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M-1グランプリ2019を振り返る~かまいたちvs和牛~

前置きナシでいきなり本題に入ります。

こちらのブログを読んでから読むと、さらに面白いと思います。



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賞レースのトップバッターは誰もがやりたくない。

なぜなら、まだ会場が温まっていないし笑う準備が出来ていないからだ。

本来100が笑いのMAXだとしたら、良くても60とか70くらいで着地してしまう。

それは審査するほうも同じで、基準点として採点しないといけないから、どんなに面白くてもいきなり98点とかは付けられない

賞レースのトップバッターはとにかく不利なのだ。

不利であることに変わりはないが、トップバッターに向いてる芸人はいる。

この場合の向いているは、トップから高得点を確実に取れるという意味ではなく、会場を確実に温めて笑いやすい空気にするのに適している芸人という意味。

そう考えた時に、今回のファイナリストのメンバーで1番トップバッターに向いてそうな芸人は、インディアンスである。

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ボケの田渕さん(写真左)のハイテンションからなる高速漫才は、確実に会場の空気を温めるのに一役買ってくれる。

あとはニューヨークが準決勝でやった歌ネタ漫才を披露するなら、ニューヨークのトップバッターもありかなと思った。

『M-1グランプリ2019』のトップバッターは、そのニューヨークだった。

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渋谷の無限大ホールを主戦上とし、若手の頃からネクストブレイク芸人と言われ、漫才もコントもこなす二刀流

近い将来、必ず売れると言われ続けてきたコンビだ。

しかし、『M-1グランプリ』『キングオブコント』も準決勝まで行くも、あと一歩のところで決勝に行けない。

確実にあったブレイクチャンスを逃し、気付けば同期や後輩に先を超されていた。

近年は『ゴッドタン!』「腐り芸人セラピー」に呼ばれるほど伸び悩んだ。

そんなニューヨークが苦節10年にして、ようやくM-1決勝の舞台に足を踏み入れた。

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ネタは準決勝と同じ歌ネタ漫才「ラブソング」

歌に入るまでのやり取りが準決勝と違って長いことが気になったけど、歌に入ると「ラッキーボーイ」「冷静」などのワードで徐々に加速。

コンプライアンスを気にしてか、ツッコミの屋敷さんの「毒や偏見」は影を潜めて物足りなかったけど、ツッコミが良いアクセントになって4分を駆け抜けた。

結果は616点。

トップバッターとしては上々の出来だ。

「笑いながらツッコミするタイプが好みではない!」と言う審査員・松本人志さんのコメントに

「最悪や!」と噛みつく屋敷さんが最高だった。

漫才では影を潜めていた屋敷さんの良さがようやく出た瞬間だった。

松本人志にあんな風に絡む若手芸人って、今までいましたっけ?

僕は屋敷さんのツッコミ、若手芸人ではベスト5に入るくらい好きですけどね。

「面白いけどツッコミが笑いながらツッこむタイプだから、松本さんにハマらなそう」

って、来年『M-1』予想する時にみんな言いそうだな(笑)

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2番手で登場したのはかまいたち。

ネタの冒頭を聞いた時に、思わず「このネタやんの?」と叫んでしまった。

ネタは「UFJ」

山内さんが「USJ」「UFJ」と言い間違ったことに対し濱家さんに指摘されるも、その間違いを認めず、どうそれをくぐり抜けるかの4分間。

かまいたちは「UFJ」のネタを3年前の『M-1グランプリ2016』の準決勝で披露している。

惜しくも敗退したが、かまいたちの代表作の1つであり、去年の準々決勝でもこのネタを披露している。

去年披露した「UFJ」は、後半部分を大幅に変えていて、システムではなく、山内・濱家の生身の面白さを全面に押し出す構成に変わっていた。

『キングオブコント2017』で優勝し、知名度が上がってキャラクターが認知されたことによる、ネタのモデルチェンジだ。

そして今回の決勝では、そこから更にブラッシュアップをかけてパワーアップしていた。

キラーワードの「もし俺が謝ってこられてきてたとしたら、絶対に認められていたと思うか?」

めっちゃ笑ったなー!

これは高得点が出ると思ったら、まさかの660点!

