ほら、この国って秘書通さないと仕事すすまないだろ?
ー あの話はね、終わったわけじゃないんだよ。ずっと承認手続きが止まっててね。ほら、この国って秘書通さないと仕事すすまないだろ?
糖尿病のプロジェクトマネージャーをやってるファン(台湾人)が、わりに急にそんなことを言いだした。
なんの話だろう。
モスティークへの旅行が流れたことをぼくが気にしてると思ってるのかなぁと思いながら「そうだね、わかるよ」と応えた。
ー 病院に椅子が必要なのは間違いないのに。ずっとお願いしてるんだけどね…
申し訳なさそうな言い方だった。そして思い出した。
そうだ、以前、たぶん2か月くらい前に視覚障害者協会に籐の椅子を病院用に発注することはできるかと言われていた件だ。
うちじゃ、籐を編んで張ることしかできないからベースになるフレーム部分の調達をどうするか考えないといけないし、時間かかるし安くはないよと伝えていた件だ。
すっかり忘れていた。律儀な人だ。
ぼくなら聞かれない限りなにも言わないかもしれない。
それはおいておいて、役所レベルでも秘書がいるんだというところにぼくは驚いた。
視覚障害者協会にも会長付きの秘書が1人いるし、オリンピック協会のジョセフ(ぼくのボス)にも2人秘書がいる。
まぁ、視覚障害者協会の秘書は実態としては総務に近いけれど。
この国ではある程度の役職の人には秘書が付くのかもしれない。
日本だと、社長秘書にはお目にかかったことはないけれど、議員秘書には何度かあるし、いっしょに仕事をしたこともある。
雑務は秘書に任せて、本人は本当に価値ある仕事にフォーカスする的な意味合いがあるのだろうと思う。決してステータスというわけではなくて。
人間が1日に意思決定できる数は限られていると心理学では言われているし、理に適っているんだと思う。
スティーブ・ジョブズが黒のタートルネックしか着なかったのも無駄な選択をしないためだし、マーク・ザッカーバーグも同じTシャツばかりなのも同じ理由でそこで消耗したくないからだろう。
で、そうなるとその役職にある人の仕事は何になるかというと意思決定のみになる。事務作業はすべて秘書がやってくれるわけだから。
それで困るのはぼくらのような承認が欲しい人。
なんだかんだで、秘書を通さないといけないケースが多い。
秘書を通さず当人と直接やりとりすると、場合によっては秘書はないがしろにされたと感じる。本人からGOサインがでても事務処理を行うのは秘書だからそこで止まってしまう。秘書を通して当人にお伺いを立て、そこからさらに秘書を通して、自分に返答が返ってくるというルールを守らないと秘書の顔が立たない。秘書のプライドが高い場合これは必須だ。
ただでさえ、なにごとにも時間がかかるこの国で間に人を挟むなんて非効率この上ないけれど、そこを無視するとさらに時間がかかる、あるいはなかったことにされかねない。
秘書との関係性とは非常にセンシティブなところだ。
どう懐柔するか。
ファンはなかなか苦労しているように見える。
重要度が高ければそこまで苦労しないんだろうけれど、病院の椅子はプライオリティが低いんだろうなぁと思う。
一方で、ぼくがやりとりしてるジョセフの秘書はどんな人かと言うと、かなり優秀な部類の人だと思う。けれど、気性が激しい。完璧主義でちょっとでも気にくわないことがあるとヒステリックに叫ぶ。
これ非常に困る。
なにかマズいことが起こらない限り普段は良い人なんだけれど、ぼくがオリンピック協会のオフィスで仕事してたときはほぼ毎日電話越しや対面で叫んでいたから、その声を隣室から聴くだけでも結構しんどかった。
ちょっとでもネガティブな報告ができないとしたらコミュニケーションコスト上がるなぁと思っていた。
この人についてはまた別の機会で詳しく話そうと思う。
なかなか興味深い人だから。
とにかく、病院から椅子の注文は当分来なさそうだなと思った。
ぼくの赴任後の初の大型の成果だと当初は期待していたんだけど、こればっかりは仕方ない。
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