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お正月の飛田新地に出勤したときの話

さくらこ@飛田新地

お正月は年一番の書き入れ時です。

大晦日、飛田新地に出勤すると、店にはマスターの作った鏡餅が飾られており、待機部屋のこたつには、早くもお節料理、お雑煮、みかんが並んで、テレビでは年越し番組が流れています。
こんなちゃんとしたお正月は初めてだったので、私はうきうきしました。
(それまで年越しはひとりで過ごすか、平安神宮で巫女のバイトをしていました。)

玄関から聞こえる賑やかな呼び込みと、部屋の女の子たちの準備の喧騒を横目に、頬を赤くした濃いめの化粧をします。

その日は大晦日でしたが、「ちょっと早いけど」とマスターからお年玉をいただきました。中身は新札の一万円。「ほいっ」と子供向けの可愛いポチ袋を手渡されて、子ども扱いされたのがなんだか嬉しかったです。

ちなみにこのお年玉は、三が日の間毎日手渡されました。
「えっ昨日いただきました」と言ったら「いらんねやったらうちがもらうわ」とおばちゃんが横から取って、割烹着のポケットにないないしました。

こたつの上のごちそうは、おばちゃんやマスターの家族が作ったもので、特にお節料理は立派な重箱に入っていました。手作りのお正月料理に「すごーい!サザエさんみたい!」と思わずスマホで写真を撮っていたら、留学生みたいなリアクションするやんwと笑われました。
こんにゃくをねじってあるやつとか、家で作れると思ってなかったので、本物のおせちにすごいすごいと騒ぎました。

「食べれるうちに食べときやー」
これからの忙しさを予感させる指令にわくわくします。

ところでこのとき渡された割り箸袋には、女の子ひとりひとりの名前が書いてあり、お箸は洗って明日も使うよう言われました。
(えっ、割り箸を再利用するのなんか嫌やな…。)

私は店一番の売れっ子のアリスちゃんに
「割り箸、再利用するんですね…」
と言いました。するとアリスちゃんは
「お正月は祝い箸やからやない?」
と答えました。
「?」
「これ利休箸やん?お正月の間同じお箸使うやつ」
「??」
まるで分かりません。
タイマーが鳴り、アリスちゃんは玄関に座りに行きました。5分で入れ替わるため、待機部屋での女の子の会話はいつも半ばで途切れがちです。

仕方ないのでスマホで調べました。

お正月に使う祝い箸は、箸袋に家族それぞれの名前を入れ、大みそかに神棚に供えます。元旦にはその箸をおろしてお祝いの料理をいただいて、松の内のあいだは洗って繰り返し使い続けるとされています。

そうなのか…知らなかった。
飛田のこういう日本の伝統をしっかり守っているところは素敵だなと思います。京都祇園みたいです。
そして、ナチュラルに利休箸という単語を出せるアリスちゃんはきちんとした育ちの子なんだろうなと、おせちも見たことのない自分の教養の無さが恥ずかしくなりました。


日が暮れると迎春の提灯の明かりが街を彩ります。

客足も多くなり、バタバタし始めます。
お客さんを見送った後、待機部屋で化粧を直そうとすると誰もいません。
「今流れ来てる!はよ座り!口紅こっちで塗り!」
と、魚群探知機と化したおばちゃんが叫びます。
あわあわと座るや、本当に口紅を塗る間もなくサラリーマンが暖簾をくぐりました。
(えっこんな髪ぼさぼさで化粧も落ちてるのに!?)
よほど他の店舗が上がりきっていたのでしょう。池の鯉のえさになったような気がしました。

飛田新地の営業時間は夜0時までですが、お正月期間だけは深夜1時まで許されています。
もう今が何時かも分からないまま鯉の群れにダイブを繰り返していると、外国人のお客さんが上がりました。
(外国人NGを出すこともできます。白人はOKとかベトナム人はNGとか女の子によって違います。自由恋愛なので。 私は贅沢は言わないタイプです。 )

その人はベトナム系で、日本語はもちろん英語もあまり通じませんでした。いろいろルールがわかっていないようでその説明に苦戦し、射精させることもできませんでした。でも時間のチャイムが鳴りましたので、Sorryと謝ったあと、すぐ戻るから服を着て待っててね、と簡単な英語で伝えて事後の洗浄に行きました。

果たして部屋に帰ってくるともぬけの殻です。
えーっトイレ行った?どこー!?しょんぼりベトナム人どこー??と探してもいません。困って1階に駆け降りるとおばちゃんに「外人さん帰ったで」と言われ、そして三つ指をついて「明けましておめでとうございます」と言われました。いつの間にか0時を跨いでいたのです。
イケなかったベトナム人と迎えた新たな年…。
せめて射精させていれば達成感もあったのでしょうが、彼の不満としょんぼりの混ざり合った顔が頭をよぎります。これより酷い年越しあんまないよなぁと思い、ちびまる子ちゃんが白目になって後ろでクルクル回ってるときみたいな顔になりました。

その後、お正月営業は1時までだと知らない人が多いせいか、そもそもまともな人は年越しに風俗に来ないからか、0時を過ぎると一気に人が少なくなりました。女の子たちにも疲れが出始めます。叫び続けるおばちゃんの「あと1本!まだ行くでぇー!」という声だけが高校の部活ばりに元気に響きます。

深夜1時になり、閉店。
マスターから、今日の稼ぎと一緒に「大入り」と書いた赤いポチ袋が渡されました。通称「大入袋」です。
渡された大入り袋には1万円が入っています。この店ではお正月に限らず30本(売上30万円=女の子の手取り15万円。)を超えると大入り袋がもらえるとのことで、お年玉も貰ったのにさらになんか1万円貰いました。

一日でたっぷり扇子ができるほどの万札を手にした私に、マスターがニヤリとして言います。
「もう普通のバイトできひんやろ」

よく「一度水商売をすると金銭感覚が狂う。月25万円で働くのが馬鹿らしくなるので抜けられなくなる」と聞きますが、自分だけはそんなことはないと思っていました。現にそれまでは「風俗は今だけで普通に就職するし」と考えていました。
しかしこのときは「た、たしかに…」と気持ちが揺らぎました。日給15万円超えならば、履歴書の空白期間が2年くらいできても割りに合うように思われました。

が、この数週間後には武漢で発生したコロナが日本に到来、客足は激減。ボウズの日も発生し、私の金銭感覚は狂うことなく今に至るのでした…。

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※これはコロナ前のお正月のお話です。コロナ禍に入ってからは、お正月も他の連休と変わらないです。今年はそろそろ賑わうかなー。
けど、お正月に一人だと孤独感が凄いので、飛田に行くと一緒にお正月を過ごせる仲間がいるというのは嬉しいです。
お正月に独りは、クリスマスイヴに独りの1000倍キツイです。イヴはネタにできるのになんででしょうね?


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