『M-1』の2組目でこの高得点は異常であり、おそらく2006年大会のフットボールアワー以来の高得点だ。

フレッシュな芸人のほうが『M-1』は有利という定説を覆して、3年連続3回目のかまいたちが圧倒的な得点を叩き出した。

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そうなると、かまいたちのあとは誰もがやりにくいし、この空気を変えるのは中々難しい。

次の芸人さんには気の毒だと思ったし、ちょっと長いインターバルがほしいなと思っていた。

そんな中、3番手に選ばれたのは「敗者復活戦勝者」だ。

今年のファイナリストの出番順も、その日、笑神籤(えみくじ)という番組独自のくじの出た目によって決まる。

2年前の『M-1』から導入されたシステムで、これが生放送という緊張感とマッチして好評価につながった。

芸人側からしたら、たまったもんじゃないだろうけど。

ただ過去2年と違うのは、敗者復活戦勝者の目が出た瞬間に、敗者復活勝者が発表されるということ。

今まではファーストラウンドが始まる前に、司会者の今田耕司から勝者が発表されて、勝者は舞台の袖で他のファイナリストと待機する流れだった。

しかし今年は、敗者復活戦勝者にもっとハンデを与えようという意図なのか?

敗者復活戦勝者のくじが出てから勝者を発表し、スタジオで即ネタを披露する流れに変わった。

助かったのは他のファイナリストだと思う。

かまいたちが爆発したあとにネタをやらずに済むからだ。

敗者復活戦勝者の発表から、ネタ披露まで10分くらいのインターバルを挟むことが出来るから、かまいたちで湧いた流れを一旦リセットできる。

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敗者復活戦勝者は和牛だった。

昼間の敗者復活戦全16組のネタを観たけど、圧倒的に和牛だった。

和牛が準決勝で敗退し敗者復活戦に回ることが決まった日から、和牛が勝ち上がる空気やシナリオが出来ていた気がする。

3組目の和牛が披露したネタは、敗者復活戦でもやった「引っ越し」

前年2018年の「ゾンビ」「オレオレ詐欺」に比べるとネタのインパクトは弱いが、ポップでわかりやすく、本の構成としては素晴らしい内容だと思う。

ネタは引っ越しの部屋の内見がベース。

水田さん扮する不動産屋が紹介する部屋は、なぜかすでに人が住んでいるというのが最初のくだりのオチ。

それに対して「人が住んでいないところでお願いします」と念を押す、部屋探しをする川西さんという構図。

このネタの肝は、それを繰り返すことで部屋を探している役の川西さんの理性がぶっ壊れる所

1部屋目→人が住んでる部屋
2部屋目→家族が住んでる部屋
3部屋目→水田の部屋
4部屋目→やっぱり人が住んでる部屋

序盤は同じ展開が続くから単調になりそうなんだけど、そこはさすがの和牛。

部屋を出る時の「お邪魔しました!」3段オチにすることで差別化を図り、飽きさせない工夫をしているのがすごい。

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ネタはここからが本番。

中盤、理性がぶっ壊れた川西さんの部屋選びの優先順位が「人が住んでいないか」の一択のみになる。

だから外観にクモの巣が張っていようが、ドアがギシギシ言おうが、コウモリがいようが、怪奇現象が起ころうが、人が住んでいなければすべて良くて

それに対する川西さんの「いいね!」のリアクションがイチイチ面白い。

最後は2人とも金縛りにあって動けなくなる見せ場もあり、ネタは終了。

得点は652点。

かまいたちには8点及ばなかったが、最終決戦進出を確定させるには十分な点数だ。

今年の和牛を観て思ったのが、ここ数年の『M-1』で、1番楽しそうに漫才をしていると思った点。

準決勝敗退で敗者復活戦に回ったことで、いつものように「追われる立場」から「追う立場」になり、精神的負担が軽減されたのも大きいと思う。

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かつてないほど前半戦から盛り上りを見せる『M-1グランプリ2019』

今年は初出場の7組が、『M-1』に新たな風を吹かせてくれると期待したのだけど、前半で【かまいたちvs和牛】の構図で爆発した。

新世代の躍動ではなく、『M-1』常連組の大会になるのかとこの時は思った。

・・・が、これはまだまだ氷山の一角に過ぎなかった。

ここから二転三転と、誰もが予想しないドラマが待ち受けていることを僕はまだ知らなかった。

~つづく~

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2019/12/26

飛田将行 とびたまさゆき

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