペロンチーノ】

「あらすじ」 〜那覇の片隅でテキーラ・バー「デスペラード」を経営する私。店を訪れる客や近隣の店の人々の人生や交情、私の提供する料理や酒のあれこれ〜 第1話「枝豆のペペロンチーノ」 「デスペラード」は那覇・牧志の片隅にあるテキーラ・バーである。 十五坪の店内にはカウンターが七席と四人掛けのテーブルが二つある。元々はスペインバルだったこの店を古くからの知人である女性から私は借り受けている。 朝子さんは東京で長くグラフィック・デザイナーとして働いた後、那覇へと移り住みスペインバ

    • 急な来客をしのぐおもてなしのライフハック

      急な来客でお茶うけやおもてなしの用意が何もない時、なんとかしのぐ我が家のライフハック。 まずお盆か大きめの平皿を用意します。 その上に小皿やお猪口を並べます。 ご家庭の冷蔵庫を開くときっと何かが見つかります。 常備菜だとか漬物だとかチーズだとかカマボコの切れ端だとか。 本当にちょこっとしたものでよいのです。 小皿やお猪口にそういうあれこれを少しずつ盛ります。 一個一個はたいしたものではなくても、数の勝負です。 トップ画像の盛り合わせは漬物とチーズだけ。 そんな日もあ

      • 山椒まみれの豚しゃぶ鍋

        山椒の季節ですね。 花山椒から始まり、葉山椒が出て、実山椒へと続く。 花山椒は貴重で高価なものです。 花山椒を使って牛鍋を作ると絶品なのだそうですが、予約をして取り寄せなければ、フレッシュな花山椒に出会うことはなかなか難しいのではないでしょうか。 花山椒の牛鍋をいつか食してみたいものですが、なかなかめぐり会えない一品。 先日、スーパーで葉山椒を見かけ、閃きました。 我が家では例年、実山椒が出てくると大量に仕入れ、あく抜きを済ませ、小分けにして冷凍保存しています。 葉山椒と

        • 張碧勇の憂鬱(第12話・最終話)

          タバサのことはアダムさんが引き取ってくれると言った。

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        レシピ小説「デスペラード」第1話【枝豆のペペロンチーノ】

          張碧勇の憂鬱(第11話)

          痛み止めや保冷剤で散らして誤魔化していたせいで結局、翔くんの盲腸は腫れてぱんぱんになって最後は破裂した。

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          張碧勇の憂鬱(第11話)

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          張碧勇の憂鬱(第10話)

          翔くんはマッサージ師になりたいと言って、鍼灸の専門学校に通い始めた。 僕にはまだなりたいものがなかった。僕はいつの間にか二十五歳になっていた。秋が来たら司法修習を始めようかなどとぼんやりと考えていた。 ヒロシは夜間のビル清掃の仕事を始めた。人のいないしんとした夜のビルで黙々と機械を操作し、床を磨きあげていく仕事は自分に向いているとヒロシは言った。

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          張碧勇の憂鬱(第10話)

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          張碧勇の憂鬱(第9話)

          ある日、翔くんが男の子を拾ってきた。

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          張碧勇の憂鬱(第9話)

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          張碧勇の憂鬱(第8話)

          ミュンヘンから来たというそのドイツ人はど変態だった。

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          張碧勇の憂鬱(第8話)

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          張碧勇の憂鬱(第7話)

          ジョニー・王から提案された新しいビジネスに翔くんの心は動いていた。 ジョニーは上海をベースに高級娼夫を派遣する裏ビジネスを始めていた。

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          張碧勇の憂鬱(第7話)

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          張碧勇の憂鬱(第6話)

          僕は会社から受け取った一千万で翔くんのマンションの近くにもっと広い部屋を借りて、翔くんと一緒に暮らすことにした。僕らはシンガプーラの仔猫を飼い、タバサという名前を付けた。

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          張碧勇の憂鬱(第6話)

