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こぐま座アルファ星

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カクヨムで連載中の長編小説『こぐま座アルファ星』のまとめ
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2018年5月の記事一覧

第三章 - こぐま座アルファ星

 合宿に向かうバスの中は中学三年間いつも憂鬱だった、と由岐は後ろに流れていく田んぼと畑の繰り返しを眺めながら思い返していた。もっとも、二十二人乗りのマイクロバスをひとりで二席占領できるこの部の人数は中学の頃の記憶にはそぐわない。後ろから二列目の窓際に座る由岐のちょうど反対側では拓斗が窓に寄りかかって眠り込んでいて、ひとつ前の列では潮と京がわざわざ隣同士に座って携帯のゲームに興じている。そのさらに前

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第二章 - こぐま座アルファ星

 「おまえの体内時計はほんとうに六十進法か?」と呆れたように千尋が肩を竦めたとき、優都は何度か瞬きを繰り返したのち、心底驚いたと言いたげな表情で、「千尋、比喩とか言えたんだ」と言ってのけた。
「感性の欠片もないやつだと思ってたけど、やっぱり文系なんだな」
「うるせえ。なんならだいぶ字義通りの疑問だよ」
 期末考査一週間前で部活がオフとなった土曜日の午後、一時を回ったころから千尋と机を並べてテスト勉

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第一章 - こぐま座アルファ星

 部活動を始めるのは早くても朝七時半から、というのが高等部全体の決まりごとで、弓道部もそれに従って朝練の開始時刻はその時間だった。そもそも大会前以外は強制ではないその練習に、潮は中等部の頃からわりあい毎日律儀に参加している。週に一度くらいは寝坊して、七時半には間に合わなかったり、今日はもういいかと思って二度寝を決め込んでしまったりすることもあるものの、それを加味しても参加率は高いほうだ。
 冬が顔

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