【掌編小説】机上の合コン

その日の夜も、性懲りもなく、あたしは合コンの席にいた。
小洒落た居酒屋の個室。女三人、男三人の男女で向かい合っている。
こっちから見て、女のほうは、右からバンドマン、会社員、会社員。男のほうは、右から大学院生、大学院生、会社員。
あたしたちは高校時代の先輩後輩の仲だけど、どうやら向こうは、ネット上で最近知り合った仲らしい。それであんなにも打ち解け合っているのだから、人との出会い方、友だちのつくり方というものは本当に多種多様だということを痛感する。
こうして同じ場所に集えた奇蹟に感謝して、今宵は目一杯楽しもう。

その日の晩、ぼくは初めて、いわゆる「合コン」と呼ばれる飲みの席についた。
小洒落た居酒屋の個室に、男性三人、女性三人の男女で向かい合っている。
男性陣の服装は、ぼくは私服だが、他二人はスーツを着ている。女性陣はみんな魅惑的な私服で、肩や胸を大胆に露出させ、正直、眼のやり場に困ってしまう。女性と喋るのはあまり慣れていないし、場が盛り下がらないように上手く会話に参加できるか不安だ。
普段は人と話す機会が滅多にないから、緊張するなぁ……。
でも、せっかく森田が誘ってくれて、こうして人と話す機会をもらったんだ。今夜は精一杯楽しまなくては。

和やかなムードでスタートした合コン。
向かって一番右に座る男から、時計回りに軽く自己紹介をした。やはり、こうして実際に面と向かって話してみると、事前に抱いていた印象とは随分と異なる。
「良い声ですね、歌とかめっちゃ上手そう」
あたしが自己紹介を終えた時、正面に座る男が言った。
「あはは、ありがとうございます。でも、歌は全然、人前じゃ恥ずかしくて歌えないですよ」
歌うことは好きなのだが、音痴を自覚してからは、めっきりカラオケにも行かなくなってしまった。その代わり、高校で始めたギターには今も熱中していて、毎日欠かさず弾き語りをしているほどだ。
動画配信サイトにこっそり弾き語り動画も載せている、なんてことを明かしたら、彼は驚くだろうな。下手くそだから別に言わないけど。

やはり、森田は雑談が上手い。
踏んできた場数が違う。誰のどんな発言でも、絶妙な返しで笑いに繋げられる会話術が羨ましい。本気で出逢いを求めている、というよりも、単純に合コンという雰囲気の中で人と話すのが好きなのだろう。
森田に声質を褒められた女性は謙遜していたが、心ではまんざらでもないような顔をしている。とりあえず適当に褒めとけばいい、というわけではなく、森田は一人ひとりの特徴を捉えて、心から思ったことを言葉にしているのだ。そんなふうに相手のことを見る癖は、ぼくも見習わなければならない。
森田のペースでゆったりと会話を楽しんでいると、ぼくの携帯に着信があった。
「あー、ごめん。ちょっと外すわ」
ぼくは謝って、個室を出た。

「なんの電話だろう」
「実は彼女持ちとか?」
「いやいや、あいつに限って、それはないよ」
マサキさんとリンさんが探り合っていると、あたしの正面に座る男が和やかにそれを否定した。
するとその時、ユウキさんの携帯にも電話が掛かってきた。
「あー、はい、もしもし」
ユウキさんは口元を手で隠しながら、その場で電話に応対した。そして、「はい、はい」とか「ありがとうございます」とか「はい、よろしくお願いします」とか頷きながら反応を返して、嬉しそうに電話を切った。
「なんの電話でした?」
とあたしが問うと、
「新しい依頼が舞い込んできてて、その先方からの挨拶の電話だった」
とユウキさんは笑った。

電話を終えて個室に戻ると、ぼくの正面に座っている子が、ジョッキに注がれたビールを豪快に呷ったところだった。
一段と盛り上がっている。どうやら、森田の悪ノリに、彼女が付き合わされているらしい。まあ、本人も嬉しそうに応えているし、心配は無用だろう。
「なんの電話だった?」
と森田に訊かれ。
「ああ、仕事仕事」
とぼくは軽く答えた。
「バイト?」
「違う違う、最近始めたんだ。パソコンでね、ちょっとしたゲーム作ってる」
先ほどの電話は、幼馴染でもあり仕事仲間でもある奴からで、制作中のゲームの楽曲提供を依頼したバンドから承諾を得たという報告だった。もう向こうには伝わってるから、と電話番号を言い渡されそちらに掛け、電話越しに出た女性と軽く挨拶を交わした。
「あれ? 大学院は?」
「そっちもやってるよ」
「すごい、二足の草鞋わらじじゃん」
と、隣で胡坐あぐらをかいているマサキが大袈裟に褒めるものだから、ぼくは反応に困ってしまうのだった。

そんな二人の掛け合いを見て、
「俺も就活頑張らないとな」
と、あたしの隣に座るリンさんが呟いて、

「大丈夫だよ、上手くいかなかったらまたバンド組もうぜ」
と、ぼくの正面に座る子が弱気な彼の肩を叩いた。


昨夜は随分と飲んでしまった。
やはり、合コンというのは楽しい。呼ばれたらつい参加してしまうから、毎度二日酔いで苦しむことになる。

昨夜は随分と飲んでしまった。
初めての合コン。異性との会話は、可もなく不可もなく立ち回れたんじゃないだろうか。

ところで、記憶があやふやなのだけれど、合コンの席にいた六人の位置関係が思い出せない。

マサキの正面に座っていた人は何をしている誰で、

あたしの正面には誰がどんな服装で座っていて、

ぼくの次に自己紹介をしてくれた子は何をしている誰で、

あたしは何番目に自己紹介をして、

声質を褒められた子の職業ってなんだっけ?

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