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          張碧勇の憂鬱(第5話)

          僕はそれから、二度とGOGOの仕事を受けなかった。アダムさんや他のさまざまなオーガナイザーさんが僕にオファーをくれたけれど、すべて丁重に固辞した。自分の持つその才能のような何かのドアは開いてはいけないものだと僕は感じた。ドアの向こうにはきっと見てはいけない風景が広がっている。その景色は、もし僕が一生見ずに生きていくことができるのであれば、見ないままでいる方がいいものだと僕の本能が訴えかけていた。

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          張碧勇の憂鬱(第5話)

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          張碧勇の憂鬱(第4話)

          翔くんを通じて僕はアダムさんと知り合った。 アダムさんはオーストラリア人の金持ちのおじさんで三ヶ月に一度、歌舞伎町の大箱のクラブで開かれるゲイナイト「Muscle Ball」のオーガナイザーだ。 アダムさんは僕を気に入ってくれて、次のパーティでGOGOボーイをやらないかと誘ってくれた。それがきっかけで僕は体を鍛えることにした。僕はワークアウトがあまり好きじゃない。誰かに見せるための筋肉を作ろうとワークアウトに精を出すというのはなんだか虚しいことのような気がずっとしていた。僕は

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          張碧勇の憂鬱(第4話)

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          張碧勇の憂鬱(第3話)

          一緒に二丁目に遊びに行って僕には初めて翔くんがスターだということがわかった。道行く人たちが次々に翔くんに挨拶する。テレビで見かけるドラァグクィーンさんや人気のGOGOボーイたちが皆、翔くんの姿が目に入ると飛んでくる。ポルノショップには翔くんのAVの大きなポスターが貼ってあり、棚には出演作品がずらっと並べられていた。

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          張碧勇の憂鬱(第3話)

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          張碧勇の憂鬱(第2話)

          土曜日の朝だった。新宿三丁目の駅から僕は始発電車に乗った。まだ空いた車内の座席に腰を下ろして僕はコンビニで買ったアクエリアスを飲んだ。僕と同時に電車に乗ってきた若い男が向かいの座席に座った。彼は僕と同じくらいの年齢に見えた。ドルガバのジャケットを着ているのがわかった。Supremeのバックパックを膝の上で抱えていた。間違いなくゲイだろうと僕は思った。イケメンだなと思った。 僕が彼を見ると彼も僕を見た。僕たちの視線が合った。そしてどちらも視線を逸らそうとしなかった。 どのくらい

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          張碧勇の憂鬱(第2話)

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          張碧勇の憂鬱(第1話)

          その日、北京は曇り空だった。天候のせいなのかスモッグのせいなのかはよくわからなかった。 父は専属運転手つきの紅旗(ホンチー)で僕を空港まで送ってくれた。 党の第三書記である父は四十を越えて出来た一人息子の僕を溺愛している。 家には住み込みの手伝いがいるのにも関わらず、父は毎日昼には帰宅して僕の昼ご飯を作った。下放で青春期を過ごした福建省で父は料理を身につけた。 月曜朝の高速公路は渋滞していた。一向に進まない車中で僕はさっきから目に映る窓外の風景が一生の見納めになるかもしれない

          張碧勇の憂鬱(第1話)

          恐い夢を見た

          僕はとあるスナックで飲んでいた。 店には客は僕一人。 顔見知りの初老のマスターが一人でやっている店で、マスターはさっきからまだ娘が帰って来ない、と僕に話している。 もうとっくに帰って来ているはずの時間なのに帰って来ない。 娘は最近、二人組のヘンな男たちに絡まれていて、何かあったのではないかと心配している。 大丈夫ですよ、きっともうすぐ帰って来ますよ、と僕はマスターに言う。 そうですよね、何らかの理由できっと連絡できないでいるだけですよね。 そんな会話を交わしながら僕は一人で酒

          恐い夢を見た