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「消費支出の二極化」は本当?~家計調査による確認

※実収入の月平均の金額を1桁多く表記しておりました。申し訳ございません。修正するとともに、年収換算も加筆いたしました(8月22日 16時40分)

 今朝の日経に興味深い記事が出ていました。クレジットカードによる消費支出金額を分析したもので、高所得層(年収1500万円以上)が脱デフレを見越して高額消費をしているというものです。こうしたデータは簡単に入手できるものではありませんが、「家計調査」(総務省統計局)であれば、定期収入の多寡による消費動向の違いを誰でも観察できます。記事と同じように2019年といまを比較してみましょう。

消費支出の平均は2019年水準をいまだ回復せず

 「家計調査」はすでに2023年6月分までの実績値が判明しているため、2023年1~6月平均の消費支出と2019年1~6月平均の消費支出を比較してみました。
家計調査では、消費支出のほかに、消費支出(除く住居等)も報道資料で集計・公表されています。たまにしか行われず、サンプルの影響が大きそうな、リフォーム支出(設備修繕・維持)などの「住居」、自動車の購入、贈与金や仕送り金を消費支出全体から除いたものです。本稿でも消費支出(除く住居等)を用いて、2019年と2023年を比較します。
 まず消費支出(除く住居等)の平均は、2023年1~6月期は2019年1~6月期に比べて1.5%減。2019年水準をいまだ回復できていません。値上がりが著しい食料(消費支出(除く住居用)への寄与度2.1%)、光熱水道(同1.2%)への支出は増えていますが、減っている項目も少なくありません。記事が取り上げている被服及び履物(同マイナス0.7%)、教養娯楽(同マイナス0.2%)ともに減っています。

すべての所得階層で消費支出は2019年水準を回復していない

家計調査では定期収入(勤め先収入の中で月給に相当する部分)の金額の大きさを用いて、全サンプルを5等分し、最も定期収入が少ない「五分位1」から大きい「五分位5」までの収入、消費支出などのデータを示しています。
 賞与などを含めた勤め先収入、年金収入などを含めた実収入でみると、2023年1~6月期の全平均は57.9万円、一番少ない五分位1から五分位5にかけて、実収入の平均は26.7万円、45万円、55.1万円、68万円、94.6万円となっています。年収に換算すると、全平均が695万円。五分位1(321万円)~五分位5(1136万円)となります。
 記事では高所得(1500万円以上)の消費の増加を示していますが、家計調査では一番多い所得層でも年収1136万円とそこには及びません。それを踏まえて、所得層別の消費支出を確認すると、消費支出が増えているのは真ん中の「五分位3」(1.4%増)のみとなっています。

項目別の内訳を見ると「被服及び履物」はマイナス

 消費項目別の寄与度を見ると、下記の表の通りになります。種々雑多な項目が含まれる「その他の消費支出(贈与金、仕送り金を除く)」の寄与を除いても、「定期収入五分位4」のみ2019年1~6月平均より2023年1~6月期平均の消費支出が少ないです。
 値上げの影響を大きく受けている「食料」「光熱水道」はどの所得階層もプラスの寄与となっています。逆に、記事が取り上げている「被服及び履物」はすべての所得階層でマイナスの寄与となっています。

年収1500万円以上は「高所得層」なのか?

 このように、「家計調査」を見る限り、高所得層が脱デフレを見越して消費を増やしているという姿は確認できません。ただし、上記の「定期収入五分位5」であっても実収入の平均は年収に換算しても1136万円であり、記事が「高所得層」としている1500万円には遠く及びません。「家計調査」でも、そこまで高所得な層に限定してみたら、同じ結果が得られるのかもしれません。
 一方、年収1500万円以上というのは、「民間給与実態統計調査」(国税庁)によれば、1年を通じて勤務した給与所得者の1.4%に過ぎません。男性給与所得者に限定しても2.2%です。
消費支出の二極化が始まったというよりも、余裕のある限られた超高所得層が動き出したというのが実相ではないのでしょうか?もちろん、そうした”さざ波”を捉えることがマスコミにとって重要なことは百も承知ですが…

#日経COMEMO #NIKKEI

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