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東京大学2015年国語第4問 『ある風来猫の短い生涯について』藤原新也

 第4問にしては、身近でわかりやすい題材の問題文である。設問もおおむね下線部周辺の内容を要約させるものであり、どう理解するか、どう解答を作成するか途方に暮れるというものではない。それだけに、なるべく多くの要素を要領よく拾いあげ、わかりやすい解答をつくることが求められると考えられる。

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(一)「なにか悠久の安堵感のようなものに打たれる」(傍線部ア)とあるが、どういうことか、説明せよ。
 第2段落に、「このあたりの猫はまだ野生の掟や本能のようなものが残って」いるとあり、親猫については「ある一定の時期が来ると、とつぜん親が子供が甘えるのを拒否しはじめる。それでもまだ猫なで声で体をすりよせてきたりすると、威嚇してときには手でひっぱたく」とある。
 子猫は、「そのような過程を経て徐々に子は親のもとを離れなければならないのだという自覚が生まれる」ため、「目つきも姿勢も急に大人っぽくなって、その視線が内にでなく外に向けられはじめる。それから何日かのちのこと、不意に姿を消している」とある。
 これらのことについて、傍線部の直後で「見事な親離れだと思う。親も見事であれば子も見事である。子離れ、親離れのうまくいかない人間に見せてやりたい」としている。
 また、野良猫について、第4段落では「これらの猫は都会の猫と違って自然に一体化したかたちで彼らの世界で自立している」とある。
 以上のことから、「一定の時期が来ると野生の掟に従って見事に親離れ、子離れする猫の、自然と一体化し自立している様子に頼もしさと感銘を覚えるということ。」(65字)という解答例ができる。

(二)「死ぬべき猫を生かしてしまったのだ」(傍線部イ)とあるが、どういうことか、説明せよ。
 要約問題といえるが、対象範囲がかなり広い。第4段落の「それ以降私は野良猫には餌をやらないことにしている」から、第11段落の「そのまま家に居着いてしまった」と「病猫につい同情してしまった」までの要所をまとめる必要がある。以下、要点を列挙すると、
 第4段落「それ以降私は野良猫には餌をやらないことにしている」
 第8段落「この猫が盟の水を飲んでいたわけだが、飲んでから、四、五分もたったときのことである。七転八倒で悶えはじめた」
 第9段落「ひょっとしたらこの植物もアルカロイド系の毒を含んでいるのではないか。私は猫の苦しむ様子をみながら、そのようなことを思いめぐらし、間接的にその苦しみを私が与えたような気持ちに陥った」
 第10段落「そのような経緯で私はつい猫を家に入れてしまった」「猫がぐったりしたとき、私は洗面器の中に布を敷き、それを抱いて寝かせた」「せめて虫の息の間だけでも快適にさせてやりたかった」
 第11段落「再び息を吹き返した」「そのまま家に居着いてしまった」「病猫につい同情してしまった」
 以上をまとめると、「餌をやらないはずの野良猫を、間接的にとはいえ死にかけさせた自責の念と同情から、家に入れて介抱し、回復後も居着かせてしまったということ。」(67字)という解答例ができる。

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