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ソーシャルビジネスがやりたい人におすすめの本

すごく良い本を見つけました。メーカーの楽しいところも苦しいところも詰まった本です。ぼくは前職がメーカーだったので大変共感するとともにやっぱりメーカー楽しいよなぁああと興奮しました。そして、この本にでてくる会社が儲かればもうかるほど社会に良いインパクトを与えることができると社会起業的でもあります。

さっそく紹介しましょう。

競合だらけのアメリカの飲料業界に飛び込んだ紅茶「Honest Tea (オネスト ティー)」(日本未上陸)の立ち上げ、全米トップブランドへの成長、会社売却までをノンフィクションで描いたビジネス漫画。(そう、マンガなので読み易い!)

インドの環境に優しい農園や南アの農業組合、ネイティブアメリカンなどから茶の原材料を仕入れることで、彼らの土地の環境を守ったり彼らの生活を助けるという使命を掲げ、同時にアメリカ人の健康も改善しようとしています。

健康、起業、環境に関心があり社会的な使命のある事業をしたいと望んでいたセスと自分の理論を証明したいビジネススクールの教授バリーが手を組み、厳選茶葉と天然水で煮だして甘さ控えめにしたボトル入り紅茶事業を始めます。起業当時、アメリカの飲料は甘ったるく人工保存料の多い不健康な飲み物ばかりでした。

「茶葉本来の味を味わいたい人もいるはず!」と、これは市場調査では浮かび上がってこない市場の空白地帯の商品で、目立った商品も大手もいないし勝機はあると踏みます。しかし前途は多難です。飲料業界では毎年300種類の新ブランドが生まれ、1,000種類を超える商品が発売されます。生き残るのはわずかです。

なぜなら、商品数は増えても商品が陳列される棚は限られているからです。コンビニをイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。コンビニの棚には毎日のように新商品が並べられ売れ行きが良くなければ容赦なく棚から外されます。

そんな業界に業界素人が、本物志向、健康志向というキーワードで勝負を挑むのですから。これは後にオーガニック、フェアトレードと昇華されていくことになるのですが、ビジネス面でいうと原価が上がることになるので販売価格も上がります。小売で単価が高いのは結構な足かせになります。

メーカーで働いたことがなければイメージしにくいかもしれませんが、メーカーの場合、大手の方が圧倒的に有利です。大量に生産できる方がコストが下がるので原価が落ちます。そして大手であれば、その流通網で新ブランドを全国で一斉に販売もできます。

しかし、新規参入者にとってはそんなことはできません。これはメーカーのおもしろいところでもあるんですが、例えばペットボトル飲料を新たに販売するとして、ペットボトルの原材料を仕入れないといけないし、ボトルのデザインも考えないといけないし、そのペットボトルを成型してくれる工場を探さないといけないし、パッケージも考えないといけない。レシピ通りに飲料を作ってくれる工場も探さないといけないし、在庫を置いておく倉庫も探さないといけないかもしれません。

そしてそれらはすべてコストの制約を受けます。「3,000本なら1本あたり50銭だけど、10,000本なら1本あたり35銭になりますよ」とかそんな世界です。担当者は(今の業績で10,000本も捌けるか…?在庫持てるか?)と頭を悩ませるわけです。

新しい取引先というのはまだ信頼がゼロですから取引条件も決して良いとは言えなかったと思います。その時点で、大手と同じ商品をつくっても同価格で販売できないほど原価で差がでます。ここにさらに、本物志向で茶葉を煮だすのですから原価と加工賃はアップです。

さらに、流通の問題もあります。前述の通り、スーパーなどの小売業は売れる商品を棚に並べたいので、売れるかどうかわからない商品は扱ってくれません。

環境を重視し、オーガニックな商品でフェアトレードを標榜しようと売れないと社会にインパクトは残せません。大量の商品を売りさばかないと社会的インパクトは起こせないのです

いくら高尚なことを考えていても、いくら高学歴でも、スプレッドシートで見事な業績予想を作れても、それだけでは売り上げは上がりません。

なんどもスーパーに足を運んで、汗をかいて、人間関係をつくって、やっと1ケース試しに扱ってくれる。そんな世界です。

本書は事業をやるとはどういうことかを学べるのはもちろん、どこにどれだけコストがかかって、どこに落とし穴があったりするのか、ブランディングとはどういうことかなど、非常に学びがあり感動しました。

社会起業系の本だと、だいたい創業者の半自伝的な内容だったり、理念、原体験が多く、事業について詳しく語られることはないのですが、本書は失敗談からなにまで包み隠さず載せてくれるので非常にHonestで良いです。

