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今月読んだ本まとめ/5月編

家にいる時間がどうしたって多くなっているので大学生ぶりくらいに本を読む時間が多くなっています。今月はなかなかに良い読書ができたと思ったので一部ですが、ひとつの軸に沿って今月読んだ本の紹介をしておきたいと思います。

世の中キレイゴトを一方的に言う人が山ほどいます。しかし、「正しい」答えを知ってるっていうのは当たり前なんですね、大人なら。そして社会人ならその「正しいこと」をどう実行するかを問われます。

環境破壊はいけない、貧困問題は解決しないといけない、差別はいけない…。

こんなことは当たり前なんですね。どう社会を前に進めるか、改善するのか現実と折り合いをつけるのかが問われるわけです。

そこで、1冊目、小説「ゲームの王国」。

SF小説なんですが、ほとんどSFっぽくないです。舞台はポル・ポトらが実権を握っていたクメール・ルージュ時代のカンボジアです。フィクションですが全体の流れは史実通りっぽいです。

秘密警察、恐怖政治、テロ、強制労働、虐殺など100万人以上の生命を奪い、去りあらゆる不条理がまかり通っていた世界。

主人公は少女と少年です。いろんな読み方ができると思いますが、ぼくにとっては政治の本でした。

タイトルのゲームの王国に沿うと、” 同じゲームをしていてルールを守らない人に勝つにはどうしたら良いか ” 。公平、公正な選挙と謳いながら、既得権の人に不利な言論は封じ、汚職と賄賂がはびこる。そんな世界で、クリーンな世界をつくるためには、どうしたら良いのか、どうしたら勝てるのか、自分も悪事に加担して自分がトップになったら一掃するか、清いままでいけるのか、清濁併せ呑むのか、相手のルールにどこまで従う必要があるのか、色んな事が問われます。

「一度だけポル・ポトと話したことがあります」と言った。
「時間がなくて、その話を聞かされて終わりでした。彼はルール違反をなくすために、ルール違反自体を原理的に不可能にしたんです。私は彼が概ね間違っていたと確信していますが、その考えだけは正しいと思っています。」
ルール違反をするなと命令するのではなく、そもそも違反ができない状態にするわけだ

恐怖政治というものがどういうものなのか。正しいことをしようとしているのに世間の理解を得ることの難しさなど追体験できます。

何も知らなければ勇敢でいられる。火の熱さを知らなければ焚き火に手を入れることができる。死の恐怖を知らなければ崖から飛び降りることができる。前進するということは、遠くの光を見つけることではない。どれだけ前進しても、暗闇の向こうに光が見えることはない。前進するということは、暗闇の向こうに何かがあると知ることだ。何か自分の知らない空間がある。それを知る。
 そしてそれがすべてだ。
これから君は、誰かを愛するだろう。もしかしたら、今も誰かを深く愛しているかもしれない。でも君は、君の人生において、誰かひとり選ばなければいけないんだ。目の前の相手は、はたして、『運命』だろうか。この後の人生で、より運命的な出会いをするのだろうか。決断は一度しかできない。

単純に物語としてもおもしろいのでお勧めです。


カンボジアの本を読むと、じゃあ共産主義ってなんだったんだろう、どうして主に途上国でもてはやされたんだろうとか、ベトナムってどんな感じだったんだろうと思ったので手に取ったのが、小説「シンパサイザー」。著者は幼少の頃にアメリカへ渡ったベトナム難民で、ベトナム系アメリカ人。つまり本書は、ベトナム人が見たベトナム戦争。

『地獄の黙示録』や『プラトーン』といったベトナム戦争映画を観ていて、ベトナム人が殺されると、アメリカ人の観客が喝采する。しかし、わたしは、自分が殺される側の人間だと意識せずにはいられなかった。こうした映画で描かれるベトナムは、両親から聞くベトナムの話とかなり違うように思われた。ベトナム戦争の実態をベトナム人側から描きたい。

著者はインタビューでこのように答えているんですが、これだけで涙もろいぼくはウルウルきます。

主人公は南ベトナムの秘密警察に潜入した北ベトナムのスパイ。一応ミステリーなのでネタバレはしたくないので多くは語りませんが、共産主義的価値観からみた資本主義、資本主義的価値観からみた共産主義など、いろんな相対する概念を行き来します。

