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小清水志織
2021年5月30日 20:00
腕が痺れて痛い。美里は血が滲んだ左手をかばいながら、匍匐前進するかのように壁際を移動した。芋虫のような自分の動きにぞっとして、こんな姿を飛鳥に見せられないと思ってしまった。ずりずり体を引き摺った先に、まだ自由が利く右手を伸ばして一枚の招待状を拾った。「今藤はじめ…。彼、何者だったのかしら」今藤は、ブレーカーが落ちてダイニングが真っ暗になったとき、彼と美里との距離は、机二つ分を挟んだほどのわ
2021年5月23日 22:26
ベージュ色のカーペットが敷かれた細長い廊下を、マーガレットさんの後ろにくっつくかたちで歩いている。彼女は背中を大胆に広げたドレスを着ているので、その肌を見ないように前を進むのになかなか苦心した。「飛鳥くん。あなた、女性慣れしていないでしょ」僕の内心をえぐるような質問を投げかけるマーガレットさんに、僕は閉口した。渡したいものがあると言ってきたから、わざわざ彼女の部屋までついてきているのである
2021年5月17日 22:38
ここ、何処なの?三十畳はあろうかと思える、冷たくて空虚な場所。梶原美里は、部屋の隅でほのかに光る緑色の非常灯だけを頼りに、痺れた足を引きずりながら歩を進めた。「たしか、私…」壁伝いに非常灯へ近づいている間に、数時間前ここに迷い込んだときの記憶がフラッシュバックする。突然、硬直した今藤はじめの顔が目の前に浮かんできて、心臓の動脈がぎゅうと引き締まった。首筋にひんやりした汗が流れだして、呼
2021年5月12日 21:59
「非常用電源だ! 電源はどこだ!」ダイニングが暗闇に包まれて一同がパニックに陥るなか、今藤はじめの怒声が大きく響き渡った。目が暗さに慣れるまでに時間がかかるので、あちこちで人がテーブルにぶつかる音や、「ごめんなさい」と謝る声、駆け足の靴音、せわしないスーツの衣擦れが聞こえてくる。僕は美里の安否を確かめるべく、彼女が体育座りをしていた辺りに手を伸ばした。しかし、暗闇の中で遠くに行っていないはずの