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#小説
『おぼえていますか』作品概要
『おぼえていますか』
同人誌版:( https://sae-todo.booth.pm/items/520428 )
■概要
才能を与えられるとはなにか。天才である/でないとはなにか。
その問いに答えを探すため、二人のギフテッド(天才)と、一人の凡人を抱えた兄弟それぞれの軌跡を描いた作品。
才能を持たない弟・潮がその苦悩と疎外感を吐露する「ピエロ」、「傾城」と称されるまでにうつくしい音楽を奏で、
あしたの、ラプソディ・イン・ブルー
あの日潮くんが皐月(さつき)ちゃんの前で絞り出したことばを、わたしはきっと忘れることができない。潮くんはいまにも泣きそうに俯いていて、皐月ちゃんは、なにか不思議なものでも見るような瞳で彼を眺めていた。ちいさなからだとその両腕に、わたしにはほとんど読めない五線譜と音符をたくさん抱えて。三階の廊下の窓が結露していた、高校三年の冬の朝。雫は窓ガラスをなぞって落ちていったけれど、潮くんはまだ唇を噛んだま
もっとみるA列車を見送った、ぼくたちと。
「どーも、ご無沙汰してます」
祖父の七回忌の土曜日に少し遅れて親族控室に入って来た末の弟は、三年前に死んだ兄にずいぶん似てきたと渉(わたる)は内心感じていた。大学に入学したと同時に逃げるように家を出て行った潮が、こうして親族の集まりに和することは珍しいものの、ひとたび顔を見せれば持ち前の人懐こさで彼は如才なく場に溶け込んでいく。潮にとっては非常に不本意なことではあるだろうが、そういう面で彼は父や