本書を読んで、ベトナムがなぜ共産主義に傾倒していったのか理解できた気がしました。

しかし、ぼくが本書で最も感銘を受けたのはアイデンティティの所在でした。作中で日系人のキャラクターがでてきます。

私を面接したとき、彼は私が日本語を話すかどうか訊ねたわ。私がガーデナ生まれですって言ったら、君はニセイなんだね、ですって。その言葉を知ってるってことで、私のことがよくわかってると言わんばかり。君は第二世代なのに、自分の文化をすっかり忘れたんだ、ミズ・モリ。君のイッセイのご両親は自分の文化を大切にしたのに。君は日本語を学びたくはないのかい?ニッポンを訪ねたくないの? 長いことわだかまりがあったの。どうして日本語を学びたくないのだろう、どうして日本語をすでに話していないのだろう、どうして東京よりもパリやイスタンブールやバルセロナに行きたいのだろうって考えていた。でも、それからこう思ったわ。”どうでもいいじゃない?” ジョン・F・ケネディにゲール語をしゃべりますかって訊く人がいるかしら? ダブリンを訪問しますかとか、毎晩ポテトを食べますかとか、レプラコーンの絵を集めていますか、とか。なのにどうして私たちは先祖の文化を忘れちゃいけないわけ? 私はここで生まれたんだから、私の文化はここにあるんじゃないの? 

アメリカいろんな賞を受賞している通り、文学的にも傑作です。


結構、頭つかう話が多かったので軽く読める短編集が良いな思っていて、たまたま今年の祇園祭、宵山は夕方以降の行事は中止するというのを見たのもあって、京都懐かしいなと思って京都を舞台にした小説をと眺めていたら、宵山万華鏡を見つけ良さげだったので。

著者、森見登美彦さんの作品は初めてです。しかしアニメで、京都のタヌキの話の有頂天家族が好きだったこともあり読み始めたのですが、良かったです。なんか世にも奇妙な物語的で。世界観的には、恒川光太郎さんの夜市ぽかったです。

閑話休題…。

面白そうだと思って買っていたものの積読にしていた本も読みました。

タイトルは下記の通り、「ネットは社会を分断しない

インターネットというのは、自分で情報を選んで摂取する能動的なものだから、自分の好きな情報ばかりに接することによって反対意見に触れることはなくなって、考え方が先鋭化していて分断が生まれてしまっている…。

こういう話をいろんなところから聞きます。TwitterやFacebookで、極端な意見が注目を集めてTLに流れてきたりします。

もう我々はわかり合えないんだ…。

はたして、それは本当だろうかと10万人規模の調査をしたのが本書です。

で、結論もタイトル通りコンクルージョンファースト、『分断しない』。

それどころか、実はネットで政治的な意見に接している人は偏った意見ばかり見ているのではなく、接する意見のうち約4割は反対意見であるということがデータから見えてきます。

ここから何が言えるかというと、ネットで思想が先鋭化して分断されているのではなく、むしろ反対派の人の意見に接することにより穏健化しているという傾向が見えると本書では指摘しています。これは日本に限らず欧米でも同様の結果が得られているのだとか。

では、なぜ極端な思想な意見がネットで目立つのか、社会は分断しているように思うのか?それは、ぜひ本書を読んでいっしょに考えていただきたいです。

人間は一方的な情報には警戒心をいだき、やすやすとはのらない。自分の意見と反対側の意見を並列して比べ、そのうえで自分で考えて納得した時にだけ人は意見を変える。

結論だけ知りたいならタイトル通りなので読まなくてよいですが、本書は実証分析家の方が書いた本なので、どういう意図をもってアンケートを取ったのか、データを集めたのか、集めたデータをどう分析したのか、どう解釈したのかというデータ分析の本でもあるんですね。

こういうふうにデータを抜き出すんだとか、こうやってデータから特徴を抜き出すのかととても勉強になります。

非常に良いです。希望が持てます。


で、ちょっと変わり種で、おもしろそうなマンガがでていたので読みました。

タイトルは下記の通り、紛争でしたら八田まで

紛争解決、平和構築に興味あるなら読んでおいて損はないかもしれません。こんなふうな仕事するんだ、とイメージできるかもしれません。1巻ではミャンマーの民族問題とタンザニアの魔女狩りを扱っています。

監修で東京海上日動リスクコンサルティングの上級主任研究員の人が入っているのできちんとしてるし、脚色はあっても大枠は現実を反映しているのだろうと思います。

*****

来月もたくさん紹介できるように黙々と本を読めればと思います。

誰かの本選びの参考になれば幸いです。

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