黒猫と金貸し 01

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case01-00: 導入

「すいません」

人もまばらな店内に声が響く。

アメリカンも既に3杯目を飲み干し、4杯目を頼むために店員を呼んだのだ。テーブルの上には砂糖とミルクのゴミの山、そして灰皿には吸い殻の山。

申し訳なさそうな顔をしながら足早に店員が来たかと思うと、手際よくテーブルの上を片付けていく。語気の強さで苛立ちが伝わってしまったのだろう。しかしその店員のひとつひとつの仕草でさえ余計に俺を苛立たせる。

苛々は

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case01-01: 接触

(……またやってしまった…)

深夜の電車で寝過ごすのはこれで何度目だろう。
JR津田沼駅に着いた時、すでに日付が変わっていた。

12月も半ばとなり、寒さも本腰を入れてきた季節。蒸し暑い熱気を吐き出す空調に追い出されるように電車を出ると、途端に寒さが突き刺さる。これだから冬は嫌いなんだよ。

(タバコ吸いてぇなぁ…)

足早に改札を抜けると、暗いビルのガラスに映る自分と目が合う。伸ばしっぱ

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case01-02: 出会

2日後の金曜日、JR大井町駅での待ち合わせとなった。

大井町というところは不思議な街だ。
東側には昔ながらの昭和のにおいのする繁華街が広がり、西側には洒落た店が点々と存在している。過去と現実が交差しているような街である。

昭和も終わる頃に生まれているのにも関わらず、こういった古めかしい景色に懐かしさや居心地の良さを感じるのは、映画やドラマのせいなのだろうか?

そんなことを考えながら、小

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case01-03: 彷徨

大井町にデニーズがあるだなんて…
やるじゃないか、大井町。

「では、そのデニーズに行きましょう」

自然に先導を促す。平静は装えたはずだ。俺は甘いものには目がなく、デニーズとロイヤルホストはチェーンの中ではパフェに関しては群を抜いていると考えている。さっさと終わらせて今季の季節のパフェを食べたいのだ。

「トーアさんはおいくつなんですか?」
「ずっとこうやってお金貸すお仕事なんですか

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case01-04: 懸念

「わーひろーい!」

後ろの素っ頓狂な声を無視して薄暗いカラオケボックスのドアを開ける。手早く光量をMAXにし、流行りの曲のBGMをOFFにする。

恐らく6人程度で使う想定なのだろう。少し古めかしい室内は2人で使うには多少寂しさを感じるほどゆったりとした広さをもっていた。対面形式で座るように目線で促した後、中央のテーブルにノートパソコンを置き電源をつける。

明るい静かなカラオケボックスに、ち

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case01-05: 過去

最初から感じる妙な明るさ、そして具体的に貸付を始めてからも手慣れた質疑の様子。違和感を感じるには充分だった。

「あんた、こういう貸し借りの経験があんの?」
「あれ?言ってませんでした?実はあるんです」

聞いた覚えはない。まぁいい。

「なんでそいつに借りないの」
こういった得体のしれない相手に借りるとなった場合、ハードルは一番最初なのだ。見ず知らずの人間に会うということだけでストレスは大

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case01-06: 着信

いつものように新規客、既存客への対応が続いた。

こういうことをしていると24時間365日、休みと呼べるものはない。5人や10人ならともかく、50人を超えると毎日のように何か事件が発生するものだ。 ただでさえ問題が多い人間を扱うのだから、当たり前といえば当たり前である。

そして夜職では閑散期と呼ばれる2月の終わり頃。

いまにも雪に変わりそうな冷たい雨が朝から降っていた。
それだけでもう、かなり

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case01-07: 変化

JR新橋駅、雪が降っていた。

SL広場にはこれから楽しい飲み会なのか、こんな天候にも関わらずたくさんのスーツ姿の集団がいくつも出来上がっている。社会人様は大変なものだ。

その中でひとり、真っ黒のスーツ、真っ黒のコート、真っ黒の傘で狩尾が来るのを待つ。雪がボタボタと傘を打つ音も、周囲の喧騒のひとつひとつもやけにはっきりと耳につく。

ここから少し歩いた場所にちょうどいい喫茶店があるのだ

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case01-08: 事実

窓の外はますます強くなる雪。
狩尾の話は続く。

「最初に借りた2万円のところは週おきに1万円でジャンプするか、3万円で完済です。次に借りたところは5万円借りて、そこは利息3万円でジャンプできます。完済には9万円必要です。バイトは日払いで貰えるのでジャンプ分はなんとかできてたんですが、最近は娘が体調崩したり、お店もヒマになっちゃってる日も多くて…」

ジャンプという単語まで使うようになったか。

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case01-09: 共闘

翌日の朝、快晴にもかかわらず寝起きは最悪だった。理由は昨晩、ひとりで似合わないことに飲んでしまったことだけではないのだろう。マッカランなんて、がぶ飲みする酒じゃないのは流石に分かっている。

酒臭い溜息に顔をしかめながら起き上がると、まずはエサ皿にカラカラとキャットフードを入れる。ソファの奥からトコトコと、この時に限っては愛想よく歩み寄ってくる。かわいい黒猫である。

(債務者じゃあるまいし、

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