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涙のワケには色々あって。それが大人に分からない。

娘が、私の隣でシクシク泣いている。
理由は…
今、当てているところだ。
全然当たらなくて、いや、もう少しで当てられそうなんだ。
当てたい、否、当てねばならぬ理由がある!


時は遡って30数年前へワープ。

私が、小学校高学年か、あるいは中学入学したてだったか?
親戚と一緒に、旅行に行く朝だった。

「『写るんです』買ってきてー!」
あの使い捨てのカメラ全盛期。
母に頼まれて、3つ下の従兄弟のマーくんと一緒に、近所の酒屋へ向かった。

旅行が楽しみで楽しみで、浮かれ倒した私は、マーくんの前で調子に乗って、歩道橋を降りる最後に4段飛ばしをやった。
4段はあかん。
思いっきり転んで、捻挫をした。鈍臭い。

病院に連れられ、マーくんがまずわんわん泣いた。
「心配しなくて大丈夫、ただの捻挫だから」と母に説明されて、私の足をみて「痛い?」と何度も聞いた。

「それにしても…旅行、どうする?もう、時間も大分過ぎちゃった」
「無理して行っても楽しく無いかな?お風呂も入れないし」
「うちの子はいいのよ。でもキャンセル料金かかるし、我が家は残るから行ってきたら?」

母とおばちゃんがそんな会話をしていて、私は、申し訳なさで頭がいっぱいになった。

お母さんたちはともかく、私たち子供チーム5人は、この日をすごくすごく楽しみにしていたのだ。
我が家が行かないとなったら、弟も行けない。
昨日の夜あんなに楽しみにしてたのに。
どうしよう、私のせいで、みんなが楽しみにしていた旅行が…

それで、今度は私がおいおい泣いた。
「なに、そんなに痛い?」
と母に聞かれて、首を大きく横に振る。
それから「旅行行く…!」としゃっくりを上げながら訴える。
私が行けば、みんな旅行に行ける!

「なによ、そんなに行きたいの?みんなに迷惑かけるのに?もう自分のことばっかりなんだから!」
ガーーーーーン!!
こ、こんなにみんなを思っているのに…
そんな解釈されるの⁉︎
私は母を睨んで、またかぶりを振る。

「え、じゃ何?泣いてても分からないよ!あ、悔しいの?ごめんごめん、お母さんが買い物なんて頼んだから。駅で買えば良かったのにねぇ」

ぜ、全然伝わらない…!
私の気持ちが一切伝わってない…!!

あの時の絶望感。
「みんなのことを思って泣いてます」なんて恥ずかしくて言えないじゃないか!察してくれよ!もう、全然泣きやめなくて、母ため息。

結局、旅行は行ったのだけど、私は旅館で不貞腐れていて、それがまた、「捻挫で遊べないからってもう!」と解釈されて、幼かった私は、くっそうー!くっそうー!お母さんのバーカ!バーカ!
心の中で悪態をついて旅を終えた。


そして現在。

娘がしくしく泣いている。

ことの発端は、UFOキャッチャーだ。
「一回にしておきなさいよ」と言ったのに、お父さんが盛り上がって、一回どころか、おそらく数十回、ゲームに興じている。

私は隣接する本屋さんで、購入しようと決めた本を胸に抱いて、2人を待っていた。
「お母さん!お父さんがもうちょっとかかるって!だから先帰っていいよって!」
もう、すでに戦利品を持って、顔を蒸気させた娘が本屋に入ってきた。

「あんだと…?」
般若の如き表情に変わった私をみて、娘がハッとなった。
「で、でも、お父さんが、やっていいよって…!」

私は、本を元の棚に戻して、ゲームセンターへ向った。
夫は、ゲームセンターのお兄さんとでっかい景品を前に大盛り上がりしていた。
「あとちょっとです!そう!右!そこ!」
アイツ、相当金使っとんな?

それで、私の雷が落ちた。
一回にしなさいと言ったよね。一回で終わりに出来なくても、一個取れたら終わりに出来たよね?
そんなに商品が欲しいなら、まず、自分のお金を使いなさい!人の金でギャンブルすんな!
お父さんも!甘やかしも大概にしなさいー!!


帰り道。
ネチネチと説教をする横で、娘がシクシク泣いている。

「反省した?」首を縦に振る娘。
「うん、じゃあもういいから、泣かない」
それでもシクシク泣く。
「何が取れたの?大きい箱だね」シクシク…
「もう怒ってないよ」シクシク…

「ん?楽しい気持ちが台無しになって泣いてるの?」首を横に振る。
「怒られて嫌な気分?」違う。
「あ、分かった!お父さんが怒られて可哀想なんだ!」これも違う。
「お母さんがお店で怖すぎて、恥ずかしかった?」違う。

当たらない…!
ああ、こんなにも娘の泣いてる理由が分からないものなんか。
あの時の母を思い出す。ため息が出そうなのをグッと堪える。
そう、私は、娘の涙の理由に、勝手に決着を付けるわけにはいかんのだ!

「うーん、泣いてる理由が分からないと、お母さん、悔しかったんだろうなーって思って終わりにしちゃうけど、いい?」

「おっ、おがあさんの…ほ、本が、買えなく、なっちゃっだ…から…」
娘が、しゃっくりを上げながら答える。

ああ!
お母さんの本が買えなくなっちゃったから!

そうだ、帰り際に、娘が「お母さんあの本買わないの?」と言うから「お金使いすぎて買えないよ!」と怒りに任せて言った、言った!
実のところ、夫の財布から出たUFOキャッチャー代と、私の財布は別だから、直接関係がなかったけれど、とにかく怒っていたもんだから、買う気が失せてしまったのだ。

そうか、この娘は、私が不用意に放り投げた言葉に傷ついて、自分のせいだとシクシク泣いていたのか。
ちゃんと聞けて良かったーーー!!

あの捻挫した日を思い出す。
母は、親戚の手前、迷惑をかけてしまった娘がいつまでも泣いているのに腹が立ったのもあるんだろう。
本当は、私の足を心配していたのも知っている。家族だけの旅行だったら、もっとちゃんと話を聞いてくれたんじゃないかな、と思う。

子供は、案外、単純な理由でなんか泣いていない。泣き止まない時は尚更だ。
自分のことじゃないことで、胸を痛めて泣いている。
いつもうまく聞けるわけじゃないけど、優しいカケラを見落として、間違うと、それは小さな小さなシコリになる。

バーカ!バーカ!と悪態つかれて、いつまでも忘れない案件として残されちゃって。
お母さんあの時泣きすぎてごめんね、と思いながら。
娘の優しさに「やっぱり私の子だわ」とほくそ笑む。

「また一緒に買いに行こう、UFOキャッチャーはお小遣いで、一回だけよ」
「うん!」笑顔が戻った娘と歩く。

お父さんには、こんな贅沢教えてやらない。ふふふ。


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