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GDP年率6%増、前年比で眺めてみると…~2023年4-6月期(一次速報)

 本日(8/15)、2023年4-6月期のGDP成長率が公表されました。日経電子版は、前期比年率の成長率が6%となり、コロナ禍前のピークを越えたことなどを報じています。ただ、記事中の前期比年率ベースのグラフを見ても、景気が良い方に向かっているのかどうか、今一つわかりませんね。
 本稿では、いつものように前年同期比の成長率で眺めてみたいと思います。


前年同期比で見ると、1~3月期と同じ2%成長

 下図は実質GDPの前年同期比成長率を寄与度分解したものです。これを見ると、実質GDPの前年同期比成長率は、失速した2022年10~12月期(前年同期比0.4%増)を除き、1%台後半から2%で成長してきたことが確認できます。前期比年率6%と騒がれている今期(2023年4~6月期)も、前期(2023年1~3月期)と同じ前年同期比2%成長でした。
 ただ、経済の主力エンジンと考えられる国内の民間需要の寄与度(棒グラフ・斜め線)が失速していることもわかります。民間需要の寄与度は、前期は2.2%でしたが、今期は0.6%。これは2022年10~12月期の0.8%をも下回ります。
 これをカバーしたのが弱い輸入です。前期まで輸入は前年同期に比べて増加していたため、実質GDPの前年同期比成長率にマイナス寄与していました(棒グラフ・横線)。しかし、今期は前年同期に比べて減少に転じたため実質GDP成長率にプラス寄与しました。前期のマイナス1%の寄与が今期はプラス0.4%寄与となり、これだけで実質GDPの前年同期比成長率を1.4%ポイント押し上げています。

民間需要の落ち込みの主因は個人消費

 民間需要の落ち込みの主因は民間最終消費支出(個人消費)です。実質GDPの前年同期比成長率に対する個人消費の寄与は今期はわずか0.1%。前期は1.5%も押し上げていたのが急減速しています。民間企業設備投資も減速(前期:0.9%→今期:0.5%)していますが、主因は個人消費と見て間違いないでしょう。
 下の図は民間最終消費支出の大半を占める内訳、国内家計消費支出の実質GDPの前年同期比成長率に対する寄与度を示したものです。2022年7~9月期から3四半期連続で国内家計消費支出の4つの内訳がすべてプラス寄与していたのが、今期は非耐久財が前年同期比に比べて減少しています。内閣府の資料(国内家計最終消費支出88目的分類の形態について)によると、非耐久財には食料、アルコール飲料、電気、水道などが含まれています。相次ぐ値上げで消費量を抑制していることの現れではないかと思われます。
 加えて、前期は実質GDPの前年同期比成長率を1.3%も押し上げ寄与していたサービス消費が、今期は0.7%と減速しています。

名目GDPの前年同期比成長率は5.4%へ加速

 日経の記事では、名目GDPの前期比年率成長率が12%とも報じていました。数字が大きすぎてイメージ沸きませんね(笑)。
 下図は名目GDPの前年同期比成長率を、実質GDP成長率、GDPデフレーター上昇率の寄与とともに描いたものです。名目GDPの前年同期比成長率は、前期の4%から今期は5.4%へ拡大しました。ここまでの高さは、コロナショックで急減速した2020年4~6月期の翌年、2021年4~6月期の7.3%以来です(こういう現象を前年のウラと呼んだりします)。それ以前は、現行基準で遡れる1995年1~3月期までここまでの高成長はありません。旧基準データで遡ると、1991年10~12月期の5.3%成長以来です。 

 前述したように、実質GDP成長率は前期と同じなので、今期にかけての名目GDP成長率の加速は、すべてGDPデフレーター上昇率の加速によるものと考えられます。GDPデフレーター上昇率は、下記のnoteに書かせていただいたように、国内需要、輸出、輸入のそれぞれの物価上昇の寄与で近似できます。その考え方に基づいて描いた下図をみると、前期まではマイナスに寄与していた輸入デフレーター(棒グラフ:斜め線)がプラスに寄与したことが確認できます。これは、資源価格などの下落により輸入デフレーターが下落したことを示しており、企業収益にはプラスに働きそうです。

給与上昇や雇用増への波及を期待

 これだけの名目GDP成長率の加速に対し、給与の改善はまだまだです。日本の働く人全員の給与を合計した名目雇用者報酬を、名目GDPや名目GNI(名目GDPに海外からの所得(純))で除した労働分配率は、コロナ禍やその後の景気回復過程で高止まっていた2022年までに比べて急低下しています。今期の労働分配率は名目GDPベースでは50.9%、名目GNIベースでは48%まで下がりました。今後、これが給与や雇用の増加に結び付き、今期は不振だった個人消費の回復に結び付くことを期待したいですね。

#日経COMEMO #NIKKEI

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