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ビルゲイツの気候変動本は現状が良くまとまってて現実的なんだけど

ビルゲイツの気候変動本。なんどか積読になりつつもなんとか読破できた。

感想としては非常にフェアに書かれていて、ぼくたちが置かれている状況がどういうものか、その対策に必要なことは○○、みたいな現在最善とされている解決法を丁寧に提示してくれている。

以前読んだ環境と共産主義の本は、1章2章くらいの科学的事実について述べていることについてはなるほどと思ったのだけど、その他のことについては理想主義的に感じてリアリティーがなく、ただ「ぼくのかんがえたさいきょうのきこうへんどうたいさく」ってキレイゴト臭がすごくて、しんどさしかなかったんだけれど、本書にはそのあたりのキレイゴトはない。

平均気温は産業革命以後少なくとも1℃上がってて、このままだと2050年までにさらに1.5〜3℃、2100年までに4〜8℃上がると予測されている。これがどれほどかというと、氷河期で今より平均気温が6℃ほど低いだけ。恐竜がいた時代で今より平均4℃高いだけ。1℃の差は大きい。

平均4℃高い恐竜の時代とは、いまめちゃくちゃ寒い北極圏にワニが住んでる世界。

海水温が平均2℃上がるとサンゴ礁は死滅するし、海産物も獲れなくなって10億人以上の食糧問題になる。

これは避けなくていけない、というので世界のコンセンサスとして2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする、というのを目標にしてる。(といいつ、ある程度平均気温が上がることは避けられない前提なので、平均気温が上がった社会に対応する必要 ―豪雨災害、干ばつとか、酷暑とか― もあるとかなり現実な提言もある)

現在排出されている温室効果ガスの中で割合の多いのはエネルギー(電力)、製造業なわけだけど、この数字を落とすのは結構厳しい。コロナでみんな自粛となった2020年でさえ、空気がきれいになってすごく遠くまで景色が見れるようになっただのニュースを何度か見たけれど、それでも例年に比べて5%しか減っていない。あんなに経済にダメージを与えても5%。つまりは個人レベルで具体的に排出削減に貢献できる工夫というのはないと言える。

もっと大きな枠組みで、政策やビジネスモデル(市場)を排出削減に適した形に変えないといけない。ただ、この分野はある程度目星はつけているけれど、新しい発明とかブレークスルーが必要だと述べている。割と頻繁に、各セクション、チャプターで。単にソーラーと風力に電気を置き換えるだけれでは火力発電には勝てない、電力需要を賄えないとはっきり書いてる。

その電力どうするか問題も含めて、新たな発明やブレークスルーが必要だと書いていて、そのブレークスルーと発明を誘発するためにもどんどん投資をしないといけないと書いてる。

よく環境問題に立ち向かうために植林活動をしています、なんてのを見るけれど、もちろんそれも大事だけれど、ほんとに植林が必要なのは山火事で何ヘクタールも森林が消失したところだったり、違法伐採がされてるところだったりする。だから、日本で新たに木を植えても気候変動に貢献しているとは言い難い。

そもそも木が吸収できる二酸化炭素の量は1本あたり170kg。この量を40年かけて吸収していく。年間で4㎏ほど。世界で排出されている二酸化炭素の量は約335億トン。日本はそのうちの約3%で12.4億トン排出している。植林は貢献度はゼロではないが、ケタが違うのでもっと他のところで…という気持ちになる。(それに木は一度切られてしまうと、それまでため込んだ二酸化炭素を再び放出してしまう。)

客観的に、クリーンエネルギーにどんどん置き換えていくといっても、現状適応する技術がなくて移行期間も含めて考えると2050年までにゼロってかなり厳しいんじゃないかと思ったんだけれど、著者は楽観的で早晩新しい技術がでてくる、それらで乗り越えられると思うよと述べている。

本書の中ではかなり具体的に数値を載せてくれていたりして気候変動の現状と対策が網羅的にまとまっていて、間違いなく良書なんだけれど、それよりもむしろ、投資すれば相応のリターンが得られると当然のように信じているというか、未来に対してかなり楽観的な姿勢が、これが経済成長している国の人のマインドなのか、新しいことに挑戦する人のマインドなのかとそのマインドセットの方に驚かされた自分がいた。


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