「雨」のデザイン。
今年も梅雨が始まりますね。
改めて考えてみると、「雨」は不思議な存在です。
言ってみれば降水現象であり、時に外出も億劫になる厄介な存在でもあるのですが、そこに独特なムードが存在するのも確か。
古今東西、さまざまな表現の世界にも「雨」にインスパイアされたものは数多くあります。
ざっと思い浮かべるだけでも…
文学では『雨月物語』。
音楽ではショパンの『雨だれ』。
映画では『雨に唄えば』。
絵画ではカミーユ・ピサロが描いた『テアトル・フランセ広場 雨の効果』という作品も印象的です。
私たち人間は昔から「雨」にロマンを託してきたと思うと、梅雨の鬱陶しさからも少しだけ解放される気がします。
戸田デザイン研究室の作品にも「雨」に関連するデザインがあり、それぞれにユニークな魅力があります。
今回は広報・大澤が推したい「雨」のイラストをピックアップしてご紹介したいと思います。
■『ABCえほん』より
初めて英語を学ぶ子どもたちのために、アルファベットの大文字・小文字・ブロック体・筆記体を美しくレイアウトしたロングセラー『ABCえほん』。
「R」のイラストに選ばれたのが「rain (雨)」です。
絶え間なく降り注ぐ雨の線を見ると、「これは、そこそこ激しく降っているな。」と想像されます。
傘の中に身体を納めるようにして歩く子どもは、雨に備えてフル装備です。
傘もレインコートも長靴も黄色のワントーンで揃えるオシャレっ子。
曇り空のグレーとマッチして、とっても鮮やかです。
そして口元には、ほのかに笑みが。
いつもは着れないレインコートに袖を通し、長靴で水たまりに入ってみたり…。 「子どもの頃は雨が楽しみだった。」という方も多いはず。
そんな気持ちも思い出させてくれるイラストです。
■『よみかた絵本』より
詩的で美しく、リズミカルな文章と楽しいイラストで"文章を読む楽しさ"を伝える人気作『よみかた絵本』から2つ続けて紹介します。
まずは、こちら。
少女 vs. 暴風雨…。
先ほどのイラストとは比べものにならない、厳しい展開です。
橙色の長靴の足元も、グッと踏ん張り気味。
力の入った口元からも、少女の必死さが伝わります。がんばれ!負けるな!
このイラストには風の流れを示す線はあるものの、「雨」そのものは描かれていません。しかし、女の子の表情や姿勢、アイテム全体で強い雨風にさらされていることがコミカルに伝わってきます。
ちなみに、このイラストと対になった文章がこちら。
「うん、わかってるよ!」と言いたくなるほどの、文と絵のハーモニー。
この後、少女は無事にお家に帰れたのでしょうか…。
見守るような気持ちで見つめてしまいます。
こちらは打って変わって、雨にさらされても「よゆう〜」といった表情の雨蛙(アマガエル)。
蓮の葉と思しきものに乗って、天から降り注ぐ恵を存分に受け止めています。
こちらの文章は…
真一文字に結んだ口元と絶妙な上目遣いが、へっちゃら感を増幅。
この涼しい顔をじっと見ていると、ジワジワと悔しさが募ってきますが、
自然と共に生きる動物たちは逞しい!
雨に打たれた緑の小さな身体は、きっと美しく輝いているでしょう。
とだこうしろうの描く雨のラインは、どことなく浮世絵の雨の描き方を彷彿とさせ、カエルとの相性も抜群。和のテイストも感じさせつつ、洒脱に仕上げていくのが作者の得意技でもありました。
「雨蛙」を季語に、一句詠んでみたくなるイラストです。
■『どの色すき』より
色の組合せ=配色の美しさ・楽しさを、子どもたちのファッションを通して表現する『どの色すき』。
ファッション誌のように楽しいコーディネートが展開されるのですが、その領域は洋服だけに止まりません。
帽子やマフラー、そして傘にまで及びます。
ご覧ください、この色鮮やかな真っ赤な傘。
柄も骨もしっかりとしていて、なかなか上質です。
(うっかり電車の中やお店に置き忘れてしまったら、しばらく自分を呪うであろうタイプの傘です…。)
大人用とも思えますが、「美しいと感じる心に大人も子どももない」というのが戸田デザイン研究室のモットー。
子ども用・大人用にこだわらず、素敵なものを選びます。
そもそも傘は遥か昔のヨーロッパで、貴婦人などが持つ日傘から発展してきたという説もあるそうです。
近年では軽さや機能を重視した便利なものがたくさんありますが、この少しクラシックなデザインが醸し出すムードも良いものです。
雨の日のオシャレを引き立たせてくれるアイテム、傘。
その楽しさ、素敵さに改めて気づかせてくれます。
■『リングカード・ABC』より
お次もオシャレな傘が登場!
今度は大人気シリーズ『リングカード』からご紹介します。
英語の楽しさを伝える「ABC版」とあって、「U=umbrella」で描かれたのがこちら。(デザインがより伝わるよう、今回は縦に置いてみますね。)
パープルとピンクを合わせたような色合いに、白いアクセントがニクい!
雨の日が待ち遠しくなるようなカラフルでキュートな傘です。
ちょっと小ぶりで持ち運びにも便利そう。
このカラフルな傘をみると、私は『シェルブールの雨傘』という映画を思い出します。
フランス映画の代名詞とも言える不朽の名作ですが、フランスを代表する名女優・カトリーヌ・ドヌーブ演じるヒロインが働いているのが、傘のお店。
店内やショーウィンドウには色とりどりの素敵な傘がディスプレイされていて、不運な恋に翻弄されながらも強く生きるカトリーヌ・ドヌーブの美しさを引き立てていました。
やはり、傘はどこかロマンティックなアイテムだと思います。
■『漢字えほん』より
最後は少し視点を変えて、「漢字」に注目してみましょう。
小学校1・2年生で習う最重要漢字を中心に、漢字の成り立ちから書き順、使い方、音読み・訓読みを整理してわかりやすくレイアウトした『漢字のえほん』。
もちろん「雨」もしっかりと紹介されています。
天をおおう雲から雨が落ちてくる様子を表しているそうで、思わず「なるほど」と頷いてしまうデザインです。
こうして見てみると、遠い昔から私たちは「雨」と共に生き、その恩恵を受けたり、時には脅威にさらされたりを繰り返してきたのだろうなと思わずにはいられません。
そして「漢字」は悠久の時を経て、自然や人間の営みを感じられることができるデザインでもあると実感できます。
いかがでしたか?
雨が続き、お家で過ごす時間も増える、これからのシーズン。
映画を観たりゲームをしたり、色々な楽しみがあると思いますが、
ぜひ戸田デザイン研究室の「雨」のデザインも楽しんでいただけたら嬉しいです!