Honest Tea本社に掲げられているという、

Those who say it cannot be done should not interrupt the people doing it.
(無理だという人は、それを実現しようとする人の邪魔をするな)

という言葉も素敵です。


ちなみに、上記の本はアメリカの資本主義社会の中で、周りの商品と同じように不特定多数の消費者に向けて訴求して競争に勝って、市場に認められた事例ですが、そうじゃない世界もあるのでは?つまり資本主義ド真ん中で競争しなくても生き残る世界があるのでは?と特定多数の消費者に向けて商品や場を提供して成功してる事例もあります。

下記の本がそれです。

元外資系コンサルの著者が、東京とはいえ、あまり人通りの多くない場所でオープンさせたカフェが食べログで1位に。

資本主義社会は競争、競争、競争で合理的で、事業を数字で判断して、従業員も数字。人間としての温かみのない冷たい世界。当然、お客さんの顔も思い浮かびません。

事業を興している以上、利益は出さないといけない。しかし、利益を追求したい気持ちを抑え、一見遠回りに見える道を選ぶ。

コミュニケーションを大事にし、一生懸命、手間暇をかけます。そしてそれをしっかりお客さんに説明するし、時には実際に体験してもらいます。くるみの生産農家をお客さんといっしょに訪ねたりして。

著者の視点や取り組みは、持続可能な社会、コミュニティつくり、シェアリングエコノミーに興味ある人にはぜひ読んでもらいたいです。

一般に、不特定多数の、顔の見えない参加者を想定した市場では複雑な価値の交換は成り立ちにくい。それが「多くの人に普遍的に認められる価値」である必要があるからだ。結果、「お金」「金銭的価値」への収斂が進む。同じモノなら安ければ安いほど良いという具合だ。ところがこれが「私」と「あなた」のような顔の見える関係となれば必ずしもそうではなくなってくる。他の人がなんと言おうと、それが世の中の一般に受け入れられている価値でなかったとしても、「私」がそこに価値を認めるのであれば、「あなた」との間で交換が成り立つ。 (本文より)

本書を読んで、不特定多数から特定多数への移行、著者が営むカフェではクーポンやメンバーカードは作らないし、セールもやらない姿勢の考え方だけでも知ってほしいし、それについてちょっと議論したい気もします。


そもそも経済ってなんですか?という方はこちら。マンガで楽しく経済を学べる本。

アメリカ経済のことを主に言ってるんだけれど、350年の資本主義社会の歴史をわかりやすくまとめてくれてます。不況が続くのはどういうわけか、債務が生じるのはなぜなのか、などなど、経済という身近にありながらいまいちよくわからないものの実態と課題に輪郭を与えてくれます。

世の中は劇的に良くなりました。絶対的貧困はかつてないスピードで減っています。しかし、毎年経済成長してるのに、生活レベルが上がっていると感じていない人が少なからずいます。いや、多いのかもしれません。

アメリカは、資本主義は素晴らしい自由貿易は素晴らしいという政策を推し進めて、外国に開国を迫ってきたわけだけど、その背後にはそこでビジネスをしたい、利益を増やしたい事業家がいて、彼らの思うとおりに働いてくれる政治家を支援している…と言われています。中南米でも親米派の政権を支援したりして。

各地にいろんな痛みを与え、結局利益はその事業家へのみいくのかと。モノを買い叩いて安く仕入れ、高く売る。利益の大半は川下の事業家で、川上の生産者は薄利になる。健全な経済活動だろうかと。我々庶民は保険にも四苦八苦しているというのに。

いわゆる格差というやつで、富めるものがますます富んで豊かになっているけれど、その恩恵は自分たちに全然やってきていない、不公平だ、というやつ。これを r>gで実際に証明してみせたのがピケティ「21世紀の資本論」ですね。

簡単にいうと、労働によって得られるお金よりも投資によって得られるお金の方が成長率が高いので、労働者はいつまで経っても金持ちにはなれないし格差は広がりますよ、というもの。

ちょっと長くなってしまったので、詳しくは本書の中で。サブタイトルをつけるとしたら、Winner Takes All! 持たざるものから見た経済史、とかでしょうか。受け入れるかどうかはともかく、一読に値すると思います。

ちなみに経済思想史なら、

こちらもおすすめです。

これほどおもしろく経済学の偉人たちの学説や世界の見方に触れた本を他に知りません。ぼくはこの本で共産主義の考え方が理解できるようになりました。長く手元に置いておきたい1冊です。

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