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【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん

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ガマ子(羽賀真子)と爬虫類女子ムヨクさん(余公三久)の日常を描いた、のんびり連作掌編。創作継続のモチベーション。不定期更新。
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2023年7月の記事一覧

【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第6話

【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第6話

6 二人でランチデート ②

開け放った窓から涼風が吹き抜けて、青々とした夏草の香りが車内に舞い込んでくる。
さらさら、さらさらと靡く森の騒めき。その空気に溶けて混じる微かな川のせせらぎは、間もなく訪れる盛夏の到来をそわそわと待ち侘びているみたいだった。
崖側の並木が途切れると、どこまでも澄み渡った快晴の青に、手を伸ばせば掴めそうな綿雲がひとつ浮かんでいた。写真に収めたいという欲を惜しんで、握るハ

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【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第5話

【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第5話

5 二人でランチデート ①

自然の摂理に葛藤するムヨクさんに少しだけしんみりしてしまった頃、ようやくタッピーがご飯の山を半分ほど平らげた。
「じゃあ、そろそろ行きましょっか」
すると、気を取り直すように手を叩いて、ムヨクさんが明るく言った。
「え、まだ結構残ってますよ?」
「それだけ食べてくれれば、とりあえずは大丈夫だよ。自力で食べる練習もしてほしいし」
「き、厳しい……」
「メリハリつけてシャ

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【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第4話

【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第4話

4 タッピーとムヨクさん

さらりと凪いだ湖のように穏やかだった我をも忘れて、その内側から滲んだ野生の本能を存分に曝け出し、際限なく湧く食欲の儘に猛然とムヨクさんの指先から餌を喰らうタッピー。
それは眺めていて、実に、愛くるしいものであった。
「はぁーい、タッピー……あぁ、食べれたねぇ、よくできました! うんうん、上手いねぇ、偉いねぇ、美味しいねぇ!」
ムヨクさんはタッピーが細かく刻んだ野草の欠片

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【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第3話

【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第3話

3 ガマ子、名付け親になる

人間の言葉が通じない動物に嫌われるということは、案外、人間に嫌われることよりもショックだ。
しかも、相手は哺乳類でもなく、さらに種として縁遠い爬虫類。より万種共通の、根源的な生理的嫌悪を向けられたような気がしてならない。コハクちゃんは重たそうな甲羅をものともせず、ムヨクさんを追って庭を走り回っている。
「ほんとに、ムヨクさんによく懐いてるんですね」
私は縁側で膝を抱え

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【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第2話

【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第2話

2 嫌われ者のガマ子

季節を三ヶ月ほど前倒ししたかのように、ムヨクさん宅の居間は温かいを通り越して、仄かに蒸し暑かった。
空調が利いている。天井を見上げると、そこには長方形のスリムなエアコンが埋め込まれていた。外界の気候とは切り離された、動物園の爬虫類館をそのまま再現したかのような環境に、思わず感嘆の溜息が洩れる。
「あ、ガマ子ちゃんって、ペット大丈夫?」
ギリギリ手遅れのタイミングで、ムヨクさ

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【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第1話

【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第1話

1 爬虫類女子

紆余曲折があった。
この春に自主退職して会社を去った元同僚である余公三久さんのお宅にお邪魔するに至った経緯は、ひどく複雑怪奇を極めるものであるため、その詳細に関する記述はこの程度にとどめておくことにする。

余公三久さんは、「ムヨクさん」と呼ばれていた。「公」の字を片仮名の「ハム」とし、「久」の字の最後の一画を「三」の字の右端に立てると、「余ハムヨク」と読むことができるからである

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