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『ドリトル先生不思議な旅』と『昆虫とあそぼう』 シネマと戸田デザイン研究室 Vol.3

映画大好き!な、戸田デザイン研究室 広報・大澤がテーマを設け、素敵な映画作品と戸田デザイン研究室の作品をご紹介する【シネマと戸田デザイン研究室】。

第3回目のテーマは【自分と異なる存在を敬うって、どう言うこと?】をテーマにご紹介します。「他人を敬う。」「生き物を大切にする。」この大切な考えを行動に移すには、何が必要なのか。改めて考えさせられる映画と絵本です。

『ドリトル先生不思議な旅』 監督:リチャード・フライシャー


原作はイギリスの作家 ヒュー・ロフティングによる児童文学の名作『ドリトル先生シリーズ』。日本では文豪 井伏鱒二の翻訳版も有名で、幼い頃に私も夢中になって読んでいました。まずは あらすじをざっくりと…。

医師であり博物学者のジョン・ドリトル先生は、イギリスの田舎のお屋敷でたくさんの動物たちと暮らしています。ある日 語学堪能なオウムのポリネシアから"動物語"の手ほどきを受けることに。

あらゆる動物との意思疎通が可能となった先生のもとに体調不良の動物たちがたくさんやって来るのですが、 世間体を気にせず あらゆる動物を診察する先生は周囲から白い目で見られ、日々の生活も苦しくなります。

そんなドリトル先生の姿を見た動物たちは、自分たちの能力をフル活用することを決意!

動物語の師匠である おばあちゃんオウムのポリネシア、聡明で誠実な犬のジップ、世話好きで愚痴の多いアヒルの家政婦ダブダブ、きっちりと経理をこなす ふくろうのトートー。個性的な面々が先生を助け、たくさんの冒険に同行します。

ワクワクいっぱいのお話で繰り返し映画化されていますが、幼い私が大好きだったのが1967年公開の『ドリトル先生不思議な旅』。シリーズの中でも印象的なお話を組み合わせミュージカル調にアレンジした作品ですが、原作の持つある種の"クセの強さ”が感じられました。

あらゆる生き物に紳士的な態度で接し、世間の色眼鏡に振り回されないドリトル先生。それ故に人間嫌いだったり かなり我が道を行く一面も…。そして ただ可愛いだけでなく しっかり自己主張する動物たち。キャラクターそれぞれが「自分」と言う軸を持っています。

そんな彼らの間には 上下、と言う立場を測るような物差しがなく、子どもながら不思議な気持ちの良さを感じた記憶があります。(そして今のようにCG技術がない中でのユル〜イ感じのセットや、イギリスらしい独特のユーモアも味がある!)


『昆虫とあそぼう』 作・絵:とだこうしろう

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さて、こちらは昆虫の生態を紹介する戸田デザイン研究室の絵本。トンボ、バッタ、カブトムシなど26の身近な昆虫が登場します。作者である とだこうしろうは昆虫と言葉を交わす能力はありませんでしたが、昆虫たちに向けた大いなる畏敬の念と愛情はドリトル先生にも引けをとりません。

この昆虫のイラストをご覧ください。とだこうしろうのイラストはシンプルで可愛らしい、というイメージを覆す写実的で繊細なタッチで描かれています。細かい体毛の表現や微妙な色合いの出し方などを見ていると、作者がいかに昆虫の持つ造形の美しさ・不思議さに魅了されていたかが伝わってきます。

それはもう、粘着質とも言えるほどの観察ぶり!絵本だから わかりやすく優しく描くと言った線引きはなく、かなり"ガチ”です。

それぞれの昆虫の生態を説明する文章は、作者が子どもの頃に経験した虫採りの経験がベースになっています。 昆虫を発見できるスポットや餌の話は、まさに虫好き少年そのまま。(女性なら、「男の人って永遠にこうなのね。」と思うかも笑。)

さらにチョウの模様に感激したり、カナブンの青銅色に感嘆したり…。少年時代に昆虫に魅了され絵本作家となった自分自身の感動を、子どもたちに真っすぐ伝えています。ドリトル先生と同じく、昆虫を見つめる眼差しにも 子どもたちに語りかける眼差しにも 立場を測る物差しというものがありません。だからとても清々しいのです。

「他人を敬う。」「生き物など異なる命を尊重する。」この本質はなかなか難しいものです。相手が生き物であれ子どもたちであれ、自分との間に立場を作っては上手くはいきません…。

それにはまず、自分を知り、自分の世界を深めることが必要です。どんなことに心を動かされ、どんなことが得意なのか。それは同時に自分に無いものも知ることになります。

そうして【完璧ではないけれど、大切な自分】を認めていくことで、異なる存在を自分と同じように大切に思う。この2つの作品はそこから見える世界の素晴らしさを伝えてくれます。