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賃上げ余力があるのは実は中堅企業?~2024年1-3月期の法人企業統計

 昨日(6/3)、2024年1~3月期の「法人企業統計」(財務省)が公表されました。本日の日経朝刊は、法人企業統計を用いた労働分配率を算出し、大企業の賃上げ余力が大きいことを報じています。


別の定義でも大企業の労働分配率低下は顕著

 下記のnoteで書いた通り、法人企業統計を用いた労働分配率には2種類の計算方法があります。一つは日経記事が用いている、「人件費÷(人件費+経常利益+支払利息+減価償却費)」。もう一つは、法人企業統計の年報に近い、「人件費÷(人件費+営業利益)」です。近年は経常利益が営業利益を上回ることが常態化しているため、前者より後者の方が労働分配率が高めになります。
 後者の定義に従い、1980年以降の労働分配率の推移を描いたのが下図です。大企業(資本金10億円以上)の労働分配率は1980年代初頭に60%だったのに対し、2024年1~3月期(後方4期移動平均)は55.8%。日経が用いている定義と同様に、低下傾向が顕著といえます。

大企業は減収増益、中堅企業、中小企業は増収増益

 今回、公表された2024年1~3月期の大企業、中堅企業(資本金1億~10億円)、中小企業(資本金1000万~1億円)の売上高、利益、人件費などの前年同期比伸び率をまとめたのが下の表です。
 売上高は大企業のみ前年同期に比べて減少しています。利益率の向上で営業利益、経常利益は大企業、中堅企業、中小企業ともに増加していますが、大企業の伸びは中堅企業、中小企業に比べると劣ります。
 一方、従業員1人あたり給与は、従業員給与と賞与の合計額を従業員数で除して算出したものです。下の図は全産業全規模ベースの従業員1人あたり給与の前年同期比伸び率を描いたものです。ブレが大きいものの、最近は90年代初頭並みの賃上げが行われていることがうかがえます。
 規模別にみると、中小企業の賃上げ率が最も高く、大企業がそれに続きます。これらに対して、中堅企業は小さな伸びにとどまっています。人件費の伸びは最も高いのですが、従業員数の伸びも多かったためです(大企業は従業員数が減ってました)。一方で、利益の伸びを考えると、もう少し賃上げもできるようにも思えます。

売上高経常利益率の要因分解をすると…

 そこで、売上高経常利益率の前年同期差の要因分解を確認してみました。大企業は減収増益、中堅企業と中小企業は売上高の伸びを上回る経常利益の伸びだったので、売上高経常利益率は前年同期より上昇しています。
 大企業は2023年4~6月期から売上高変動比率が前年同期に比べて低下し始め、それが売上高経常利益率の上昇のけん引役になっています。純営業外収益(=経常利益-営業利益)の売上高に占める比率が上昇していることも下支えしています。その一方で、2023年7~9月期から売上高の伸びを上回る人件費の伸びを続けてきています。中小企業の売上高人件費利率も2023年10~12月期から前年同期に比べて上昇し始めています。
 こうした大企業や中小企業の動きと対照的なのが中堅企業です。直近の2024年1~3月期まで売上高人件費比率が前年同期に比べて低下しており、売上高経常利益率の上昇に寄与しているのです。売上高変動比率の低下は利益率にプラスに働いており、賃上げ余力はありそうに見えます。

今後の中堅企業の賃上げ動向に注目

 中堅企業の労働分配率は、冒頭のグラフに示した私の算出方法でも、バブル期ピークを下回ってきています。その意味でも賃上げ余力はあると思われます。
 企業規模別の従業員数は、2024年1~3月期において、大企業(691万6165人、全体の20.5%)、中堅企業(746万6217人、全体の22.1%)、中小企業(1941万1395人、全体の57.4%)です。中堅企業での賃上げは少なからず全体の賃上げに影響を与えます。今後も動向に注目していきたいと思います。

#日経COMEMO #NIKKEI

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